深川麻衣さん×冨永昌敬監督【前編】「ぶぶ漬けどうどす」“よそさん”視点のシニカルコメディ

今回のゲストは、来る6月6日に全国公開となるオール京都ロケ映画「ぶぶ漬けどうどす」で主演を務めた俳優・深川麻衣さんと、前作「白鍵と黒鍵の間に」が海外でも高い注目を集めた冨永昌敬監督です。おふたりの対談の場は物語の舞台の中心となった実在の扇子専門店『大西常商店』(作中は『澁澤扇舗』)。濃密な時間を過ごした懐かしい町家で、撮影について振り返ってもらいました。

京都に染まっていく“よそさん”を体現

題名で一目瞭然。「ぶぶ漬けどうどす」は、本音と建前を巧みに使い分ける“いけず”文化ゆえに引き起こされる、生粋の京都人VSよそさんの攻防を描いたシニカルコメディです。

「ぶぶ漬けどうどす」スチールイメージ
物語はライターのまどか(深川さん)が、取材のために夫の実家である京都の老舗扇子店『澁澤扇舗』を取材するところから始まる。“老舗の暮らし”を取材するべく、義母であり女将の澁澤環(室井 滋)や、街の女将さんたちに話を聞きにいくが、“本音と建前”の文化を甘く見たことで、みんなの怒りを買ってしまうことに。それでも「京都の正しき伝道師」として盲目的に努力を重ねたことで、自体は思わぬ方向へと転がっていく。
ⓒ2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会

――実際に「ぶぶ漬けどうどす?」って言われた経験をもつ人はほとんどいないにもかかわらず、京都=いけず=ぶぶ漬けというイメージは根強いです。
東京に住むライターのまどかは、コミックエッセイ『京都老舗赤裸々リポート』の取材のため、憧れの京都で暮らしながら周囲の人々に取材を重ねていくわけですが……物語が進むに従って“京都味”が強くなっていくキャラクターを演じる上で、どんなことに気をつけておられましたか。

深川麻衣(以下、深川)
私が演じたまどかは、周りから言われたことを鵜呑みにしすぎて女将さんたちに迷惑をかけてしまい、「なんでも言葉通りに受け取ったらあかんで」という忠告を受けて、じゃあ何を信じればいいんだろう? と戸惑うばかりだったのが、いつの間にか、自分がされたことを他人にしていくようになっていきます。
女将さんたちに囲まれていろいろ言われた言葉だったり、そのときの空気感だったり。そういう変化が、ゆくゆくは“京都の敵”とみなした上田さん(不動産業者・上田太郎=豊原功補)を追い詰めていく彼女の行動へと上手く繋がればいいな、と意識していました。
深川麻衣さん

「ぶぶ漬けどうどす」スチール
左/まどかの指南役となる竹田 梓(片岡礼子)が女将を務める京料理店『おたけ』は、『たん熊 北店』がロケ地に。右/実は東京出身という設定の上田太郎。「生粋の東京人に演じてもらいたくて、歌舞伎町出身の豊原功補さんにオファーしました」(冨永監督)
ⓒ2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会
深川:
初めてここ(居間)で理由も分からずお赤飯を食べているときに、お義父さん(澁澤達雄=松尾貴史)とお義母さん(澁澤環=室井滋)が行っちゃった後で「おいしい」って呟くんですが、物語のラストでも同じセリフがあって。食べてる物は同じなんだけど、それぞれの「おいしい」の異なるニュアンスで、人が変わったような印象を生み出せたら面白いかな、と思いながら演じていました。
「ぶぶ漬けどうどす」スチール
毎月1日と15日にはお赤飯を食べるという謎の風習を不思議がるまどか。
ⓒ2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会
冨永昌敬監督(以下、冨永):
まどかは、よく立場を変えて同じことをするキャラクター。初めは彼女がインタビューする側だったのが、たまたま店番していたときにテレビ局のクルーが来ちゃってインタビューされる側になってたり。立場がコロコロ変わることでまどかの中身がブレていくのも、見どころのひとつだと思います。
冨永昌敬監督

親しみが持てる主人公に

――盲目的な京都への愛ゆえにメンタル強め女子へと変化していくまどかを、見事に演じ切っておられましたね。

深川:
撮影に入る前に監督から「まどかを、応援してもらえるような人物にしたい」と言われました。ミイラ取りがミイラになるような、ちょっと皮肉めいた面白さがある本作は、まどかが周囲を引っ掻き回してハイ終わりでは、その面白さが半減してしまうなと考えていたので、どうしたら観ている人にまどかを愛してもらえるか——その塩梅については、前以て話し合いを重ねました。
冨永:
まどか役はぜひ深川麻衣さんにと考えていました。
深川さんはサスペンスやコメディなど、役柄は異なっても目つきと声が一貫しているんです。幅広いキャラクターを誇張なく表現できる俳優です。
まどかは作中で変身しますが、何もかもガラッと変わるんじゃないんです。深川さんなら、いつも会ってる友だちが最近ちょっと変わったみたいに、観る人が親しみを持てるよう演じてくれると確信していました。
深川麻衣さん、冨永昌敬監督

監督の演出は「玉手箱みたい」

――深川さんから見た冨永監督は、どんな監督さんですか?

深川:
何にも当てはまらないというか……初めてお会いするタイプの監督さんですね。大きく分けるとしたら、ホン(台本・脚本)があるときから撮りたい映像が明確にある方と、お芝居を見ながら現場でカット割りなどを決めていく方がいると思うんですけど、冨永さんは後者寄りの両方です。
深川麻衣さん
深川:
こう撮りたいという想いはありつつも、置かれている物とか状況とか、私たちのお芝居を見て、その場その場で瞬時に判断してくださる。
しかも、その演出が、現場にいる誰もが思いもよらない、えっ!? てなるようなアイデアばかりで。そんな冨永さんの発想に少しでも近づきたくて、このシーンだったらこういうことができるかな? という可能性をいくつか考えて撮影に臨むんですけど、それらが全部ちっぽけに思えてくるくらい、隕石みたいなものがドン! と降ってくるんです。それがすごく刺激的で楽しかったです。
まさに玉手箱みたいな撮影でした。
冨永:
それは嬉しい言葉ですね。

――例えば、どんなシーンですか?

深川:
本当にたくさんあるんですけど……。最初にビックリしたのは、中村先生(大学教授・中村航=若葉竜也)に対しての演出です。撮影前に古民家のスタジオで読み合わせで、一度ふたりで読んでみた後に、冨永さんが「中村先生、語尾を全部『~ですよ』にしてもらっていいですか」って仰って。それまで普通の喋り方だったのに、急に「ですよ」を付けたことで、またひとつ中村先生のキャラが立ったというか、個性が表現されたのには驚きました。
「ぶぶ漬けどうどす」スチール
まどかを応援する中村教授も、物語に欠かせない強烈なキャラクター。
ⓒ2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会
冨永:
若葉くんが早口になってね。
あれは、竜也が最初の本読みのときに「ふ~ん」ってかんじで。なんかパッとしないんですよね。そんな彼を見ながらヘンなことしたくて来てるんだろうと思ったので、話し方を少し変えるように仕向けてみたら、前のめりになって、独自のテンポを生み出してくれました。

――映画を観てから記事を読むか、読んでから映画を観るか……迷うほどの撮影裏話は、後編でもまだまだ続きます。

【作品名】ぶぶ漬けどうどす
6月6日(金) 全国公開
【公式サイト】https://bubuduke.jp
【X】@bubuduke_movie
制作・配給:東京テアトル

profile

深川麻衣さん

俳優

深川麻衣

1991年生まれ、静岡県出身。2017年、初となる主演映画「パンとバスと2度目のハツコイ」で第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。以後、数々の作品に出演し、「おもいで写眞」(2021年/イオンエンターテイメント)、「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(2023年/日活、KDDI)、「嗤う蟲」(2025年/ショウゲート)で主演を務める。その他、「特捜9」シリーズ(2022年~/テレビ朝日)、「彼女たちの犯罪」(2023年/読売テレビ)などのドラマ、舞台や朗読劇など多くの場で活躍している。

冨永昌敬さん

映画監督

冨永昌敬

1975年生まれ、愛媛県出身。日本大学藝術学部映画学科卒業。「パビリオン山椒魚」(2006年/東京テアトル)にて長編商業映画デビュー。主な映画作品に、「コンナオトナノオンナノコ」(2007年/アムモ)、「パンドラの匣」(2009年/東京テアトル)、「乱暴と待機」(2010年/メディアファクトリー、ショウゲート)、「南瓜とマヨネーズ」(2017年/スターダストピクチャーズ)など。前作「白鍵と黒鍵の間に」(2023年/東京テアトル)は、フランスのKinotayo映画祭コンペティションにて審査員賞を受賞したほか、Japan Cuts(ニューヨーク)、台北金馬映画祭、香港国際映画祭などに正式出品され、高い注目を集めた。

対談&インタビュー

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writer

椿屋

tsubakiya

映画は「ひとり、劇場で!」がモットーの映画ライター。2024年鑑賞数は267本。人生の映画ハシゴ最高記録は1日7本。各媒体で、着物・グルメ・京都ロケ地といった切り口のレビューを担当する。超大作から自主映画まで、ノンジャンルな雑食。