
人生の特別な思い出と。「ライオンのおやつ 」/正和堂書店のおすすめ
第8回は、小川 糸さんの「ライオンのおやつ」です。死を扱うテーマに、「最初はどんな気持ちで読んでよいのか、なかなか定まらなかった」という小西さん。読み進めるにつれて思い出がぶわっと蘇り、大切な人に特別なおやつをプレゼントしたくなる、そんな1冊。
contents
ライオンのおやつ (ポプラ文庫) 小川 糸 ・著
もし自分の人生に残された時間があと僅かだとしたら、最後に食べたいおやつは何ですか?
今回ご紹介させていただく「ライオンのおやつ」は、誰しもに平等に訪れる人生の終わりを、あたたかく描いた物語です。
若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島にあるホスピス「ライオンの家」で残りの日々を穏やかに過ごすことを決めます。
ホスピスでは毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのですが、雫はなかなか決められずにいました。
物語を通してゆっくりと丁寧に描かれるのは、雫の死に向き合う心情です。
雫が病を受け入れられず、悲しみ、怒り、葛藤し受け入れ、感謝し、悟り、それでもまた心に嵐がやってきて…。
振り子のように揺れる気持ちが、痛いほどに伝わってきます。
ただ、死という重いテーマを扱っている物語なのに、最後はキラキラとした優しい満ち足りた気持ちになるのです。それは、雫をはじめ入居者達が、命が尽きる瞬間まで人生を目一杯味わい、生き切ったからでした。
雫は「おやつの時間」に父との思い出のおやつをリクエストしますが、「それはまさしく私の人生を象徴するようなおやつに思えた」と表現しています。
自分だったら、何を選ぶだろう。祖父母が餅米と小豆から作ってくれたぼた餅。母と一緒に作ったホットケーキやドーナツ、娘と一緒に作るクッキー……。たくさんあって、決められません。
でも、これまでの人生を振り返っておやつを選ぶ作業は、それぞれのおやつにある自分だけのストーリーを思い出し、じんわりあたたかい気持ちになるのでした。
人生が終わる瞬間はどんなものか分からず怖いけれど、
雫のように最期に自分の人生を祝福できるなら。
今はもう会えない親しい人にまた会えるなら。
死を迎えることへの怖さが少しだけ軽くなり、その時まで精一杯今を生き切ろうと思わせてくれました。 死を描くことで、生きる力強さや美しさを際立たせた物語。人生の大切なおやつを思い出しながら読んでいただきたいです。

writer

正和堂書店
seiwado book store
大阪・鶴見にある1970年創業の街の本屋さん。3代目の小西康裕さんが「読書時間がより楽しくなるように」とデザインしたオリジナルブックカバーが大人気。2代目の典子さん、3代目の康裕さん・敬子さんご夫妻(と4歳の長女)、康裕さんの弟・悠哉さんなど、一家で奮闘するSNSの総フォロワー数は20万人!
instagram@seiwado.book.store
recommend