
自分と向き合う “ご自愛タイム”/黒沢祐子【食べる門には福来たる】
だからこそ、本当は一番大切にしたいはずの自分の心を置き去りにしがちです。自然体で丁寧な生き方にファンの多い、ウエディング・ライフスタイルプロデューサーの黒沢祐子さんに、「食」を軸に自分を喜ばせるためのヒントを教えていただく連載「食べる門には福来たる」。第1回は、黒沢さんご自身の大きなテーマでもある「自愛」についてです。
「ご自愛ください。」会話やメールで、私たちは気軽に使っているけれど、自分に向けたことあったかな? そんなあなたに。
コロナ禍が自分と向き合うきっかけに
「自愛」の大切さに気づいたのは、コロナ禍がきっかけでした。世界が激変しただけじゃなく、私個人としても変化の時期だったんです。
長らく東京の港区という都会に住んでいました。職業的に人付き合いも多かったし、ご縁で生きられていることに今も感謝しています。でも、「本当はちょっと休みたかったんだけどな」と心の底で思いながらも、お誘いをいただいたからには顔を出さなきゃ……なんてことも積み重なっていたんですよね。
次々に人と会うことも当時は大事なことだったんですが、コロナ禍でふと立ち止まってみたことで「私、結構無理してたんだな」と気付くことになりました。自分という存在が本当は一番大切なのに、忙しさにかまけて自分と向き合う時間を潰してきたのかもしれません。
また、シャワーのように大量に降ってくる情報やSNSに振り回されることも。「隣の芝は“一生”青い」と私は思っているんですが(笑)、それでも今置かれている場所や環境は自分にとって幸せではないなと。そこで一旦ここから離れて、「自分が本当に心地いい・幸せだと思えるものって何なのか?」ということに向き合おうと決めました。そして鎌倉への引っ越しを決めて、山の近くにある一軒家に3年半ほど住むことになったんです。
穏やかな“凪の状態”をつくろう
鎌倉に引っ越したことで、生活はこれまでと一変。自然と隣り合わせの生活になりました。朝起きると鳥の声がして、リスや猫やいろんな動物がやって来るんですよ。海まで歩く途中で朝日や富士山を見て1日が始まる、そんな生活をしていました。
どういうふうに生きていきたい?何が食べたい?誰と付き合いたい?
そんなことをじっくりと見つめるようになったことで、なんだか周りがどうでも良くなったというか(笑)。自分の嫌なところもたくさんあるけれど、それも含めて許し、愛し、一緒に生きていくっていうことが大切だと思えるようになりました。
私もこれまで感情の波がすごくあったんですが、静かな日々を送っていると、穏やかな凪のような状態でありたいと願うようになったんです。
そのために必要なのは、自分の心のリカバリーする術を持っておく、自分の心がハッピーな状態になる方法を知っておくことだと思うんです。 自分の心に嘘をつかない心地いい状態であることが「自愛」なんだと思います。
好きな器と飲み物で、5分のご自愛タイム
以前の私のように、心の違和感に気付きがらも蓋をしている人も多いと思うんですよね。
ただ、頑張ることは悪ではないですし、何かを達成したいときには普段以上の力を使うことも必要。だから、それ以外のところで無理をしている心の声に気づくことが自愛のスタートかもしれません。
自分の心と対話をするのって、実はそんなに難しくないこと。私の場合は、歯を磨いた後にお気に入りの器でお白湯を飲み、お香などでリラックスして1日を始めることもその一つです。
家族構成や状況によってはなかなか自分の時間が取れないかもしれないけれど、例えばいつもより5〜10分だけ早起きして、お気に入りの飲みものと一緒に今の自分に向き合うことを習慣にするというのはどうでしょうか。
朝起きたときの天気や空気感を感じながら、その日の気分で飲み物をセレクトするのもポイント。お気に入りを複数ストックしておくのがおすすめです。
「今日はちょっと肌寒いし喉がイガイガする」という日なら、生姜を多めにしたチャイにしてみよう、とかね。
自分の心に合わせて飲みものや食べもの、器を選ぶ。そんな自愛の時間って楽しいんです。これをルーティーンにすることで、「あれ?意外と昨日のことを引きずっているんだな」とか、心の些細な変化もキャッチできるようになりますよ。
食べることは生きること!
ところで、私はめちゃくちゃ食いしん坊なんです。30代の頃は一年のほとんどが外食でした。
もちろん今もレストランでの食事は好きなんですが、自分で調味料を作ったり、ファーマーズマーケットで推しの農家さんの野菜を買ってごはんを作ったりすることに心の底から幸せや喜びを感じています。これも立派な自愛ですよね。先日も、なめこ農家さんが初めてマーケットに来ると知って足を運びました。自宅で調理して食べたんですが、超幸せでしたね(笑)。
もちろん、忙しいときはお惣菜に頼るという方もいらっしゃると思います。ちょっとお皿に移す手間を加えるだけでも美しくおいしそうに見えますし、もし罪悪感を持ってしまうという人がいたら自分を責めないでほしいですね。
こうして自分を喜ばせる小さな自愛がやがて大きくなって、幸せな人生につながるはず。しかも、余裕ができることで目の前の相手のこともハッピーにすることだってできるんですよね。だから私は、誰かを自宅に招いておもてなしすることも大好きです!
私の親は食を大切にする人でした。「人」を「良」くすると書いて「食」という字になりますが、食事はエネルギーを摂取するという意味だけではなく、大切な人と笑顔で味わい、その時間を楽しむこと。生きる本質なんだと教わりました。
食べることに貪欲な私は、きっと生きることにも貪欲なのかもしれません。
writer

黒沢祐子
yuko KUROSAWA
ウェディング・ライフスタイルプロデューサー。
東京、神戸で7年以上ウェディングの現場を経験し、「より密にお客様と対峙したい」という思いから、2008年よりフリーランスへ。会場探しから共に行うスタイルが好評で、2016年にYUKOWEDDINGを設立。現在までに1000組以上のカップルを担当する。
一方で、2020年の鎌倉移住をきっかけにライフスタイル事業をスタート。現在は東京を拠点に、美容、ファッションなど総合的にプロデュース。2022年より、プライベートサロン「Y’s room」を主宰。
instagram@yukowedding
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