
涼を呼ぶ個性豊かな「鮎菓子」11種を身体測定!【前編】
7月、8月まで販売し、HPなどで販売しているところも多いので、気になる鮎はお取り寄せしても。
そもそも鮎菓子とは
鮎菓子は、どら焼き風の生地や薄焼きのカステラ生地で求肥やあんこを包んだ「調布」と呼ばれる和菓子の一種です。
鮎に見立てたものが特に銘菓として根づいているのが、長良川のある岐阜や、桂川・鴨川に挟まれた京都、出雲平野を潤し宍道湖に流入する斐伊川を有する島根・松江などの清流に恵まれた地域。
中身は関西だと白の求肥が主流ですが、あんこの入ったものや、柿や栗、青のりなどを求肥またはあんこに混ぜたものなど、地域ごとの個性も愉しみのひとつ。
お店の暖簾を守る職人たちが、それぞれの想いを込めて仕上げる鮎菓子には、その土地、その河川ならではの物語が宿っているのかもしれません。
1匹ずつ、お顔が違う?!
型に頼らず、銅板や鉄板の上に生地を広げていくところから、とにかく職人技の連続です。
楕円形やひょうたん型など、均一な形の生地に焼き上げられていく様子はフリーハンドとは思えぬほど。
亀屋良長 「ずっと見ていられるシリーズ 鮎調布」
彩雲堂 「若鮎の製造」
求肥を置き、半分に折りたたむと、職人の手で一匹ずつ鮎の形に整えられます。
焼印や焼ゴテで目や口、ヒレ、筋模様の細やかな柄を刻み込む工程は、多くのお店が一匹ずつの手作業。店ごとに意匠が異なるのはもちろん、同じお店でも少しずつ表情が違うところにも注目です。また、焼印はデザイン面だけでなく、焦げによる香ばしさをプラスする役割もあります。
販売期間は4月から8月が一般的
個性豊かな見た目だけでなく、「若あゆ」「上り鮎」「かつら鮎」「鮎調布」「稚鮎」などの菓銘でも涼を感じさせてくれる鮎菓子の旬は、天然鮎のシーズンよりもやや前倒し気味の4月から8月が一般的です。
6月は各店の鮎菓子が出揃う時期。百貨店の特設コーナーで食べ比べ企画が催されたり、老舗の鮎菓子詰め合わせの通販があったりするので、気軽に違いを楽しむのなら、まさに今が絶好の機会です!
まずは、そうそうコレ!な王道系
前編では、「プレーンな求肥を卵・小麦粉・砂糖をベースにした生地で包んだ」王道タイプを5種、ご紹介します。なお、体重はパッケージを除いた本体のみ、身長はフォルムのカーブに沿ったものではなく、直線距離での計測とします
たねや「稚鮎」|滋賀
「稚鮎」という菓銘の通り、初夏の琵琶湖に泳ぐ、成魚になる前の鮎を小ぶりなサイズで愛らしく表現している。
顔やヒレなどの模様はフードプリントで、表情も数パターン用意されているのも遊び心が感じられる。焼き印によって生地に焦がし風味のアクセントを加えるのではなく、焼き皮全体を香ばしく仕上げているのが印象的。はちみつと味醂の効いた生地のしっとりふんわりとした口当たりと、求肥の歯切れの良さも好バランス。8匹入りの涼しげな編みカゴ風の紙パッケージは、そのままお使い物にできる上品なデザインで重宝しそう。2025年は7月下旬までの販売予定。
たねや公式サイト
大極殿本舗「京 桂川 若あゆ」|京都
今回の最高身長をマークしつつも、腰の細さにネーミングの説得力が宿る「若あゆ」。
もし、鮎菓子の骨格診断があるならば、間違いなく「骨格ウェーブ鮎」だろう。どちらかというと下重心で、筋肉質なハリよりも柔らかさを感じる求肥ボディ。
ビジュアルも個性的で、エラを焼印ではなくカステラ生地の「ひだ」で表現しているのが特徴。これにより意匠面だけでなく、エラ下から尻尾のくびれまで入った求肥をぴったり包み込み、乾燥から防ぐ役目にも優れている。
パッケージは赤福の掛け紙などでもお馴染みの版画家・徳力富吉郎の手によるもの。むっちりとろんと柔らかい求肥と、卵の力が際立つ生地の妙にカステラの名店の技を感じる一品。2025年は8月下旬まで販売予定。
大極殿本舗公式Instagram
三英堂「清流菓 あゆ」|島根・松江
尻尾の付け根がキュッとくびれた、メリハリのあるグラマラスボディの「あゆ」。
ふっくらと焼き上げられた生地に顔と胸ヒレの焼印。つぶらな瞳とムンと引き結んだ口の、上向きフェイスが愛おしい。白さらし餡や山芋も生地に混ぜ込まれているからか、柔らかさの中にも弾力があり、こちらは「骨格ストレート鮎」といったところか。
やや甘めの味わいながら、食べた印象としては重くならない絶妙なバランス。台紙入りのパッケージで、型崩れの心配がなく、台紙には鮎にちなんだ俳句がさりげなくプリントされているのも心和む演出。販売は7月上旬まで(直営店のみ)。
三英堂公式サイト
彩雲堂「若鮎」|島根・松江
背中をぐいんと反らせて元気よく飛び跳ねているフォルムが特徴的な「若鮎」。毎年、若鮎担当に任命された職人がシーズンを通して一人でつくっている。この独特な形は、ひょうたん型に生地を広げ、求肥を置いてからひねり上げるように包む手しごとのなせる技。一人前のお墨付きには、少なくとも3年はかかるといわれている。
この子も、やはり「骨格ストレート鮎」。松江生まれの鮎は腰の位置が高いのが特徴かもしれない。同店の銘菓「若草」を思わせるもちもちの求肥がお腹の部分に入っている。頭と尻尾はハリのあるどら焼きタイプの生地を愉しむ一品。2025年の通販は終売。直営店舗では6月末までの販売予定(在庫状況によって早期終了の場合あり)。
彩雲堂公式サイト
菓匠 千鳥屋宗家「鮎」|大阪
すとーん、と真っ直ぐな見た目を裏切る、やわやわふるふるなボディのギャップが印象的。左右対称なフォルムに加え、顔・背の筋・尾ビレと焼印が施されており、求肥も頭から尻尾まで偏りなく入っているので、どこから食べても、同じ香ばしさに出会えるのが秀逸。
皮や求肥は、柔らかめの食感が個性的ながら、風味は「T H E・鮎菓子」。いい意味でストライクゾーンが広めの優等生タイプ。これまで食べたことがない人にすら懐かしさを抱かせる、川沿いの温泉旅館の客室菓子の如き安心感がある一品。2025年は8月末まで販売予定。
菓匠 千鳥屋宗家公式Instagram
後編へ続く!
王道系といいつつ、それぞれ見た目も食感も味わいも異なる鮎たちでしたが、続く後編では、皮生地の味わいや白の求肥以外が入った個性的な鮎菓子を6種ご紹介します。

writer
かがたにのりこ
kagataninoriko
月に2度、あんこを炊くあんこ熱愛ライター。各種媒体での和菓子に関するインタビュー記事やコラムを執筆。ライティングの他にも、あんこの食べ比べワークショップや、和菓子イベントのコーディネート、商品プロデュースなど活動は多岐にわたる。
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