
「福井県 敦賀・若狭フェア」に向けて 料理人たちの産地訪問
クオリティを高め続ける養殖魚
初日、朝一番で訪ねたのは小浜市『小浜海産物』。「小鯛ささ漬」で知られる総合水産会社ですが、シェフたちは、同社が手がける養殖魚、近年ネームバリューを高めつつある「ふくいサーモン」や、完全無投薬・酸素ナノバブルによる陸上養殖で育てる「八百姫(やおひめ)ひらめ」にも注目。執行役員・福本泰生さんの解説に耳を傾けていました。スイスホテル南海大阪『ワイン&ダイン シュン』の森田シェフは「ふくいサーモンと、若狭特産のトマト『紅い鈴』をバジル風味の串揚げにしたら美味しそう」と早くも構想に取りかかっていました。
豊かな旨みのチーズや鯖へしこ
お次は、ランチも兼ねて小浜のイタリアン『ラ ヴェリタ』へ。シェフの杉崎由浩さんは大阪などのレストランで修業経験のあるシェフでありながら、自店でさまざまな種類のチーズを作られます。稲わらを食べて育った牛の乳から作るモッツアレラチーズをはじめ、クセがなく香り高いチーズ料理を幾皿も出してくれます。『凌霄』の藤原 誠さんは「チーズをシラスと合わせて白和え風にしたり、猪を焼いてブルーチーズと合わせたり、チーズは和食でも使えますよ」と作戦を練っている様子。
また、杉崎シェフと交流の深い鯖のへしこ作り名人として紹介されたのが、民宿・釣り船『かどの』を営む角野高志さん。そのへしこは「脂のりが素晴らしいのに、くさみがなく塩気も柔らかい」と賞賛を集めました。
酸味柔らかなマイヤーレモン
続いて訪れたのは、高浜町・五色山公園で栽培される特産「うちうらレモン」の畑。ポピュラーな品種であるリスボン種に加え、オレンジなどの交雑から生まれたマイヤー種、タネやトゲの少ないビラフランカ種の3種、計約300本の世話を一手に受け持つのは、御年84歳の内藤達雄さんです。
料理人たちからは「ピールを塩漬けで発酵させて風味を見たいな」「丸ごと凍らせたのをミキサーにかけて冷たいトッピングに」「贅沢ポン酢にも」とアイデアが続々と。高浜町産業振興課の伊豆田智子さんも「マイヤーレモンをリカーに漬け込んでリモンチェッロを造ると美味しいんですよ!」。
若狭ぐじ中の若狭ぐじ、「極」
おおい町に移動して、「道の駅 うみんぴあ大飯」へ。ここでは、大島漁業協同組合・濱戸豊葵さんがブランド魚「若狭ぐじ」について詳しく教えてくれます。若狭湾(嶺南地域)で、魚を傷付けにくい延縄漁や釣り漁で揚がったアカアマダイ、そのうち、500g以上で鮮度管理が厳密に行われていると認定されたものが「若狭ぐじ」を名乗ることができます。さらにその中でも、800g以上で、活け締め・神経締めを施された最高品質のぐじは「若狭ぐじ極(きわみ)」という特別な称号を与えられます。その半透明に輝く甘みの強い刺身を試食したみなさんは「ウロコ付きで発送可能?」「仲買人に入ってもらうことは?」と濱戸さんを質問攻めに。セコガニやサワラなど、その他の特産魚介に大いに興味を示す人もいました。
滋味あふれる伝統のかぶら
次に一行が降り立ったのは、若狭町の田園地帯。同町・山内地区の伝統野菜「山内かぶら」を育てる飛永恭子さんが、小ぶりでひげ根が多く、いかにも在来品種の地野菜らしい生命力をみなぎらせる山内かぶらの魅力を、畑に入って伝えてくれます。
さらに、集落センターでは山内かぶらを使った料理の数々でおもてなしまで! 実と葉を使ったコロッケや餃子、葉の乾燥パウダーを使う唐揚げや、菜種を使う和風マスタードなど、実の甘み、葉の爽快な辛みを生かした品々に舌鼓を打つと、「味が濃いし、生で全然いけますね、乾燥はどうやっているんですか?」(スイスホテル南海大阪『テーブル36』の吉田シェフ)、「このかぶらと、さっきのレモンやサーモンでスープを作ったら抜群ですよ」(『オーボンモルソー』の久保シェフ)などから、コメントが相次ぎました。
エイジングの質も高いジビエ肉
日も暮れる頃、初日の最後に訪ねたのは美浜町の山あいにあるジビエ肉の加工場『BON1029』。代表・上尾航司さんは、ワナ猟にかかった鹿や猪のとどめを自ら刺し、30分以内にこの加工場へ運び入れる鮮度の高さをアピール。地元のフランス人シェフと考えを煮詰めたという平均1週間ほどのエイジング手法にも自信をにじませます。また、個体ごとに血液検査を行うなど品質管理にも万全を期しており、秋以降の猪は、京都のフレンチレストランなどで大いに引き合いがあるそう。
「骨付きで購入できますか?」「解凍は流水がベスト?」など、みなさん質問を繰り出しながら、2日目の試食会用に猪のロースなどを買い込んでいました。
越前かにも、若狭の魚も一軒で
2日目は、敦賀市『相木魚問屋』から。福井の冬の味覚を代表する、県沖で水揚げされるズワイガニを「越前かに」と名付けて商標を取得し、全国に広めた老舗です。カニをボイルするための巨大な釜が並ぶボイラー小屋に、みなさん漁師町・越前かにの町の歴史を感じているようでした。
鮮魚スペースでは、京阪神では見かけない魚種や、魚の安さにあちこちで声が上がります。藤原さんが「これは関西ではなかなか見ないね」と試食用にアイブリを購入すれば、スイスホテル南海大阪『日本料理 花暦』の花田シェフは「量が要るホテルとしては、冷凍の甘エビが気になります」と、各店で目当ての魚介を見つけていました。
冷たい海で締まる、旨い鯛
続いて、敦賀湾の浜辺で『中村旅館』を営みつつ、『マリンファーム ナカムラ』で養殖を手がける中村英樹さんのもとへ。浜の浮桟橋から漁船に乗って、ほんの100mほど沖に進めば、中村さんの養殖いかだが並びます。「若狭まはた」「敦賀ふぐ」「敦賀真鯛」などのブランド魚介を、区画あたりの飼育数を抑えて育てる中村さん。「水温の低い日本海側での養殖は、太平洋側に比べると成長が遅いので苦労は多い。でもその分、同じ大きさなら身質は上ですよ」と自信をのぞかせます。
陸に上がると、中村さんの息子さんが旅館でお昼を用意してくれていました。敦賀真鯛や若狭まはたの刺身、敦賀ふぐの炙りカルパッチョなど、締まった身から溢れる旨みに、花田シェフは「美味しいのはもちろん、どの魚も身の色まで実にいい」と賛辞を惜しみませんでした。
さあ、嶺南食材で大試食会
嶺南の生産者を巡る旅、その締めくくりは、視察の道すがら求めた嶺南の幸を使って、腕ききの料理人7人が腕を振るう料理試作です。
敦賀市のシェアキッチン『スタートアップベース』では、ここまでに登場した食材に加え、「ふくい甘えび」「杉箸アカカンバ」「名田庄漬け」、トマト「紅い鈴」、水力発電由来の電力で水耕栽培した「ゼロカーボン・レタス」なども加わって食材置き場は大賑わい。『凌霄』の森山さんがアイブリをおろし、『ル・プログレ』の梅谷さんが鹿モモ肉のスジ掃除を始めるなど、調理スタート。さらに敦賀のステーキレストラン『ぼたん亭』シェフの桒名裕輔さんが、福井のブランド牛「若狭牛」のヒレやイチボ、サーロインを持ち込んでゲスト参戦するにつけ、厨房には最高潮の活気が満ちたのでした。
出来上がった料理は、アイブリの造りと塩焼き、イチゴのソースで食べる鹿肉ロースト、脂たっぷりの猪肉ロースト、山内かぶらや肉厚椎茸のグリル、そして若狭牛のステーキと、嶺南のポテンシャルを凝縮させたような皿ぞろい。「うん、美味しいね」、「これとこれは味が違うね」、と感想戦を交わしつつ、フェアに向けての新メニュー構想をそれぞれがあたためるひとときとなったのでした。
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