「湖国 滋賀の幸 美食フェア」向けて 料理人たちの産地探訪

京阪神の飲食店や、複合商業施設の物販イベントなどで、よりすぐりの滋賀県産食材を使ったメニューが楽しめる「湖国 滋賀の幸 美食フェア(企画:あまから手帖)」。今回は、京都・大阪・兵庫の8つの飲食店で開催されています。 このフェアに備え、県内各地に散らばる食材の生産者を訪ねて回ろうと、去る11月、フェアに参加する6店から有志8名での、バスによる合同視察が行われました。
湖東の近江八幡から湖北のマキノ町まで、琵琶湖を半周以上しながら駆け足で生産の現場を視察し、生産者の声を聞く一日。フェアで提供されるお料理に使われている食材がどのように決まっていったのか、その過程の一部をお伝えします。

若き主が土作りにこだわる新鋭『継ノ農園(つぎののうえん)』

初めに訪ねたのは、愛知郡愛荘町の『継ノ農園』。病気の発生を防ぐ菌類にとって居心地のいいフカフカの土作りに力を入れることで、農薬や化学肥料をできるだけ使わず、「感動の追求」をモットーにさまざまな野菜を作る農園です。
主の村上大喜さんは、就農7年目の弱冠27歳。農業の師匠である岡部 明さんのアドバイスを仰ぎつつ、視察時のシーズンはラディッシュやスイスチャード、ルッコラなどを育てているところでした。
すでにレストランなど飲食店で採用されている信頼感もあり、参加者は「いま育てている品種は全部で何種類?」「2月ならオススメの野菜は?」と熱心に質問していました。

村上さん
木のチップを土に混ぜ、「納豆菌、乳酸菌、酵母などのいい菌に“陣取り”してもらう」のが土作りのセオリーと語る村上さん(写真左)。
継ノ農園
糖蜜発酵肥料や魚かすなどの肥料でアミノ酸を与えることで、野菜の甘みや旨みが増し、えぐみが減るそうです。
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佃煮から鮮魚までの“湖魚のデパート”『奥村佃煮』

続いては、近江八幡市の『奥村佃煮』へ。こちらは、琵琶湖産のホンモロコやワカサギ、ゴリなどの魚を佃煮や鮒寿司などに加工して販売するだけでなく、沖島の漁師さんとタッグを組んで鮮魚も取り扱う水産会社です。
加工場の作業台に大小のワカサギや、イサザ、スジエビ、ホンモロコなどを並べて魚種の解説をしてくれるのは、大石主任。「魚のサイズを揃えてもらうことはできますか?」の問いに、「4段階くらいのサイズ分けで対応できます」と答えられていました。

ホンモロコ
ホンモロコなど、繊細な美しさの獲れたて湖魚はいかにも美味しそう。
えび豆
甘辛い香りが立ちこめる加工場に隣接の直営店『近江佃煮庵 遠久邑(おくむら)』では、さまざまな湖魚の佃煮や湖北名物のえび豆、鮒寿司などが販売されています。
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設備充実・安価販売のジビエ加工施設『獣美恵堂(じびえどう)』

お次は、蒲生郡日野町の『獣美恵堂(じびえどう)』。ちょっと変わった屋号のこちらは、日野町の猟友会有志によって運営される、鹿や猪の解体処理施設です。
日野町の支援を受けているとはいえ、金属探知機や電解水生成装置、真空包装機など設備が充実しているのは、日野町有害鳥獣被害対策協議会の小川信久さん曰く「建築関係が本業の会員が何人かいて、施設を低予算で建てられたから」。その結果、販売するジビエ肉も安価に抑えられているのだそう。年間100~150頭の処理能力を持ち、大手カレーチェーン店のメニューにも採用実績のある『獣美恵堂』。試食用の猪肉を、みなさんじっくり確かめるように味わっていました。

獣美恵堂
仕留めてから30分~1時間程度で運び込まれる猪や鹿は、ノウハウ豊かな会員たちによって衛生的に解体されます。
獣美恵堂2
猪のバラ・ロース・モモやレバーパテ、スジ肉のしぐれ煮を盛り合わせた試食メニューにはくさみやクセがなく、みなさん感心していました。
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乳酸菌の可能性を模索するチーズ工房『信楽山田牧場』

続いて、甲賀市信楽町の『信楽山田牧場』へ。信楽高原に広がる牧場は「酪農教育ファーム」として一般に開放され、新鮮な牛乳をつかった多彩な乳製品やスイーツが人気を集めていますが、料理人にとっての関心の的はチーズ。
社長の山田保髙さんが、チーズ加工室で製造工程を詳しく解説してくれる言葉に、みなさん耳を傾けていました。こちらでは、チーズ造りに不可欠の乳酸菌を、鮒寿司の飯(いい)や京漬物のすぐき、梅酢など、さまざまな発酵食品から取り入れてのチーズ作りを進めています。「結果が出るのは仕込んでから半年先ですが」と言いつつも、楽しみにしている様子の山田さんでした。

信楽山田牧場
「チーズ作りの工程は、牛乳を適温で加熱殺菌して、乳酸菌、次いでレンネットという酵素を加えて貯蔵するというシンプルなものですが、そこにはデータや感覚などが組み合わさった高度の技が介在しています」と山田社長。
信楽山田牧場2
『山田牧場』では毎朝300リットルの牛乳を加熱し、さまざまなチーズにつくり分けています。
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生で美味しいカブや大根が旬真っ盛りの農場『みなくちファーム』

日も傾く頃に到着した最後の目的地は、高島市マキノ町の無農薬・有機野菜農園『みなくちファーム』。堆肥作りや植林まで行う循環型農業を展開する水口 淳さんの畑は、折しも万木(ゆるぎ)かぶや日野菜などのカブが8種類ほどに、大根も6種類ほどと根菜シーズン真っ只中。畑から抜いて土を落としただけの日野菜をその場でかじって「甘い、美味しい」の声があちこちから。
ファーム内のカフェに戻ると、色ニンジンやルッコラ、ワサビ菜、大和真菜などさまざまな野菜に、ファームで育てた有機食用米「いのちの壱」を醸し、今シーズンから発売を開始した日本酒「里の猋(つむじかぜ)」まで登場。「ここの野菜が美味しくなるのは、盆地ならではの寒暖の差が大きいですね」という水口さんの話を聞きながら、キッチンにはパリパリポリポリと小気味のいい咀嚼の音が響いていたのでした。

湖国の環境や文化に発祥し、質を高めてきたさまざまな食材、その現場を巡り、生産者たちの声を聞く合同視察となりました。料理人たちが体験した各食材の美味しさは、新たな料理となって「湖国 滋賀の幸フェア」を彩ることでしょう。

みなくちファーム1
里山の林で自伐(じばつ)したクヌギをホダ木に行う椎茸の原木栽培でも知られるこちらの農園は、無農薬・有機農法でもう11年。「有機JASで認められている農薬も使っていません。ホダ木や野菜くず、農園で飼育している馬の糞で堆肥を作るなど、生産と消費のよき循環を目指しています」と、農場長の 瀬口結以さん。
根菜
万木(ゆるぎ)かぶや日野菜、大根やニンジンなど、美味しいだけでなく、カラフルさも魅力的。
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