門上武司の旅vol21:「シンプルに優れた熱源だから」と“薪火”を重用する独自の火入れ、福井・越前市『TSUKIHI』
火入れは薪と炭だけでいい、という大決断
薪(まき)や炭は、火入れの熱源として今まさに流行中と言える。屋号に「炭火焼き」や「薪窯」といった肩書きをつける店も増えたように思う。
人類が最も長く付き合ってきた火は薪火だろう。今やガスや電気で事足りる火入れを、あえて薪で行うのは、原点回帰という意味を持つが、もちろんそれだけではない。同じく長い歴史を持つ炭火との大きな違いは、薪火のほうが圧倒的に「香りが強い」ということだ。炭には本来香りはなく、食材が持つ脂分などが炭の上に落ち、それが煙となって香りになってゆく。一方の薪は、木材が持つ固有の香りをダイレクトに食材へ移す。
越前たけふ駅の近くにある「TSUKIHI」は、ワイナリー併設のレストランである。火入れの熱源には薪火と炭火を使うが、メインは大きな調理台の中で赤々と燃える薪。そして、ガスや電気を火入れには一切使わない。イノベーティブ系の料理店としては極端とも言えるこの割り切りに、シェフ・長屋恭平さんの強いメッセージが読み取れる。
「薪を使う理由は単純で、熱源として優れているからです。なんといっても食材の保湿性がいい。しかも使い方によって高温・高熱量になるので、表面はカリッと、中はジューシーに仕上がります」。続けて「木材のスモーク香は薪の特長ですが、それが食材に染みすぎることには注意しなければなりません」とも話した。
クエを、奄美牛を、火入れの妙と濃やかな手数で
その塩梅の妙を体感したのが、薪の熾火(おきび)で焼き上げるクエの料理。皮目は驚くほどにカリッと香ばしく、皮と身の間にあるゼラチン質を焼き切ってある味わいだ。一方、身のほうはしっとりとして、中心部は瑞々しさを残すミキュイ(半生)。そのグラデーションが、クエの香りと味わいを余さず伝え、楽しませてくれた。薪火を縦横に操り、こんな料理を完成させてしまう長屋さんの火入れの技に感服したのだった。
奄美牛の料理も見事であった。フィレ表面の食感はクリスピー。そこから歯を入れるほどに、ほどよい脂の甘みが口の中に溢れてゆく。赤身のうちには、ブドウの枝を燻したスモーキーな木の香り。それらをまとめて噛み締める喜びに陶然となる。
火入れだけでなく、長屋さんの料理の濃(こま)やかさにも感銘を受けたのが、賀茂茄子の原種ともいわれる福井県の伝統野菜「吉川ナス」の一品だ。薪の熾火で焼いたナス、その周囲に赤ワインと蘭麝酒(らんじゃしゅ。福井県特産の健康酒)のソース、卵黄と辛子とワインビネガーのソースを配する。それらに、ナスのエキスと黒皮の香ばしさが重なり合うのである。
薪火と越前を軸足に、調理も食材も闊達自在
福井の観光名所でもある三方五湖で獲れた天然鰻や、ヤイトガツオ(スマ)、椎茸など、印象的な料理はほかにも多く供された。 サービスを担当する釼持和代さんは元料理人なので、料理の解説が的確だ。ソムリエとしても優秀で、ワインはもちろん、ノンアルコールのペアリングまで安心してお任せできた。シェフとの釼持さんの、互いの信頼に基づく気持ちのいい連携も、このレストランの良さのひとつだ。
薪と炭を使った多彩な火入れ、だけではないアイデアフルな長屋さんの料理世界。訪ねるたびに「まだまだ進化しますよ」と皿から聞こえてくるようである。
data
- 店名
- TSUKIHI
- 住所
- 福井県越前市葛岡町8-10-1
- 電話番号
- 0778-24-0318
- 営業時間
- ランチ12:00~(土日祝のみ)、ディナー17:30~
- 定休日
- 水曜(不定休あり)
- 交通
- JR越前たけふ駅から徒歩15分
- 席数
- カウンター8席、テーブル12席、個室6席
- メニュー
- TSUKIHIコース22,000円、TSUKIHIコース+ペアリング33,000円、TSUKIHIコース+ノンアルコールペアリング27,500円、毎月第2日曜限定の特別ランチ12,100円。
- 備考
- ※ランチの料理内容はディナーコースと同じ。
※来店日の2日前までに要予約。
※特別ランチは取り分けスタイルで提供するため、2名以上で予約可。

writer

門上 武司
kadokamitakeshi
関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問。年間外食350日という生活を30年以上続けるも、いまだ胃袋健在…。ゆえに食の知識の深さはいわずもがな。
食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぎ、発信すべく、日々奔走している。
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