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門上武司の旅vol21:「シンプルに優れた熱源だから」と“薪火”を重用する独自の火入れ、福井・越前市『TSUKIHI』

関西を代表するグルマン・門上武司による旅企画「皿までひとっとび」。年間1000食以上を誇る“外食欲”は、御年70歳を過ぎてもなお旺盛。「アレが食べたい」と頭をよぎれば、もう居ても立ってもいられない。日本全国どこへでも、トランクひとつで東奔西走。拠点の関西を飛び出して、各地の美食を訪ねる「皿までひとっとび」の第21回は、福井・越前市『TSUKIHI』へ。

火入れは薪と炭だけでいい、という大決断

薪(まき)や炭は、火入れの熱源として今まさに流行中と言える。屋号に「炭火焼き」や「薪窯」といった肩書きをつける店も増えたように思う。

人類が最も長く付き合ってきた火は薪火だろう。今やガスや電気で事足りる火入れを、あえて薪で行うのは、原点回帰という意味を持つが、もちろんそれだけではない。同じく長い歴史を持つ炭火との大きな違いは、薪火のほうが圧倒的に「香りが強い」ということだ。炭には本来香りはなく、食材が持つ脂分などが炭の上に落ち、それが煙となって香りになってゆく。一方の薪は、木材が持つ固有の香りをダイレクトに食材へ移す。

『TSUKIHI』キッチンの薪調理台
「TSUKIHI」のキッチンで圧倒的な存在感を放つ、薪の調理台。左は炭オーブン、右手前には薪のかまど。コストや簡便さを度外視した、長屋シェフならではの“火入れ体制”だ。
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越前たけふ駅の近くにある「TSUKIHI」は、ワイナリー併設のレストランである。火入れの熱源には薪火と炭火を使うが、メインは大きな調理台の中で赤々と燃える薪。そして、ガスや電気を火入れには一切使わない。イノベーティブ系の料理店としては極端とも言えるこの割り切りに、シェフ・長屋恭平さんの強いメッセージが読み取れる。

「薪を使う理由は単純で、熱源として優れているからです。なんといっても食材の保湿性がいい。しかも使い方によって高温・高熱量になるので、表面はカリッと、中はジューシーに仕上がります」。続けて「木材のスモーク香は薪の特長ですが、それが食材に染みすぎることには注意しなければなりません」とも話した。

『TSUKIHI』長屋シェフと門上さん
オープンは2025年。越前産のブドウでワインを造るワイナリー「シックス スリー エステート」に併設のレストランを任されたのが長屋シェフだ。伊・トスカーナの星付きレストランなどで研鑽を積み、薪窯を得意とするイタリア料理店、神戸「エッレ」にて料理長を務めたのち、越前に。
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クエを、奄美牛を、火入れの妙と濃やかな手数で

その塩梅の妙を体感したのが、薪の熾火(おきび)で焼き上げるクエの料理。皮目は驚くほどにカリッと香ばしく、皮と身の間にあるゼラチン質を焼き切ってある味わいだ。一方、身のほうはしっとりとして、中心部は瑞々しさを残すミキュイ(半生)。そのグラデーションが、クエの香りと味わいを余さず伝え、楽しませてくれた。薪火を縦横に操り、こんな料理を完成させてしまう長屋さんの火入れの技に感服したのだった。

『TSUKIHI』クエの料理
料理はすべて、初秋のTSUKIHIコース22,000円から。九絵(クエ) 薪焼。メニュー名は素っ気ないキーワードのみだが、蒸したトマトのエキスを用いるソース、甘長唐辛子、ツルムラサキ、バジルオイルを合わせ、シークヮーサーで香りづけする手の込みようだ。
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奄美牛の料理も見事であった。フィレ表面の食感はクリスピー。そこから歯を入れるほどに、ほどよい脂の甘みが口の中に溢れてゆく。赤身のうちには、ブドウの枝を燻したスモーキーな木の香り。それらをまとめて噛み締める喜びに陶然となる。

『TSUKIHI』奄美牛
奄美牛 薪焼。大豆などの穀物を炊き上げて作る伝統的な飼料「炊き餌(たきえ)」で育てられた鹿児島県産の経産牛をシンプルきわまる薪火グリルに。
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火入れだけでなく、長屋さんの料理の濃(こま)やかさにも感銘を受けたのが、賀茂茄子の原種ともいわれる福井県の伝統野菜「吉川ナス」の一品だ。薪の熾火で焼いたナス、その周囲に赤ワインと蘭麝酒(らんじゃしゅ。福井県特産の健康酒)のソース、卵黄と辛子とワインビネガーのソースを配する。それらに、ナスのエキスと黒皮の香ばしさが重なり合うのである。

薪火と越前を軸足に、調理も食材も闊達自在

『TSUKIHI』蕎麦と大根、栗
メニュー名は、栗 蕎麦。地元・福井産の蕎麦に炭オーブンでローストした大根のエキスと自家製豆乳のソースをムースのように纏わせ、栗と麹で作った栗味噌や、スライスした栗を合わせる。精進料理をイメージしたひと皿。
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『TSUKIHI』ジャガイモ
越前粘土包焼。越前焼に使われる陶土でジャガイモを包み、炭オーブンで包み焼きにした一品。玉ネギをベースにしたソースを合わせて。
『TSUKIHI』焼き上がったジャガイモ
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『TSUKIHI』越前・里山
越前 -里山-。鹿肉と若狭牛を使ったパテに、薄くスライスした椎茸を重ねた独創的な料理。
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『TSUKIHI』ごはん
しらやまのお米。農薬・化学肥料不使用など多岐にわたる条件が課される「コウノトリを呼び戻す農法」で栽培されたコシヒカリをかまど炊きに。鱒(マス)の塩漬け、ラディッシュとナスのぬか漬け(ブドウの糠を使用)、赤ワインと麹で味付けした牛肉しぐれ煮などが添えられる。
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福井の観光名所でもある三方五湖で獲れた天然鰻や、ヤイトガツオ(スマ)、椎茸など、印象的な料理はほかにも多く供された。 サービスを担当する釼持和代さんは元料理人なので、料理の解説が的確だ。ソムリエとしても優秀で、ワインはもちろん、ノンアルコールのペアリングまで安心してお任せできた。シェフとの釼持さんの、互いの信頼に基づく気持ちのいい連携も、このレストランの良さのひとつだ。

『TSUKIHI』サービスの釼持さんと門上さん
サービス担当の釼持さん。長屋シェフと釼持さんは、「シックス スリー エステート」でブドウ畑の管理からワイン醸造までの工程を経験。発酵のメカニズムを学ぶ研修も受けたそうだ。
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薪と炭を使った多彩な火入れ、だけではないアイデアフルな長屋さんの料理世界。訪ねるたびに「まだまだ進化しますよ」と皿から聞こえてくるようである。

『TSUKIHI』店内
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皿までひとっとび

関西を代表するグルマン・門上武司が各地の美食を訪ねる旅企画。

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writer

門上 武司

kadokamitakeshi

関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問。年間外食350日という生活を30年以上続けるも、いまだ胃袋健在…。ゆえに食の知識の深さはいわずもがな。
食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぎ、発信すべく、日々奔走している。

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