大阪『絹笠』のとん蝶。大阪土産にも、小腹が空いたときにも重宝するユニークなおこわ。
褒めるところを挙げたらキリがないほどなのに、知る人ぞ知る、つまり未だ知らない人も居るのは何故か。それは、大阪限定で通販もなくて、消費期限がその日限りという限定だらけだからだろう。
今回は、この「とん蝶」というヘンテコな名前の大阪名物を深堀り。
竹皮柄の二等辺三角形は、「東海道中膝栗毛」の弥次喜多が、富士山でも眺めながら食べていそうな風情。包装紙を開くと、豆ごはんの上に小梅が2個乗っかっている。ごはんはもち米のおこわ。もちもちと弾力があり、程よい塩加減。時折、口に入る大豆が香ばしい。3口目には真ん中に挟まれた塩昆布の旨みが広がる。途中で小梅をカリリと噛めば、味変して飽きさせない。ちょうどお茶碗一杯分くらいで、おやつに虫養いにほどよいサイズ。1個432円。
和菓子屋さんのスマッシュヒット
とん蝶を知っていても、『絹笠』という社名は知らないという人も多い。なんと『絹笠』は和菓子屋さんだ。「商(あきない)」と名付けられた自家製黄味餡たっぷりの黄金色のまんじゅうや、ロールカステラなど、大変に丁寧に作られていて実においしい(鶴見にある本社工場横直営店で販売)。
『絹笠』は、神戸元町で慶応3年に創業。瓦せんべいを製造販売していたが、戦時統制化で一旦廃業。1848年に大阪旭区で復活した。
ミナミやキタの地下センターに出店し、業績も順調に伸びた昭和45年。創業者・岡本大三氏が、ある日、天王寺の料亭で豆ごはんを食べ、「えらいおいしいやないか」と気に入った。そして「ちょっと待てよ、この材料は、もち米と豆。それならうちにあるものばかり」と、作ってみることにしたのだそうな。それが今や売上の90%を占めるヒット商品に。
ちなみに、天王寺の料亭の豆ごはんで、ピンときた読者もいらっしゃるはず。そう、いまはなき『廣田家』の豆めしだ。住吉の店も閉業してしまった今となっては、大阪の味の系譜が、何やら感慨深い。
ふるさとの味だから、とんぼと蝶々
そうして誕生したとん蝶。この不思議なネーミングは、とんぼと蝶々からの造語らしい。「田舎がない社長が古里の味をイメージしたかったそうで」とは、創業者の孫で5代目の興津真生さん。
古里=田舎=とんぼと蝶々。なるほど。
包装紙には“ふるさとの味”とキャッチコピーもついている。ふるさとの味なら、そりゃあもう手作りに決まっている。
「とん蝶」の作り方
実際、今なお、鶴見区の工場でほぼ手作りしている。
もち米を前の日から水に漬け、翌朝5時に、米と大豆を混ぜて、大きな蒸籠を何段も積み重ねて蒸し始める。「10分ほどしたら水打ちするんです。タイミングとか回数は季節や天気によっても変えます。慣れた職人のカン頼りです」と5代目。
蒸しあがったおこわを二等辺三角形の木型に詰めて、その上に塩昆布を載せたら、もうひとつの三角のおこわを載せて合体。竹皮を模したアルミの包装紙で包むのも1つ1つ手作業だ。
朝5時から開始して、デパートの始業時間までに自社の車で運び込む。毎日2000個、週末は頑張って3000個が限度だそう。
「とん蝶」が買える場所は
「新大阪駅で新幹線に乗る前にゲットしたいのに、売り切れている売り場が多くて3か所も回った」(新大阪駅では『アントレマルシェ』『おみやげ街道』『PLUSTA』『Bellmart』など7か所で販売)
ーーなんて声も聞くし、「大阪で食べたあの味が忘れられない。通販で買えませんか」というリクエストも多いけれど。5代目は、「スミマセン!」と身を縮めつつ、「機械化も考えたんですが、粘りのあるもち米は機械では成型しづらいし」「保存料を入れてないから消費期限は当日で、府外では売れないし」「今は冷凍技術も発達しているから色々お声がけももらうんですけど、大阪でしか買えないというのもあってもいいかなと思いまして」。
申し訳なさそうに、でも創業者からのやり方を守ろうという強い意志をもって話してくださった。
素朴な“ふるさとの味”らしさは、そんな姿勢から生まれるのだ。
【販売店】
阪神百貨店/阪急百貨店/髙島屋/京阪百貨店/近鉄百貨店
アントレマルシェ(新大阪駅・大阪駅・天王寺駅)
PLUSTA(新大阪駅)
もより市(京阪電車各駅)
詳細は公式サイトをご確認ください。
タイガース御用達?とうもろこし味も
さて、とん蝶には、基本の「とん蝶(白蒸し)」のほかに、京都の『七味家本舗』の七味を片面にまぶした山椒の香りのよい「七味とん蝶」と、『阪神梅田本店』限定の「とうもろこしとん蝶」もある。なんでとうもろこしかと訊ねると「とうもろこしと黒ゴマでタイガースカラーにしよと思いまして」と5代目。甲子園に行く前に寄って買っていくタイガースファンも多いらしい。
季節限定の黒豆、ゆかり、ちりめん山椒なんてのもあるので、お試しあれ。
家で食べるなら電子レンジで温めるのもアリ。ただし、アルミの包装紙は剥がしてチンしてくださいね。
data
- 店名
- 御菓子司 絹笠
- 住所
- 大阪府大阪市鶴見区今津北3-1-8
- 電話番号
- 06-6969-5411
- 営業時間
- 9:00~15:00 ※日曜日は14:00まで
- 定休日
- なし
- 交通
- 地下鉄横堤駅から徒歩17分
- メニュー
- とん蝶(白蒸し)432円、七味とん蝶453円、とん蝶/赤飯コンビ810円(折箱入、約300g)。

writer

団田 芳子
danda yoshiko
食・旅・大阪を愛するフリーのフードライター。その地の歴史や物語を感じる食べ物・気質・酒が好物。料理人さんに“姐さん”と呼ばれると、己の年齢を感じつつもちょっとウレシイ。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。
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