美味しいトーストのヒミツ/京都『WANDERERS(ワンダラーズ)』

美味しいトーストのヒミツ/京都『WANDERERS(ワンダラーズ)』

小林明子の「偏愛パン」

2022.08.31

文:小林明子 / 撮影:伊藤 信

「今日焼いた食パンは、できればその日、そのままで食べてほしいんだよねぇ」。「食事系パンの友はスープ」。 記念すべき小林明子の「偏愛パン」第1回目は、そんなパンへの熱き思いから発せられる言葉の数々が印象に残るベイカーについて綴ります。

目次

金沢からやってきたベイカー パン好きが作る、パン好きのためのパン 店舗情報

金沢からやってきたベイカー

京都の『WANDERERS』と聞いて、「あのパン屋さん!」と膝を打つ人はまだ少ないはず。多くが「パン屋さん?」と首をかしげるのでは?

コーヒー愛好家の場合は、少し違う反応が返ってくるようで…。

「コーヒースタンドですよね」と。確かに『WANDERERS』は、2016年末にコーヒースタンドとしてオープン。当時の京都はインバウンド真っ盛り。外国人観光客が通りに面したベンチに腰掛け、淹れたてのコーヒーを手にガイドブックを眺めながら計画を練る、そんな光景をよく見かけたものだ。

京都・五条堀川『WANDERERS』店長の春木良介さん京都・五条堀川『WANDERERS』の春木良介さん

店に一人で立つ春木良介さんは、2018年まで金沢近江町市場の近くで『OH LIFE』という名のブック&カフェを営んでいた。コンセプトは「美味しい本屋」。

食にまつわる本と自家製パンが人気の店だったが、『WANDERERS』にパンを焼く技術やレシピの提供を行ううち、京都に魅かれるようになり移住。

しばらくしてコロナ禍に突入したため、2021年にベーカリー&カフェにリニューアル。一般的なパン屋ほど多種多量ではないものの、春木さんが焼く角食パンや山食パン、小型パンなど、5数種ほどが並ぶようになった。

パン好きが作る、パン好きのためのパン

春木さんが主に使うのは、北海道産の強力粉『春よ恋』。自身の苗字、春を待ちわびる雪国で春に生まれたことから、“春”には特別な思いを抱いてきた。

さらに、「伝説のロックバンド『はっぴいえんど』のファンなんですが、その名曲『春よ来い』と同じ響きの小麦粉ですよ?これだ!と思って使ったら美味しいパンができました」と笑う。

特性でもある保水性の高さを生かした角食パン(1本660円)は、できれば1本丸ごとを求めて手割り。みずみずしいクラムをちぎり食べする醍醐味を堪能してほしい看板商品。

白ご飯をイメージしながらパンを焼く春木さんの言動からは、熱い思いが伝わる。たとえば、「パンの友はコーヒーだけじゃない」のひと言。食事系パンの場合、相性が良いのは優しい味わいのスープで、コーヒーは食後に楽しんでほしいとの意味がそこには込められている。

イートイン用の名物、角食パンにフライドエッグを乗せるトースト(550円)は「かぶりつくのが旨い。だから、食べやすいように隠し庖丁を入れています」。

細やかな配慮で、パン好きを悶絶させてくれる。

『WANDERERS』のフライドエッグトースト550円。『WANDERERS』のフライドエッグトースト550円。

■店名
『WANDERERS』
■詳細
【住所】京都市下京区西洞院五条下ル八百屋町58 イチハタビル1F
【電話番号】075-353-5958 
【営業時間】8:30~16:00(金曜は11:00~)
【定休日】水・木曜
https://www.facebook.com/wanderersstand
https://www.instagram.com/wanderers_stand/

あまから手帖/2022年5月号

京都のリアル

京都人や京都ツウがリアルに行きたいお店を掲載。まずは「舞妓はんの昼ごはん」をご紹介。「頃合いの話題店」では、夜1万円くらいまでで楽しめる、イタリア料理や無国籍料理などをメインに、魅力的な店が続々登場中の二条城界隈も取り上げています。

Writer ライター

小林 明子

小林 明子

Akiko Kobayashi

「パンの街」と呼ばれる京都の商家に生まれる。数人の従業員も住み込む、大家族に育ったため、朝食は各自が用意できるパン食が常だった。以来、半世紀以上にわたって毎朝の主食はパン。パン屋巡りの旅に出ることもあるライター。パンシェルジュ1級。

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