ブレンドで表現する秋酒、滋賀『松瀬酒造』の「尾花」

ブレンドで表現する秋酒、滋賀『松瀬酒造』の「尾花」

地酒党・中本の「今月のイッポン!」

2022.08.31

文:中本由美子 / 撮影:下村亮人、東谷幸一

秋風が吹き始めると、いよいよ、ひやおろしの季節。その穏やかな、まぁるく熟した酒質を、ブレンドで表現した「松の司」の意欲作が初リリース! その名も「尾花」。秋の夜長は、これイッポンで。冷やから熱燗まで、温度を変えつつ、ゆるゆるどうぞ。

目次

「松の司」の脱ひやおろし宣言! ヴィンテージ違いをブレンド 秋の夜長はこれイッポンで!

「松の司」の脱ひやおろし宣言!

うだるような盛夏の猛暑日、ふと立ち寄った酒場で目にした「ひやおろし、入りました」。え? まだ8月も初旬ですぜぇ。ちと早すぎやしませんか? と目を疑ったことがある。

ひやおろしといえば、冬に搾った新酒を春先に火入れして、ひと夏を越した酒。秋になってから、本来ならば2度目の火入れをするところを、あえてそのまま出荷する。つまり、“冷や”のまま“卸す”から、ひやおろし。

暑い夏でも酒蔵の中はひんやりとしていて、ここでひと夏を過ごすことで、口当たりがなめらかになり、味わいも落ち着いて、まろやかに。それが、ひやおろしの醍醐味なのだ。

日本酒党は、残暑の頃、涼風がふぅ~っと吹き抜けると、「ひやおろしの季節が来るなぁ~」と思う。夏のピチピチした生酒も充分満喫したし、そろそろ穏やかな酒が飲みたいな~、というタイミングで、ひやおろしには是非もんで出合いたいところだけど…。

滋賀・竜王町『松瀬酒造』

夏の盛りに、ひやおろし。その先取り傾向に違和感を覚え、「松の司」醸造元の『松瀬酒造』は、2018年に商品化を止めたという。その代わりに、今年リリースする秋酒が「尾花」だ。

ヴィンテージ違いをブレンド

「ひやおろしの魅力は、落ち着いた香味、なめらかな口当たり、まろやかな熟成の味わい。それを表現するのに、ブレンドに挑戦しました」と、杜氏の石田敬三さん。

ブレンド専用酒は、タンクと瓶で貯蔵したヴィンテージ違いで数種を用意。その味わいを重ねていくと…。新酒のほろ苦さも、熟成酒らしい芳醇さも感じるという、不思議な酒質となる。

滋賀『松瀬酒造』の石田敬三杜氏滋賀『松瀬酒造』の蔵の中

秋の夜長はこれイッポンで!

実は「尾花」を味わったのは、リリース前。石田杜氏が行きつけの近江八幡の寿司屋のカウンターで、ビワマスやら鮎やらの、琵琶湖の幸と共に。しかも、石田杜氏にお酌してもらうという、この上ない幸せな一席にて。

その時の石田杜氏の台詞が痛快だった。
「コクがあるのに軽いでしょう。熟してるんか、若いんか、分からんような酒を狙って造りました」。

その「尾花」の守備範囲の広いこと。
トウモロコシの真薯(しんじょ)椀に、鮎の造りやビワマスの塩タタキ、天然スッポンの柳川仕立て、鴨にも鮒(フナ)ずしにも、すっと寄り添う懐の広さ。
時折、若い酒ならではの苦みが顔を覗かせ、夏野菜の青さとリンクしたりもする。と思えば、熟した豊満な風味が鮒ずしのクセを包み込んだりもして…。

酸いも甘いもかみ分けたような円熟味のある女将なのに、実年齢は意外と若い…みたいな。その「尾花」さん、ススキの別名を戴いてるとか。
十五夜に月を愛でつつ、秋の味覚を楽しみながら、ゆるゆる~っと楽しむには、おあつらえ向きのイッポンだ。滋賀『松瀬酒造』の「松の司 尾花 純米」松の司 純米酒 尾花 720㎖1650円、1.8ℓ3300円。

タンクと瓶で貯蔵したヴィンテージ違いの専用原酒をブレンド。穏やかで落ち着いた、まろやかさと軽さのある「ひやおろし」が本来持つべき味わいを表現している。8月23日にリリース。冷やから飛び切り燗まで様々な温度帯で、ブレンド酒ならではの表情の変化を愉しみたい。
●松瀬酒造 TEL.0748・58・0009 http://www.matsunotsukasa.com/

あまから手帖/2022年9月号

語りたい名品

進化し続けるテイクアウト&お取り寄せグルメ大特集。「尾花」は後半連載「今月の飲み頃」で紹介しています。

Writer ライター

中本 由美子

中本 由美子

Yumiko Nakamoto

和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉~WA・TO・BI」編集長。「あまから手帖」編集部に1997年に在籍し、2010年から12年間、四代目編集長を務める。お酒は何でも来いの左党だが、とりわけ関西の地酒を熱烈に偏愛。産経新聞夕刊にて「地ノ酒礼賛」連載中。

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