流行無視で守った“国の宝”。ポルトガルの自然派ワイン

流行無視で守った“国の宝”。ポルトガルの自然派ワイン

Mr.TERASHITAの「推しワイン!」

2022.08.31

文:寺下光彦 / 画像提供:レシフェ

毎月、 旬の珠玉の自然派ワインをご紹介するこのコーナー。第1弾は、現在ナチュール界の”小さな台風の目”にもなっているポルトガル・ワイン。味わいから鮮明に伝わる”その国らしさ”にも心が洗われます。

目次

ヨーロッパ最後の、自然派ワインの大フロンティアの一つ 土着品種(=国の宝)を守り続けたゆえの栄華 体細胞が到来を歓迎するような、美しいエキス感

ヨーロッパ最後の、自然派ワインの大フロンティアの一つ

フランスとイタリアに毎年次々出てくる気鋭・新進生産者のワインをフォローするだけで手一杯。ポルトガルなんて手が回らない(回す気もない……)とのお気持ち、ごもっともです。しかしながら。

この数年、ポルトガル自然派ワインの品質向上は、まさに破竹の勢い。今までヨーロッパの死角であり、盲点に近いほどの存在だったこの国が、”ヨーロッパで最後の、自然派ワインの大フロンティア”の一つになっているのです。

土着品種(=国の宝)を守り続けたゆえの栄華

この国に真摯な自然派生産者が現れ始めたのは、比較的近年のこと。ところが。彼らが手がける土着品種による白は、目覚ましくクリーンでキラキラと輝かしいミネラルが鮮やかに伸び広がり、赤はしみじみと素朴で心温まる、いい意味での田舎酒感がたまらない名品が、無数に現れているのです。

多くの国で商用酵母による”売れ筋狙いワイン”、“似たようなワイン”が造られる中、ポルトガル・自然派の多くから感じられる「その土地らしさ。その国らしさは」の鮮明さは、飲み手をハッと我に返らせるほどの説得力、なのです。

ポルトガルのブドウ畑

もう一点、この国をリスペクトすべき“偉業”は、歴史あるヨーロッパの産地でさえ、つい最近まで伝統土着品種を引き抜き、せっせと売れ筋フランス品種(シャルドネ、カベルネなど)を栽培。「模倣ワイン」(ジャンシス・ロビンソン マスター・オブ・ワインの表現)にお熱を上げた時代、その流行に流されず、頑固田舎親爺的に(?)土着品種を守り続けたことでしょう。


偉いぞ、ポルトガル!

ゆえに。アリント、アザール、カシュテランなどなど。素晴らしい無数の土着品種の古木がしっかりと残っていることも、今日の鮮烈なワインの品質につながっている訳です。

体細胞が到来を歓迎するような、美しいエキス感

キンタ・ド・オリヴァル・ダ・ムルタ

そんな頑固国の美点が朗らかに表れたワインが、リスボンの北約80km、オービドス郊外の山麓で、代々家族経営を続けるこのワイナリー「キンタ・ド・オリヴァル・ダ・ムルタ」の作。 凛々しく端正、躍動感ある果実味と、深遠なミネラルのレイヤーによる、長く温かな余韻が心に焼き付く銘酒です。

酸化防止剤添加最小限ならではの、スゥ~ッと舌と喉に自然に溶け込んで一体化するような液体感。自分の体細胞がこのエキスが身体に入ることを笑顔で歓迎しているなぁ、という感覚が素直に味わえます。

グラス一口できっと。ポルトガルの自然派ワインを「もっと知りたい(知らねば)!」、と思えることでしょう。

キンタ・ド・オリヴァル・ダ・ムルタ セラ・オカ・ブランコ2019キンタ・ド・オリヴァル・ダ・ムルタ セラ・オカ・ブランコ2019 4200円

リスボンの北約80km。中世の街オービドスを見下ろす石灰粘土質の山麓地帯に広がるワイナリー。品種はアリント50%、フェルナンピレス48%が主体。ごく短期の果皮浸漬を行ったライト・オレンジワインだが、タンニン分よりも、傑出した活力あるフラワリーな香りと、美しい果実味、ピュアな後味がなんとも感動的。
レシフェ【電話番号】099-213-9787 https://recifewine.shop-pro.jp/

あまから手帖/2022年9月号

語りたい名品

特集は、進化し続けるテイクアウト&お取り寄せ。ポルトガル自然派のお話は後半連載「今月の飲み頃」にて。

Writer ライター

寺下 光彦

寺下 光彦

Mituhiko Terashita

ワイン&フード・ジャーナリスト:約30年間ボルドー、ブルゴーニュのトップワインを経験後、現在は自然派ワイン一筋。ワイン専門誌の取材でフランス、イタリア、ジョージアなどのワイナリー計300社以上を現地取材。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」青山校、大阪校講師。

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