大阪・南森町「お料理 宮本」の新展開は、うどんと一品料理
門上武司の「今月の一軒!」
「お料理 宮本」といえば、大阪の名店で長年修業を積んだ、宮本大介さんの店。2023年1月、新たに「おうどん 蓬(よもぎ)」をオープンさせるも、そのスタイルが面白い!と話題に。さっそく、レポートします。
新時代のうどん店
今年早々、大阪・福島の聖天通商店街に暖簾を掲げた「おうどん 蓬」は、南森町駅近くにある日本料理「お料理 宮本」の主・宮本大介さんが開いたうどん店。「最初はカレーうどんの店にしようと思ったのですが、内装を立派にしてしまったのでもったいないと思い、うどんと一品料理の店にしました」という。
内装は、宮本さんの修業先「本湖月」や京都の「木山」「飯田」、大阪の「原正」など有名店を手掛けた日本建築をつくる集団「三角屋」。確かに、カレーうどん屋では贅沢すぎると考えるのは当然のように思う。
「蓬」は聖天通商店街に面したマンションの一階だが、入り口は建物の裏側になる。細い路地を通り店内に入ると、一気に光景が変わる。
厨房を囲む、ゆったりとしたカウンター。腰を落ち着けると気分が和らぐ。
夜の料理は、先付けと八寸がお決まりで供される。あとは冷製の一品、温製の一品、揚げ物から好きな料理を選び、うどんを選択するスタイルだ。その日の胃袋やメンバーと調整しながら決めてゆくのが楽しい。
2023年3月某日の一品料理の品書き。
技とアイデアが光る料理の数々
この日の先付けは筍の柔らか煮とワカメ、鯛の子、ホタルイカの酢味噌和え、ホウレン草のゴマ和え、ローストビーフにネギソース、たたきゴボウ。日本料理の基本を守りながらも、ネギソースなど素敵なアイデアが光る。
八寸は5品。小田巻という、うどんが入った冷たい茶碗蒸し、芹の白和え、ブリの南蛮漬け、アオリイカの下足などの酒盗和え、長芋そうめんと和食の技がきちんと生きる。
この2皿で安心感が生まれ、一品料理、うどんへの期待が高まるのであった。
一品料理のおでん盛合せ。大根、ネギマグロ、コンニャク、牛スジ、卵である。大根を口に入れた瞬間に、こぼれ落ちるだしの味わいに唸った。
だしは昆布、鯖、ウルメイワシを使うようだが、“さっぱり”と“ふくよか”が見事に調和した味わいである。
包まれて無いシュウマイは、宮本さんご夫妻が九州出身ということもあり、見た目は佐賀のイカシュウマイのよう。中の豚肉の存在感が圧倒的で、ここでも宮本さんの遊び心が発揮されていると感じた。
オススメの猪のメンチカツも、自家製ウスターソースと共に満足感の高い一品。
真骨頂はやはり、うどん
この日はきつねうどんを選んだ。
うどんは奥様の幸代さんが「香川のうどん学校で5日学びました」という。奥様も料理人で、主人の大介さんとは調理師学校時代の同級生である。
まずは、だしをすする。予想していたうどんだしとは異なり、淡く柔らかでいて、優しい。そしてうどんである。中太で、弾力はしっかりある。歯を少し跳ね返す力があった後、スッと歯が入ってゆき、小麦の味わいがじんわりやってくる。
次に別添えの薄揚げを入れる。この薄揚げの上品なこと。昆布、鯖、ウルメイワシのだしで煮ていて、甘いきつねではない。しかし、だしと合わさると少しずつ変化する。それはネギ、ショウガ、ゴマなど薬味を加えるとより顕著に、複雑な味わいになってゆくのだ。なるほどこの変化を楽しむために、スタート段階の印象を優しく仕上げたのだと感じる。
これは料理人ならではの発想だと思う。うどんという軸を持ち、そこに至るプロセスもたっぷり楽しめる、うどん界の新展開である。
■店名
「おうどん 蓬」
■詳細
【住所】大阪市福島区鷺洲2-10-6 カミーノ鷺洲1F
【電話番号】090-2432-0688
【営業時間】12:00~14:30LO(土・日曜、祝日のみ)、17:30~21:30LO
【定休日】水・木曜
【お料理】昼夜共通/かけうどん(小盛り)600円、炊き込みご飯350円、おでん盛合せ1200円、夜/先付け・八寸セット3000円。
Writer ライター
門上 武司
Takeshi Kadokami