音楽とワイン、フランス食文化が織り成す世界 / 大阪『winestand No.2』

音楽とワイン、フランス食文化が織り成す世界 / 大阪『winestand No.2』

カオリンの「シェフのBGM」

2022.09.30

文:船井 香緒里 / 撮影:下村亮人、船井香緒里

大阪・本町橋のたもとにあるワインスタンドには、いつも独特の空気が流れている。窓の向こうに東横堀川を臨み、窓際にはレコードプレーヤー、さらには700枚近いLPレコードが所狭しと並ぶ。音楽とワイン、さらにはフランスの食文化が織り成す、誘惑の世界へ。

目次

「アナログレコード」に特化する理由 選曲は年代もジャンルも超えて 音楽とワインのお供に、フランス郷土の甘い誘惑を 店舗情報

「アナログレコード」に特化する理由

大阪・堺筋本町。ゆるりとした空気が漂う東横堀川沿いに、ひっそりオープンしてはや6年。『winestand No.2』は、店主・山口 功さんが一人で営む、ガレットとフランスの郷土菓子、自然派ワインの店だ。

棚にびっしりと並ぶ700枚近いLPレコードが物語るように、音楽を楽しむワインスタンドでもある。「オープン当初はCDを流していたのですが、お客様が“この店にはアナログレコードが合う”とプレーヤーをくださったんです」。

窓際にはレコードプレーヤー「Technics(SL-1200MK3D)」が置かれ、その向こうに広がる穏やかな水辺と緑のコントラストもこの店ならでは。店で流すBGMは、今ではLPレコード一辺倒だとか。

大阪・堺筋本町『winestand No.2(ワインスタンド ニュメロ・ドゥ)』内観現役の橋としては、大阪市内最古とされる本町橋を渡り路地へ。雑居ビルの1F奥に店はある。

「LP盤の片面の長さは約20分と、ちょうど良い頃合い。しかも音圧や音質においてはやはりレコードが良いんです。すでに売ってしまった名盤も多いので、コツコツと買い直しましたよ」と山口さんは微笑む。

選曲は年代もジャンルも超えて

若かりし頃は、デュラン・デュランなど80年代のUKポップスから、カウンター・カルチャー時代のロック、ソウルにブルース…とあらゆるジャンルにのめり込んだ山口さん。

「山下達郎さんなどシティ・ポップも好きですよ」

メジャーにマイナー、さっと通り過ぎたものから、ハマったものまで、語り始めたらきりがない。

「店で流すBGMは、とりわけ1950〜70年代のジャズが多いかもしれません」

とはいえ、選曲はジャンルを問わず、季節や気候、時間や客層に合わせて縦横無尽に進みゆく。

スカッと晴れた日の夕方であれば、サンバ・シンガー「マルチーニョ・ダ・ヴィラ」による軽やかなサウンドにて幕を開ける。日の入りには、コンガやボンゴなどリズミカルな打楽器が印象的なラテン・ジャズへと。遅がけにはジャズ・ピアニスト「レイ・ブライアント」による力強くも繊細なタッチのバラードを。

ヴィンテージスピーカーから響く、厚みがありながらも柔らかな音質が抜群なのだ。「その日の気分!」という山口さんの選曲を楽しみに訪れる、アナログレコード好きの若い世代の客が多いというのも頷ける。

大阪・堺筋本町『winestand №2(ワインスタンド ニュメロ・ドゥ)』のLPレコードセラーと同調するかのように、棚にはLPレコードがびっしり。選曲は、お客さんからの要望を聞き入れることは基本的にはなく、山口さん主導で。

音楽とワインのお供に、フランス郷土の甘い誘惑を

かくいう私は、ひとりふらっとこの店を訪れることが多い。何が好きって、音楽とワイン、さらにはパティシエ歴30年以上のキャリアを持つ山口さんによる、自然な造りがなされたワインに照準を合わせた、フランス郷土菓子の数々だ。

例えば、ブルターニュ地方の焼菓子「ファーブルトン」であれば、プルーン入りの生地はカスタードを凝縮させたような濃厚さ。とことん攻めている焼き色ゆえに、苦みも香りもぐっと深く、否応無しに赤ワインを欲する。

大阪・堺筋本町『winestand №2(ワインスタンド ニュメロ・ドゥ)』ファーブルトン400円ファーブルトン400円はじめ、常時3、4種の焼菓子を用意。自然派ワインはイタリア、フランス、国産を中心に、グラスで赤白各2種900円〜。

「その日、空いているグラスワインを自由に楽しんでもらえたら」

そう話す山口さんに勧められるがまま、バルベーラ主体の「イル・マイオーロ エミリア・ロッソ 2006」を。しっかりとした果実感、そして角の取れた円熟味が、しっかり焼き込んだファーブルトンの生地の個性と、深く呼応する。左党で甘党という私にとって、至福の組合せ…。

食事派にはガレットをオススメしたい。自家製ハム・卵・チーズをのせた「ガレット・コンプレット」は、蕎麦粉の甘皮部分も加えた生地の複雑な旨みが印象的なのだ。

大阪・堺筋本町『winestand No.2(ワインスタンド ニュメロ・ドゥ)』ガレット・コンプレット1500円ガレット・コンプレット1500円

ふと耳を澄ませば、日本人の名ジャズ・ピアニスト・菅野邦彦氏の名盤『Music -The World Of Kunihiko Sugano』が大きめの音量で流れている。叙情的な旋律がとても美しい。この店は、大人数でワイワイするには不向きだと思う。一人あるいは二人で、山口さんの選曲に身を委ね、自然派ワインと甘い誘惑に酔いしれる時間が似合う。

大阪・堺筋本町『winestand No.2(ワインスタンド ニュメロ・ドゥ)』内観

■店名
『winestand No.2(ワインスタンド ニュメロ・ドゥ)』
■詳細
【住所】大阪市中央区本町橋5-2 本町橋ビル102
【電話番号】なし
【営業時間】17:30〜22:00LO(土・日16:00〜)
【定休日】不定休(インスタグラムにて告知)
【お料理】パン デピス400円、ガレット(鶏ひき肉のクリーム煮 マスタード風味)1600円。Gワイン900円〜1500円
https://www.instagram.com/winestand_numero2/

あまから手帖/2022年10月号
クチコミ、北摂
地元で話題の新店や、グルメな著名人が推す店など、口コミを元にご紹介。こちらは「Amakara Topics」内の「おいしい音楽」にて掲載。

Writer ライター

船井 香緒里

船井 香緒里

Kaori Funai

「Kaorin@フードライターのヘベレケ日記」でお馴染み。酒と酒場と音楽をこよなく愛し、「Led Zeppelin」、「The Who」はじめ60〜70年代の洋楽ロック好き。愛用するスピーカーは「Tannoy ⅢLZ」66年製。アウトドア好きでもあり、ジョギングとロードバイクにて健康維持。https://kaorin15.exblog.jp/

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