山口『界 長門(ながと)』で新しいフグ料理に出合い、温泉街をそぞろ歩く

秋の足音が聞こえ始めた10月に訪れたのは、山口にある『界 長門』。「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトに、その地域の伝統文化を生かしながらご当地の魅力を発信する温泉旅館「界」ブランドの1軒です。600余年の歴史を誇る山口県最古の温泉街にはときめきをもたらす新風が其処此処に吹いていました。

モダンでレトロな温泉街

音信川(おとずれがわ)のせせらぎに癒されながら、浴衣姿で提灯片手にぶらり、立ち寄り温泉『恩湯(おんとう)』へ。月夜の散歩を楽しむ熟年夫婦や、川べりで地元産クラフトビールを立ち飲みする西洋人の姿が、道すがら目に入ります。思い思いに時を過ごしている緩い空気感。欄干や川面を温かく照らすライトアップが、モダンでレトロな温泉街によく似合っています。

長門湯本温泉街イメージ
音信川沿いに朱色の曙橋や紅葉の階段を照らす期間限定ライトアップは12月15日まで。『界 長門』のトラベルライブラリーで、オリジナル提灯を無料で借りられます。右端に見える建物は、3年越しの大改装を終えて2020年にリニューアルオープンした温泉施設『恩湯』です。
10

コンセプトは「藩主の御茶屋屋敷」

JR新山口駅から車で約70分、山口県西北部の長門市にある長門湯本温泉は、かつて江戸時代に歴代藩主が湯治に訪れていた場所。その歴史ある温泉街再生の一環として2020年に開業した温泉旅館のコンセプトは「藩主の御茶屋屋敷」です。

ロビーは武家文化を意識して床の間飾りを表現。客室にあしらわれているのは伝統工芸の萩焼や大内塗、徳地和紙など。宿併設の『あけぼのカフェ』でいただけるどら焼きは、夏ミカンやゆずきちなど、山口特産の柑橘のジャムを挟んだオリジナル。赤間硯(あかますずり)で墨を磨る「大人の墨あそび」なる無料体験もあり、滞在する中で自然と地元の文化に多角的に触れられます。

『界 長門』併設『あけぼのカフェ』のどら焼き
『あけぼのカフェ』のどら焼きは定番のゆずきち・夏ミカンのほか常時4種。各300円。
10
『界 長門』のあけぼの門
温泉街に出やすいよう宿の裏手に構えられた「あけぼの門」は宿泊者専用です。
『界 長門』のご当地部屋「長門五彩の間」
ご当地部屋「長門五彩の間」は全40室。写真の露天風呂付特別室は、2名1室利用の場合、1名あたり1泊2食付で48000円~。
『界 長門』のロビー
ガラス越しの緑が美しい『界 長門』のロビー。両脇に飾られている桜の画は、山口県美祢(みね)市在住の画家・木原千春さんの作品です。
10

フグとミカンの意外な出合い

土鍋の中、フグの身と共にプカプカと浮かぶのは、ミカン。秋冬限定「てっさと源平鍋で味わうふく会席」のメインは、意表を突く2色鍋仕立てです。「フグもミカンも地元特産品。ミカン鍋は、周防大島などで古くから親しまれているもの。そのアレンジです」と、総支配人の羽毛田実(はけたみのる)さんは話します。

鍋だしにもさりげなくミカンの風味を忍ばせ、特製ポン酢にもミカン果汁を使用。菊盛りされたてっさは、ちり酢のほか、長門の製塩所『百姓庵』のミネラル豊かな海塩や、フグ魚醬とオリーブ油を合わせた粒ウニダレで。次々と訪れる地元の美味との出合いに、旅の幸せを実感できます。

『界 長門』の源平鍋
「てっさと源平鍋で味わうふく会席」(全8品)の提供は2月末まで。源平合戦に見立てた鍋の右側は、シンプルな牛しゃぶ。こちらも昆布とミカンをじっくり炊いた特製だしで。フグの旨みが溶けただしは、雑炊にして締めくくります。
10
『界 長門』のてっさ
美しい盛り付けのてっさはたっぷりのてっぴ(フグ皮の湯引き)付きです。
10
『界 長門』のフグの煮凝り
先八寸のひとつ、ショウガが利いた琥珀色のフグの煮凝りは日本酒の格好のアテ。淡いグリーンの徳利とお猪口は萩ガラスです。
10

徒歩圏内に、気になる新顔だらけ

‟温泉街そぞろ歩き“を観光まちづくり計画のテーマのひとつに掲げた街の変化は、『恩湯』改装や『界 長門』の誕生だけではありません。朝食で供されたアジの干物は、近くの仙崎漁港で水揚げされた地魚を地元業者が加工した逸品。『恩湯』からすぐ、今春新設された『ひものや食堂ひだまり 長門湯本温泉店』へ行けば、食事はもちろん、土産用の干物を買うことができます。

昨晩の夕食で口開けの一杯に選んだクラフトビールは、築60年の元薬局を改装して3年前から醸造を始めた『365+1BEER』(サンロクロクビール)の品。滞在中に宿で触れた若手作家の萩焼をもっと見たいとスタッフに尋ねれば、その醸造所の斜め向かいにある『cafe & pottery 音(おと)』を教えてくれました。

どこも宿から歩いて10分圏内。ときに川辺での休憩を挟みつつ、気の赴くままにミニマルな旅を。それが、今の長門湯本温泉街でおすすめの過ごし方です。

『恩湯』の大浴場
岩盤から湧き出る湯を見ながら入浴できる『恩湯』(10:00~22:00)は、内風呂のみで入浴料は大人990円。温度はぬるめの39℃前後で、泉質はぬるりとしたアルカリ性単純温泉です。以前よりもコンパクトな浴槽は、泉質の良さが一番伝わる源泉かけ流しを叶えるためだそう。
10
『ひものや食堂ひだまり 長門湯本温泉店』の定食
地魚を堪能できる『ひものや食堂ひだまり 長門湯本温泉店』は、有難い通し営業(9:00~16:00)。アジ一夜干しとサワラのメンチカツがいただける写真の定食・あさなぎは1480円です。
10
『365+1BEER』のビール
『365+1BEER』が醸すビールは、常時6種前後で1本700~900円前後。定番のサンロクロクペールエールはフルーティーでコクがありながら軽やかな飲み心地。タップルームで飲む場合は、フルグラス(475㎖)850円です(営業詳細はInstagram@sanrokuroku_beerで要確認)。
10
『cafe & pottery 音』のコーヒーとケーキ
今春襲名したばかりの16代坂倉新兵衛など、話題の陶工3名の作品に触れられる『cafe & pottery 音』(10:00~16:00)は、ティータイムにもお薦め。コーヒーもケーキも、すべて萩焼にて供されます。写真の音信(おとずれ)ブレンドは650円。チーズケーキ700円は、山口県産のハチミツをかけていただきます。
10

掲載号
2024年12月号

詳しくはこちら