島根『界 出雲(いずも)・界 玉造(たまつくり)』で松葉ガニ遊戯

今回訪れたのは、島根の『界 出雲』と『界 玉造』。「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトに、その地域の伝統文化を生かしながらご当地の魅力を発信する温泉旅館「界」ブランドの2軒です。どちらも目当ては冬のご馳走・活松葉ガニの会席。各々の地域色を生かした異なるアプローチが、味わいどころです。

松葉ガニ×キャビアの贅沢な組合せ

まずは、出雲大社から北へ車で20分ほど、島根県出雲市の日御碕(ひのみさき)にある『界 出雲』のご紹介から。こちらの温泉旅館が提供する“八雲立つ蟹会席”は全8品。その一品目・松葉蟹の灯台盛りは、甲羅を器に山高に盛られた松葉ガニの身に3種の食材を添えながらいただきます。

キャビアと共に口にすれば、旨み濃厚な塩気がカニの甘みを鮮明に。生ウニを絡めれば旨み倍増。カニミソとの相性は言うまでもなく。斬新で贅沢な組合せが刺激的です。

そのほかにも、ふわふわのカニ真薯や内子と外子を混ぜ焼いたグラタンなど新味満載。終始カニ身をほぐさずにいただける有難い仕立ても魅力です。

『界 出雲』の松葉蟹の灯台盛り。
『界 出雲』の松葉蟹の灯台盛り。盛り付けのイメージは、旅館の目の前に立つ日御碕(ひのみさき)灯台から。唯一ほぐす必要があるカニ脚は、「ほぐす楽しさ」を伝えるための、ちょっとした演出とのこと。脇に添えてあるのは橙酢と、カツオだしに梅干しの酸味を程よく利かせた煎り酒です。
『界 出雲』の八雲立つ蟹会席
『界 出雲』の八雲立つ蟹会席は3月上旬までの提供(2名1室利用の場合、1名あたり1泊2食付で45000円~)。松葉蟹と三つ葉の土鍋ご飯や和牛と十六島(うっぷるい)海苔の小鍋なども付きます。『島根ワイナリー』のロゼワインを使ったシロップでいただくデザートは、日本酒ペアリング(6種2200円)ならではの提案で「玉櫻」のとろとろにごり酒のぬる燗と共にいただくのも乙です。
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岬に立つ『界 出雲』は絶景の宝庫

「‟灯台と水平線を望むお詣り支度の宿“が当旅館のコンセプトで、宿泊客の9割が出雲大社の参拝客。海から昇る朝日も海に沈む夕日もお楽しみいただける立地が魅力です」と総支配人の片山 航さんが自慢する絶景は、旅情抜群。青空を移す凪いだ海面や紺碧の海に映える白波…。テラスや大浴場、東西に面する客室のどこからでも楽しめる日本海の表情は、常にドラマチックです。

毎晩披露される石見神楽(いわみかぐら)“国譲り”で出雲大社の成り立ちを学び、塩分多めの強塩温泉で身を禊げば、お詣り支度は万全。1日2組限定の「出雲大社お詣り支度プラン」を選んで、出雲国風土記を参考に神様に献上する食事を模した神饌朝食や御神酒をいただいたり、出雲大社をガイド付きで巡るのもおすすめです。 

『界 出雲』の露天風呂
出雲松島を眼前に望む露天風呂には、身体をのばして寛げる寝湯スペースも備えられています。
『界 出雲』のご当地部屋「彩海(さいかい)の間」
ご当地部屋「彩海(さいかい)の間」は写真の日御碕灯台を望むタイプと出雲松島の景色を望むタイプの2種類があります。2名1室利用の場合、1名あたり1泊2食付で31000円~。
『界 出雲』のご当地楽「石見神楽」
伝統文化を楽しむご当地楽「石見神楽」のワンシーン。演目・国譲りは神々が戦う場面途中での衣装替えも見どころです。
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全客室に露天風呂を備える『界 玉造』

一方、奈良時代から続く玉造温泉に佇む『界 玉造』のコンセプトは、“いにしえの湯と出雲文化を遊ぶ宿”。24の客室すべてに露天風呂を備えたロマンチックな設えが魅力です。

日本酒発祥の地との説がある島根にちなみ、石見神楽の演目は日本酒が鍵となる勇壮な蛇退治“大蛇(オロチ)”。県内30蔵42種の地酒を飲み比べできるマニアックながらもフレンドリーな『日本酒BAR』があるのは、こちらだけです。

『界 玉造』のご当地部屋「玉湯(たまゆ)の間」
『界 玉造』のご当地部屋「玉湯(たまゆ)の間」は2名1室利用の場合、1名あたり1泊2食付で41000円~。
『界 玉造』のご当地部屋「玉湯(たまゆ)の間」の露天風呂
客室付露天風呂の湯船は、信楽焼(写真)かヒノキのどちらかです。
『界 玉造』の『日本酒BAR』
熱烈な島根酒サポーターの鈴木奈美さんが立ち上げた『日本酒BAR』は事前予約制。好みに応じた3種飲み比べを1000円でいただけるほか、部屋飲み用のお酒も頼めます。
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王道のカニ鍋は宍道湖特産のシジミ入り

『界 玉造』の冬の夕食は“タグ付き活松葉蟹づくし会席”。『界 出雲』と同じく松葉ガニを主役にしながら、その内容は一つたりとも被っていません。

程よく創意を交えたメインは、地元・宍道湖(しんじこ)名産のシジミとの見事な出合いに唸る蟹すき鍋と、豪快な杉板奉書蒸しの2トップ。脇を固めるのは蟹刺し、焼き蟹、甲羅焼きなどで、締めは鍋だしで作る蟹雑炊。
せっせと身をほぐす達成感も含めて、これぞカニ料理!という王道の安心感も、やはり良いものだなと実感します。

「当旅館と『界 出雲』で連泊される方も、たくさんおられます」と、予想を超える相乗効果を満面の笑みで語る総支配人の岡本昌裕さん。まるで違う島根酒とのペアリング体験を経て、島根酒の魅力に目覚める方も少なくないそうです。

主題が同じだからこそ、際立つ違い。島根を深掘りできる愉快な蟹比べは、この2軒の組合せでしか味わえません。

『界 玉造』の蟹とシジミの鍋
『界 玉造』の蟹とシジミの鍋。重厚感のある漆黒の鍋は、島根県の石見地方で生産されている石州瓦(せきしゅうがわら)と同じ素材で誂えた特注品。最初にシジミだしを堪能してからカニ身や野菜を投入。粗挽き黒コショウ、黒酢ポン酢、一味唐辛子の薬味で味を変えながらいただきます。
『界 玉造』の「タグ付き活松葉蟹づくし会席」
『界 玉造』のタグ付き活松葉蟹づくし会席は3月上旬までの提供(2名1室利用の場合、1名あたり1泊2食付で63000円~)。地元窯の酒器と共に島根酒を楽しめる日本酒ペアリングは6種2500円です。ほのかに杉の香りが漂う奉書蒸しは、ミネラル感のある『隠岐(おき)酒造』の「隠岐誉 純米吟醸」と。焼き蟹は『李白酒造』の「特別純米 やまたのおろち 超辛口」の燗酒という組合せで。
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あまから手帖2025年1月号

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