浜名湖の畔、静岡『界 遠州』で煎茶を嗜(たしな)む

今回ご紹介するお宿は、静岡県浜松市の舘山寺温泉にある『界 遠州』です。「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトに、その地域の伝統文化を生かしながらご当地の魅力を発信する星野リゾート発の温泉旅館ブランド「界」の一軒は、日本一のお茶処に相応しいアプローチが満載。煎茶が香る露天風呂や煎茶とのペアリングを自由に楽しめる「ふぐうな会席」など、遠州ならではの‟煎茶漬け”の時間が待っています。

フグも鰻も味わえる“ふぐうな会席”

脂がのった静岡・浜名湖名産の鰻の白焼きをミカンポン酢と橙酢で和えた先付は、口開けの一杯にと供されたオリジナル茶「爽華(そうか)」と共に。ハーブ的な香気が、爽やかな相性を奏でます。茶席で使われる山里棚にさりげなく盛り込まれているのは、熟成した身のもっちり感を堪能できるよう厚めにそぎ切りしたフグの昆布締め。旨みの余韻が口中に漂う間に煎茶「遠州さえみどり」を流し込むと、ほのかな渋みにフグの甘みがフワリと呼び起こされます。

フグの唐揚げに続くメイン“うなすき”のペアにと薦められたのは、奥山で育った煎茶「両河内(りょうごうち)つゆひかり」。野趣を感じる緑の芳香がすき焼き仕立ての甘辛い鰻と予想を超える好相性です。

知られざる地元名物の周知を願って年中提供している夕餉“ふぐうな会席”は、フグと鰻のダブルキャストで展開する斬新な構成もさることながら、食中に煎茶を推す提案もまた、新しい刺激に満ちています。

『界 遠州』の宝楽盛
夕食「ふぐうな会席」は写真の宝楽盛のほか、先付、煮物、お造り、揚げ物、甘味など全6品。写真のフグの昆布締めは、何も付けずに身の美味しさを味わいます。遠州灘の天然トラフグ漁獲量は、実は全国上位。漁期に伴い10月15日から1月10日限定で登場する「ふぐづくし会席」も人気です。
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『界 遠州』のうなすき
メインのうなすきは温泉玉子のほか、笹がきしたゴボウやシメジ、春菊も入って結構な食べ応え。白飯にのせて丼仕立てにしても。
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多彩なアプローチで“煎茶漬け”に

遠州とは、浜松市・森町・掛川市などの静岡県西部エリアのこと。浜松駅から車で約40分、浜名湖の舘山寺(かんざんじ)温泉に佇む温泉旅館『界 遠州』のコンセプトは“美茶楽(びちゃらく)湯治”です。

「静岡では日がな一日煎茶を飲むのが当たり前。日本一のお茶処らしい滞在を通して、煎茶の奥深さをお伝えできたら」と総支配人の原田湧介さん。味わうだけに留まらない煎茶体験がこの宿の自慢だと微笑みます。

遠州綿紬のインテリアで彩られた館内や客室を満たすのは、ホッとする茶香炉の香り。ウエルカムティーを兼ねて季節ごとの煎茶を振る舞う「美茶楽のおもてなし」で煎茶の知識を深めつつ一服したら、ヒバの浴槽に茶葉が浮かぶ露天風呂へ。脱衣所に備えられた棒茶や浅蒸し茶で水分補給しながら和のアロマ浴に寛ぎ、冷たい焙じ茶でクールダウンするのが、人気の流れです。

『界 遠州』の大浴場「華の湯」の露天風呂
2カ所ある大浴場は男女入れ替え制。どちらも露天風呂はありますが、写真の「お茶玉美肌入浴」を楽しめるのは「華の湯」のみです。
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浜名湖と茶畑を見下ろすラウンジのティーセラーに並ぶ12種類の茶葉がいつでも淹れ放題というだけでも贅沢なのに、夜には煎茶を使用したカクテル「おちゃけ」をサービスで提供。さらに、お茶を淹れるためのスペースまで設けた全室レイクビューの客室には、到着後・就寝前・目覚め後という3つの滞在シーンに合わせた3セットの茶葉と茶菓子、茶器が出番はまだかとスタンバイ。そそる提案の数々に誘われ、気付けばどっぷり煎茶に浸ってしまいます。

『界 遠州』の「おちゃけ」
煎茶を使用したカクテル「おちゃけ」は毎晩20:30と21:15に提供。季節によって内容は異なり、この日は森町のほうじ茶と炭酸水を合わせたジンベースのショートカクテル。
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『界 遠州』の客室「遠州つむぎの間」
ご当地部屋「遠州つむぎの間」は、お茶を淹れるための「茶処カウンター」を全室に完備していて、2名1室利用の場合1名あたり1泊2食付38000円~。
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『界 遠州』の露天風呂付客室「遠州つむぎの間」
室内中央にリビングテーブルを、浴室の脱衣所に畳敷きの小上がりを備える露天風呂付客室は3室のみ。こちらは2名1室利用の場合1名あたり1泊2食付51000円~。
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『界 遠州』の茶葉と茶菓子、茶器のセット
客室に用意されているお茶セットは全3種。香り・旨み・甘み・苦味のバランスが取れた「くつろぎ茶」には煎茶パウンドケーキ、苦みがなく旨みと甘みが強めの「おやすみ茶」には醤油味のあられ、苦味強めの「おめざめ茶」には干菓子。各々のお茶に合わせた茶菓子が付いています。
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手業のひとときで和紅茶作りに挑戦

「煎茶の伝統的な製法を色濃く学べる、手揉み製茶の体験が深化しました」。日本茶インストラクターの資格も持つスタッフ・竹野晋平さんがイチ押しするのは、2025年11月から始まる“和紅茶手揉み体験”です。

長年受け継がれている所作を習い、揉んでは乾燥させる工程を繰り返すうちに、深緑色の茶葉が漆黒へと変化していく様が何とも不思議。地元の製茶職人から指導を受けて手ずから完成させる和紅茶は、きっと愛おしい一杯になるはずです。  

『界 遠州』の「和紅茶手揉み体験」指導風景
和紅茶手揉み体験は、伝統文化の学びをすすめる界ブランドでの取り組み‟手業のひととき”のひとつ。静岡県手揉み保存会の師範資格を持つ『まるたま製茶』の鈴木康之さんに手揉み茶の技を学びます。
『界 遠州』の「和紅茶手揉み体験」イメージ
繊細な手使いで茶葉に圧力を加え、少しずつ水分を排出していきます。優しく揉むとフレッシュ感が出て、しっかり揉むと深みのある味わいになるそうです。
『界 遠州』の「和紅茶手揉み体験」試食イメージ
施設見学も含めて約3時間という濃厚な体験は1日1組限定(2~4名)で1名12000円。完成した和紅茶は『まるたま製茶』特製の緑茶あんのおしること共にいただきます。
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