
アラン・デュカス氏が伝えたいこと。「福井教室」開講
デュカス氏が語る、福井のテロワール
「アラン・デュカス氏来福 福井教室開講」と題した本イベント。『ESHIKOTO』にあるサイモン棟には、地元の料理人や生産者、工芸に携るつくり手、卸、学生など、食の担い手たち87名が集った。
8月29日から31日まで福井県を訪れたデュカス氏。滞在中には地元の生産者と交流。曰く「福井は大きなポテンシャルを持つ地域。テロワール(風土)があり、生産者がその価値を守り、お客様も好奇心旺盛」と語りました。さらに「完璧な食材は存在しない。完璧と思った時点で進化が止まる。福井の生産者はそのことを理解し、努力を重ねている」と、生産者への敬意を感じられる一言も。
第1部のトークセッションでは「料理王国」編集長の柴田 泉氏、弊誌編集顧問の門上武司氏と対談し、「地方で店を営むこと」について語り合いました。
まず柴田氏はフランスの食文化を例に挙げ「パリの洗練と地方の多様性、その両輪が支えている」と紹介。そのうえで「地方で店を開く際の着眼点は?」。
その問いかけにデュカス氏は「①周囲に何があるのかを知ること、②地域の食材や風土を理解し、活かすこと、③地元のお客様に来てもらえる工夫を考えること。この3点が大切」と明快に回答。自身もフランスだけでなく他国で店を営む経験から「料理ジャンルのDNAを守りながら、地域のテロワールを理解し生産者と繋がることが重要」と述べられました。
さらに柴田氏の「地方の料理人は、誰に向けて料理を作るべきか」という質問に、「ずばり地元のお客様のため」と即答。「レストランは食の場であると同時に、生産者や地元のお客様が、自然に交流できる場になるのが理想」と答えられました。
続いて登場したのは、月刊「あまから手帖」編集顧問の門上氏。90年代、デュカス氏がモナコの自店で開いたマルシェを例に挙げ、地域の食材の多様性を引き出すデュカス氏について触れました。デュカス氏は「同じ魚でも生息環境で味は違う。その違いを理解しなければ料理は成り立たない」と語り、福井・九頭龍川の天然鮎や伝統野菜「吉川ナス」、「黒龍」をはじめとした日本酒や地元のシェフたちの存在に言及。「福井には日本の食文化を支える要素がすべてある」と伝えます。
最後にデュカス氏は「福井の料理人に必要なこととは。生産者のこと、そしてテロワールを知り、より理解を深めること」と答え、笑顔でセッションを締めくくったデュカス氏。会場からは大きな拍手が送られ、福井の食文化が持つ未来への期待感が一層高まった瞬間となりました。
デュカス氏、福井の食と工芸に出合う、交流のひととき
第2部では、福井の食材と伝統工芸に触れる交流会が開かれた。会場には酒蔵や老舗、工芸の担い手らによる5つのブースが並び、参加者も交え賑わいを見せます。デュカス氏もひとつ一つのブースを巡り、生産者や職人の話に耳を傾けながら、実際に試食や試飲も。
最初のブースは、永平寺町の『黒龍酒造』。瓶内二次発酵によるスパークリング日本酒「黒龍AWA序」を手に取り、口に含むと「繊細で美しい泡立ち」と表現。次のブース、鯖江市の『漆琳堂』では越前漆器に触れ、「私は椀が大好きです。この漆器は伝統を継承しながら、デザインが進化している」と感嘆の声をあげました。
福井市の汐うに専門店『天たつ』のブースでは、塩だけで熟成させたバフンウニの卵巣「汐うに」を試食。11代目・天野準一氏から「獲れる浜により味わいが異なる」と説明を受けると、「素晴らしい味わいだ。フランスで作ることはできるのですか? ぜひパリに来て、ノウハウを伝えてほしい」と目を輝かせる一幕も。
さらに坂井市の海女・石森実和さんが紹介した粉わかめ「めのこ」にも興味津々。「ワカメと海水、太陽の光だけで作る」という説明に熱心に耳を傾けました。
最後のブースは美浜町の『山賊商店』。猪や鹿といったジビエ、三方五湖の鰻、古民家栽培のキクラゲなどを試食。特に鹿肉については「フランスで使っているものとまったく同じ味だ」と驚き、山から海へと水が巡ることで命が育まれるストーリーを、食材とともに堪能。
交流会を終えたデュカス氏は「福井には何でも揃っている。ここはガストロノミーがさらに発展する土地だと実感しました」と総括。会場は拍手に包まれ、福井の食文化の未来に大きな期待を感じさせるひとときに。
越山若水(えつざんじゃくすい)、福井の風土から広がる食の物語
そして今、福井では新たな挑戦が始まっています。
「FUKUI Gastronomy 越山若水(えつざんじゃくすい)」。
福井の食を旅の目的地とし、フェアやツアーを通じて人々が集い、語らい、交わる場を創り出すプロジェクトです。地域から世界へと広がる“福井発の食の物語”に、ぜひ注目してください。
【プロジェクト名】越山若水
【ホームページ】https://fupo.jp/lp/fukui-etsuzanjakusui/
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