清荒神のアツアツ練天を求め、意外と手強い中山縦走を踏破する

「登山の後の一杯は、登頂にも勝る至福の瞬間!むしろそれ目的に山に登る」と語る“酒飲みハイカー”ミツルさんとアラフォーの自称山ガール・おばやしが、初心者向けトレッキングと「下山後すぐに酒が飲める店」を訪ね歩く連載「下山go酒場」。
第9回目の今回目指す山は、宝塚在住のおばやしにとって地元とも言える中山最高峰。麓には中山寺や清荒神など名刹が並び、初詣をはじめ、休日には参拝客で賑わう。その背後にある中山はいくつかのピークが連なり縦走路がのびる。久々の縦走に気合が入るおばやしであった。

【下山後酒場3箇条】
1.遅くとも16時から営業している。
2.下山(登山)口から徒歩圏内、あるいは公共交通機関一本で行ける。
3.立ち飲みではなく、椅子席がある。

一枚岩の急登に四苦八苦し尾根道を目指す

ミツル
中山はおばやしさんの地元の山。もちろん登ったことはありますよね?
おばやし
いやぁ~実はないんです。毎年初詣に清荒神には参拝していたんですけどねぇ。はぁ、それよりお正月のお雑煮が恋しいわ。早く来ないかなお正月…。
ミツル
ほんと餅好きねぇ。さて、今回は阪急山本駅を起点に久しぶりの“縦走”ですよ!中山最高峰を経由し、下山後は二駅隣りの清荒神駅周辺で一杯やります。結構長い距離ですので頑張って行きましょう!
阪急山本駅から住宅街
阪急山本駅から住宅街を10分ほど歩けば、森の中へと入り、渓流沿いを進んでいく。
おばやし
はい! まずは阪急山本駅から東の方へ歩いて、『つばめ軽食店』を北に曲がる…。登山口までは案内板もあまりないので迷いそうですね。
ミツル
地図アプリなどを駆使して、迷わないように進みましょう。そして20分ほど歩けば、渓流沿いの道を山に入っていきます。「大聖不動尊」の立派な石門をくぐると、右は最明寺滝、左は中山最高峰へ続く分岐。酒場へ急ぐ我々は、もちろん滝は無視して左へと登っていきます。
中山最高峰ルート
阪急山本駅から住宅街を抜け登山口へ。最初のピーク満願寺西山までには、一枚岩の急登が続き、慎重に進みたい。アップダウンを繰り返し、中山最高峰を攻略したら、中山寺奥の院方面へ。分岐をしっかりと確認しつつ下山し、清荒神参道沿いの『ファータクラブ』へ向かう約4時間30分のコース
おばやし
大聖不動尊の分岐からは本格的な登りですね。最近取材で毎日2万歩も歩いて「ちょっとスリムになった?」なんて言われるんですぅ。けど、やっぱしんどい…カラダが重い…。
ミツル
(痩せたようには全然見えないんだが…そっとしておこう)

分岐から約15分で再び分岐となるふじガ丘です。ベンチもあり風も抜けて絶好の休憩スポット。ただしここから道は険しくなりますよ!

ン!?早くももぐもぐタイムかいな!
おばやし
だって、お腹が空いたんですもん。よしっエネルギーチャージも完了したから、レッツらゴー!

って、ちょっと待って!なにこの岩場⁉というか“岩の壁”やん。しかもどこまでも続いているように見える…これは初心者は注意が必要ですね。
大聖不動尊の立派な石門
登山道に突如現れる大聖不動尊の立派な石門。この先を右に行けば最明寺滝がある。
ふじガ丘の分岐からは一枚岩の急登が続く。しっかりと足場を確認しながら登る。
ミツル
ひとつ目の岩場を攻略したと思ったら次の岩場が現れて、油断がなりません。岩場の直登が難しい場合は、少し藪漕ぎをしますが、隅の方のルートを進んだほうが無難かもしれませんね。

でも背後の風景をご覧なさい。宝塚から大阪方面まで手に取るように望むことが出来ます。伊丹空港の滑走路もすぐそこにありますよ!

ツヅジのトンネルを抜け最高峰から長い下山道

おばやし
あひ〜しんどかった。この岩場を越えるのに軽く30分はかかりましたね。でも鉄塔から先は比較的平坦な歩きやすい尾根道が続きます。こんな道、だぁぁい好き!
ミツル
こらこら、平らな道になったら急にスピードを上げなさんな。こんなときこそ、周囲の自然をご覧なさい。ほらツツジの花がちょうど見頃ですよ。
ツツジ
4月後半から5月上旬にかけて、登山道沿いにはツツジが咲き誇る。
平坦になった尾根道になると、ミツルを振り払うかのようにスピードアップして歩き出すおばやし。
おばやし
ツツジもきれいですけど、それよりまたお腹が空いてきちゃった。この先にある満願寺西山の山頂で、お昼にしましょうよ。私、燃費が悪いんです。

そろそろ満願寺西山山頂かしら…。エ!? これが山頂。木に囲まれて全く眺望なし。
ミツル
残念ながら満願寺西山はランチスポットには不向きです。もう一つ先にあるピーク・長尾山でランチとしましょうか。ここから約30分程度ですよ。

さあ、満願寺西山から一旦下って、再び登れば長尾山です。
おばやし
ふぅう〜。長尾山登頂!結構眺めはいいですね。

モグモグモグ・・・。おにぎりおいしい〜!
ミツル
いかにも山頂のようですが、実はここが長尾山山頂ではないのです。山頂はこの先の木々の中にぽつんとあります。人は真実を知らないほうが幸せな場合がある好例です。
おばやし
なんスかそれ…。でもここから中山最高峰まではもうちょっとですね。道もしっかり整備されて歩きやすいです!ルンルンルン♪
長尾山
満願寺西山山頂を過ぎたあたりから中山最高峰方面を指差すおばやし。
長尾山の偽ピーク近くでは眺望よりも、なんぞおやつがないかザックの中身を注視。
ミツル
長尾山から中山最高峰までは約30分。山頂直下の分岐を右に折れると、すぐそこです!
おばやし
ツツジのトンネルと抜けてと・・・。やたー! 中山最高峰登頂成功! 山頂からは三田方面に連なる山のパノラマが広がっていますね!

山頂は比較的スペースもあって、一息つくにはちょうどいい!
ツツジのトンネル
ツツジにはさほど興味を示さず中山最高峰に向かってスキップで向かうおばやし。
中山最高峰からは北東に連なる山々を望むことができる。
ミツル
ご苦労さまでした! でもここから清荒神の参道までは、再び縦走路を1時間半程度歩かないといけません。
分岐も多く、途中までは「奥の院」、その先は「清荒神」の道標を見落とさないように下っていきましょう。

清荒神参道にあるツボを押さえた酒場『ファータクラブ』

おばやし
いや〜、下りといっても、途中に登りがあったりと、結構体力を消耗しました。でも清荒神の境内に入ると、ちょっと安心しますね。

あ、明石焼きの露店! 平日でも営業しているなんて、やはり参拝客が多いんですね〜。
ミツル
目指す『ファータクラブ』は清荒神と有馬街道の交差点のすぐ南です。こちらの売りは注文を受けてから揚げてくれる熱々の練天。そして豊富な日本酒。しかも、14時以降には休憩時間に入る飲食店が多い参道にありながら、15時開店という酒飲みハイカーに寄り添った営業スタイルです。
ファータクラブ外観
清荒神の参道沿いにある『ファータクラブ』。店内はカウンターの立ち飲みがメインながら、折りたたみ椅子や座敷もあるので、ゆっくり座って飲むことができる。
おばやし
あら〜、なんてステキなお店なのかしら。しかも「ちょい飲みセット」(1000円)なるお得なセットもあるじゃないですか! なになに? ドリンク+本日の小鉢+7種類ある練天のうち1品とな。

では私はちょい飲みセットの生ビール、小鉢のコーン天、ちぎり天ミックスで!

ぐびび〜ぷはぁ〜! やっぱり下山後のビールは最高! 見てくださいこのコーン天の大きさ! そして自慢のちぎり天は紅生姜、玉ねぎ、ごぼうなど10個以上も入ってますよ! う〜ん揚げ物バンザイ!
ミツル
こちらの練天は、京かまぼこの「はま一」からすり身を仕入れているから、上品で滑からな舌触りかつ、しっかりとした弾力と味わいが楽しめるのである。

コーン天、ちぎり天ミックス
さっくり揚がったコーン天はボリューム満点。
ちぎり天ミックスは、季節に応じて内容が変わる。好みに応じて添えられた辛子を付けて味変できる。
ミツル
では私もちょい飲みセットの瓶ビール(赤星・中)、小鉢はもろきゅう、練天はお好み焼きで!

そもそも変わった店名の『ファータクラブ』の「ファータ」とは、イタリア語で「妖精」という意味。女将の木村文重さんがオープンする際に、「FA」から始まる店名は長続きする、そして、他の店と被らない店名ということで命名したのよ。

酒飲みハイカーに便利な営業時間も、平日の午後の遅い時間に開いている店が少ないことを狙ってのことなのだ。まさに我々にとって女将さんは妖精? いや、天使!
女将さん、お好み焼き
以前は宝塚市内の別の場所でイタリアンの店を経営していた女将の木村文重(あやえ)さん。
一見すると小さな普通のお好み焼きだが、生地が練天になっているので、すり身のしっかりした味が楽しめる。
おばやし
今しがた女将さんから聞いた話を、さも前から知っていたかのように語らないでください!

じゃあ、次は宝塚ハイボール(700円)に、とうふ串天、チーズ串天(いずれも300円)、芋煮(500円)、ファータ焼き(980円)を〜。練天以外のメニューも充実しているのが嬉しいわ〜。
パルフェタムール、芋煮
宝塚市花のスミレをイメージして考案されたパルフェタムール(スミレのリキュール)を使った御当地ハイボール・宝塚ハイボール。
サトイモ、牛肉、コンニャクなど具沢山の芋煮(500円)。あっさりながら具材の旨みが凝縮されている。
ミツル
おばやしさんの胃袋には、呆れるを通り越してもはや尊敬するわ。

私はせっかくなので純米3種の呑み比べ(3種類の酒肴付き1000円)にしようかのう。お酒は兵庫・文太郎、岐阜・三輪の粉雪、新潟・丸にぼーいちでお願いします!
女将が厳選した日本酒も10種類以上あって、私のような日本酒党にも十分楽しめるのう〜。
おばやし
来ました、宝塚ハイボール!スミレのリキュールと宝塚発祥の炭酸水・ウィルキンソン、ウイスキーが層となって見た目も美しい!

これに熱々の練天串、そして具沢山の芋煮も登場!幸せだわ〜。
アッツアツの練天は香ばしい上に、すり身の旨味がふわっと広がって美味。醤油ベースの芋煮もホクホクですわ〜。

そんでもって宝塚ハイボールをグビリと。ウイスキーとほのかな柑橘系の甘味を炭酸水でさっぱりと仕上げて、どんなお料理にも合いますね〜。
とうふ串天、日本酒
通常は2つが一本の串に刺さっているとうふ串天(300円)はふわふわの食感。中からとろりとしたチーズが現れるチーズ串天(300円)。
好きな銘柄の純米酒を3種類選んで味わえる純米3種呑み比べセット。ホタルイカやエイヒレなど、3種類の酒肴も付く。
ミツル
もうメチャクチャな組み合わせですな。私は飲み比べセットに付いてきたホタルイカをライターで炙って、ちびちびと楽しむことにします。
おばやし
お! ファータ焼きも登場です。焼肉風のタレがしっかりと付いて、これはご飯が食べたくなります。え〜い! これはおにぎりセット(スープ、漬物、佃煮付き480円)は必須!
ミツル
おいおい、またシメにおにぎりですか!? やれやれ、付き合ってられませんなぁ。と言いつつ、私はもう一杯日本酒を…次は女将さんのおすすめをお願いします!
おにぎり
おばやしがオーダーしたシメのおにぎりセット。自分で頼んでおきながら途中で満腹になり、残りひとつをミツルに食べさせる横暴ぶりを発揮する。

profile

藤川満

藤川 満

神戸在住のフリーライター。全国各地の低山と酒場をフィールドに飛び回る。日本酒をこよなく愛し「日本酒では全く酔わない」が口癖。
instagram@fujikawamitsuru

おばやし

おばやし零余子

兵庫県宝塚市在住の独身アラフォー編集者。酒と酒場好きで、年々大きくなる身体に危機感を覚え山登りに目覚めるが、一向に痩せる気配なし。最後の晩餐は雑煮。

脱力系山歩き酒飲み連載「下山go酒場」

ベテラン酒飲みハイカー・ミツルと、初心者ハイカー・おばやしが下山後の至福の一杯を求めてトレッキング。

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