正直な食への愛が炸裂。『生まれた時からアルデンテ』/正和堂書店のおすすめ
第14回目は、フードエッセイスト・平野紗季子さんの鋭い感性が冴えまくった「生まれた時からアルデンテ」。
contents
生まれた時からアルデンテ(文春文庫)/平野紗季子
文章がおもしろくておもしろくて、最初から最後までただただ楽しく読みました。
フードエッセイスト・平野紗季子さんによる、平成の食文化を綴った新しい時代の味覚エッセイです。
独自の視点で書かれた自由で潔い文章は、とにかく新感覚!
ただただ美味しいものを綴るゆるりとしたエッセイでは全くありません!
平野さんの言葉には、しっかりとした軸というか、信念のようなものを感じるのです。
たとえば、パフェについて。
「ようするに、多すぎる。」という一文に、心を持っていかれました。
パフェの語源は"パーフェクト"なのですが、実は私も、「量が多いから最後までおいしく食べられない。一体どこがパーフェクトなのだろう」と常々思っておりました。
甘いもの好きとしてなかなか言い出せなかった点を、平野さんは、冒頭であっさりと言ってくれたのです。
(信用できる・・!)私は嬉しくなりました。
平野さんはその後ももどかしい気持ちを抱えながら、ある日、パフェの名に恥じぬ完璧パフェを見つけだすのです。
「無駄にゴージャスにしない身の丈サイズ、過不足なしの満足感、だから最後までおいしい。」
ほかにも「オブラートの華麗な跳躍 すごいシェフと我々の日常」では、世界一のレストラン、スペイン『エルブリ』のシェフのスペシャリテに、「消えるラビオリ」という革新的な料理があるとのこと。松の実とオイルをオブラートに包み、ボウルの水にさっと浸してから食べる。(書籍に写真が載っているので、ぜひ見てみてください)
ふと隣のページに目をうつすと、そこには見慣れたアンパンマングミの写真。
えー!!?
平野さんは、このスペシャリテとアンパンマングミを並列し、一緒じゃね? と言うのでした。(アンパンマングミもオブラートに包まれているのです)
アンパンマングミの「不可解で魅惑的な食感」は、『エルブリ』と同様、「予想を裏切られ、未知の感覚にぶち当たること。それを体を通して感じること」であり、「食から始まる発見の楽しさに目覚める可能性をアンパンマングミは隠し持っていたんじゃなかろうか」としています。
すごいシェフを、なんとなくの手放しで讃えるのではなく、そのスペシャリテの魅力とは一体何なのかと突き詰め、ご自身の独特な感性で捉えられているのがよく分かるエピソードでした。
心地の良い言葉を並べるのではなく、むしろ正直すぎるくらいの、媚びない言葉の数々。そして独自の哲学。
逆にそれが、食に対する真摯さや愛、そして貪欲さとして伝わってきました。
真面目に食と向き合う次のページには、一言だけのププッと笑えるページ。
ページを捲る毎にコロコロと思考が移り変わっているようで、作りも面白い。
食に対するパッションが詰め込みまくられた一冊。一読の価値ありです!

writer

正和堂書店
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大阪・鶴見にある1970年創業の街の本屋さん。3代目の小西康裕さんが「読書時間がより楽しくなるように」とデザインしたオリジナルブックカバーが大人気。2代目の典子さん、3代目の康裕さん・敬子さんご夫妻(と4歳の長女)、康裕さんの弟・悠哉さんなど、一家で奮闘するSNSの総フォロワー数は20万人!
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