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人生を支えてくれる女友達、最高。『シェニール織とか黄肉のメロンとか』/正和堂書店のおすすめ

大阪市、今福鶴見駅からちょっと歩いたところにある『正和堂書店』は、小西さんご家族が経営する街の本屋さん。実は鞄からチラ見せしたくなるオリジナルブックカバーが大人気の書店さんでもあります。本はココロのごちそうといいますが、ブックカバーに包んで大切に持ち歩きたい、おいしい本を書店員の小西さんにご紹介していただく連載「ブックカバーの下はごちそう」。

15回目は、江國香織さんの『シェニール織とか黄肉のメロンとか』。50代後半を迎えた3人の女性たちの愛おしい日常を描いた物語。将来への不安で揺らぐ気持ちがすっと晴れていくような長編小説です。

シェニール織とか黄肉のメロンとか(ハルキ文庫)/江國香織

いつか、そう遠くない未来にやってくる50代。
更年期や老い、友人付き合いはどうなっているだろう…。
そんな漠然とした不安がよぎることがあります。

シェニール織とか黄肉のメロンとか
「シェニール織とか黄肉のメロンとか」(ハルキ文庫)民子は母と静かに暮らす作家、理枝はイギリスでバリバリと仕事をし、結婚と離婚を何度か経験。早希は、夫と二人の大きな息子と暮らす主婦。イギリスから帰国した理枝が、しばらく民子の家に居候したいと訪ねてくるところから物語は始まる。三人は西麻布のビストロで再会を祝し、おいしい料理とワインを愉しみながらおしゃべりに花を咲かせる。
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大学時代、出席名簿の並び順から「三人娘」と呼ばれた民子・理枝・早希。
50代後半となった今も、それぞれ違う道を歩みながら、時折連絡を取り合ってきた仲です。

三人娘の関係がとにかく素敵で、読みながら私も、自分が最も自然体でいられる友人たちのことを思い出しました。

「たまにしか会わないのにーーそして、会わずにいるあいだ、それぞれ全然べつな生活を送っているのに――、会うとたちまち昔の空気に戻るのは不思議なことだ」
「結局のところ、あたしが腹を割って話せる相手は民子と早希だけなんだわ。
アドレス帖にはこんなにたくさん名前があって、なかには、かつてそれぞれに一時期、親密だった人たちもいるのに」


心の中で深く頷いてしまいました。
40代の私にとって、大学時代の友人は特別な存在です。
娘、妻、母、あるいは会社の一員、といった役割を持たない未熟な自分をすべて知ってくれているからこそ、いつ会ってもあの頃のまま飾らずにいられるのだと、改めて思いました。

タイトルにある「シェニール織とか黄肉のメロンとか」は、三人が大学時代に“未知のもの”として語り合った特別な言葉です。
そして50代になった今もなお、その言葉を覚えていて、同じ温度感のまま語り合える。そんな関係性がたまらなく愛おしいのです。

確かに、大きなイベントよりも、むしろ昔の何気ない会話やささやかな出来事の方が鮮明に残っているように思います。
私にとっては、セブンティーンアイス。
大学の寮の近くにその自販機があって、彼氏ができたらみんなに奢らなければならないという、今思えば本当にくだらないルールがありました(お恥ずかしい)。
いまでもセブンティーンアイスの自販機を見つけると、あぁ懐かしいなと微笑んでしまいます。

シェニール織や黄肉のメロンのように、ちょっとした思い出が確かに私の人生を形づくり、いまだに支えてくれています。

本作には10代から80代まで、三人を取り巻く素敵な人々がたくさん登場します。そしてどの世代にもその世代なりの良さがありました。
人生を味わうような三人を見ていると、冒頭のようなよくわからない不安はいつの間にか吹き飛び、この先の人生が楽しみになるほどでした。
なんとも清々しい読後感です。
乾杯のシーンも多いので、ワイン片手に読むのもおすすめですよ。

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正和堂書店

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大阪・鶴見にある1970年創業の街の本屋さん。3代目の小西康裕さんが「読書時間がより楽しくなるように」とデザインしたオリジナルブックカバーが大人気。2代目の典子さん、3代目の康裕さん・敬子さんご夫妻(と4歳の長女)、康裕さんの弟・悠哉さんなど、一家で奮闘するSNSの総フォロワー数は20万人!
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