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篠原哲雄監督×脚本家・千勝一凜さん/京都で「本と旅」の物語を綴る
リアル書店が支える世界観
東京都書店商業組合が開設した「東京の本屋さん~街に本屋があるということ~」というYouTubeチャンネルで配信中のドラマ「本を贈る」(約10分×全9話)のスピンオフとして生まれた映画「本を綴る」 。「面白い本屋さんは全国にまだまだある!」という声に応えるべく、映画ではが東京を飛び出し、那須塩原・京都・香川を旅します。
――どの土地でも印象的な書店が登場しますが、旅先のひとつとして描かれる京都では『恵文社一乗寺店』の存在感が圧倒的でした。
- 篠原監督(以下、篠原):
- 千勝さん(以下、千勝):
- 私は京都生まれなので、「恵文社がある」ということがいつからか自然な感じになっていました。とはいえ、出身は山科ですから、一乗寺は「わざわざ行く」ところでした。脚本にも活かしていますが、平台から眺める風景がわくわくさせてくれるのは、恵文社さんの最大の魅力だと思います。書店ではあるけれど、本の隣に文具が並んでいたり、本以外の雑貨が置いてあったり。いろんなものがあっていいんじゃないかというスタンスが、“本の居場所”という映画のテーマにもぴったりで、居心地のいい本屋さんです。
京都ならではのごはんがもたらす活力
――ロケ地としては、主人公が親友と訪れるおばんざい屋も古都らしい雰囲気で、物語に説得力をもたらしていたと思います。あの空間は実在のお店で撮影されたそうですね。
- 篠原:
- そうですね。花(遠藤久美子)が切り盛りするおばんざい屋は、錦市場にある甘味処『錦一葉』をお借りして、お店までのアプローチは『電氣食堂』の路地で撮影しました。暖簾ひとつで繋げる映画ならではの見せ方をしています。
――“京都といえば、おばんざい”といったイメージから、花さんはおばんざい屋に?
- 千勝:
- 大皿にのった料理を取り分けて提供するおばんざい屋は、どこか大家族の象徴といったイメージがあって、おばんざいには温かみを感じます。知らない隣のお客さんと同じものを食べるというスタイルが料亭や割烹に比べて家庭的で、祖母から受け継いだお店を大切にしている花さんに合っていると思いました。
――遠藤さんの佇まいも相俟って、訪れてみたいと思わせるごはん処でした。ちなみに、千勝さんは調理師免許をお持ちとのことですが、劇中登場するお料理もご用意されたんですか?
- 千勝:
- いえ。本当は作りたかったけど、京都での撮影期間中はホテル滞在で調理ができる場所がなかったんです。せっかくならばと、錦市場のおいしいものを用意させてもらいました。那須塩原ではヤーコンなどを収穫して、現地の食材でおにぎりをつくることもありましたよ。
――撮影期間中、食事はどうされてましたか? お気に入りのお店があったのでしょうか。
- 千勝:
- 京都での撮影は3日間しかなかったですが、泊まっていたホテルの界隈にある居酒屋に行くことが多かったですね。おでんなど心温まる料理がおいしくて、入り浸ってました(笑)。
- 篠原:
- 誰かが訪ねてくるんですよ、現場に。例えば、僕の仲間の豊島圭介という監督が編集中の息抜きにやってきた時は、寺町通で撮影をしていて。そのシーンに映ってくれてるんですが。撮り終わったらホテルの近くで呑むか、と訪れたり。長谷川朝晴さんが京都入りした日に一緒に行ったり。
- 千勝:
- 京都らしいお味の料理が楽しめて、落ち着ける空間でした。
いくつものご縁がつながった京都ロケ
――京都ロケで印象に残っているエピソードなどあれば、教えてください。
- 篠原:
- 事前にロケハンもして、京都らしい場所としてとてもいいと思った鴨川デルタでの撮影が無理だということになって、急遽別の場所を探すことになりました。京都出身のスタッフが「インクラインっていう場所がある」と言い出して、あの風景が撮れたのは印象的でした。なぜそこにいるのかがよく分からなくても、面白い場所だから、そこを通過していったんだということで。
- 千勝:
- 当日その場で脚本を変更して、フィルム・コミッション(映像作品のロケーション撮影の支援を行う公的団体)に当たってOKをもらって撮影しました。
- 篠原:
- あとは、西陣織の老舗『渡文』での撮影も思い出深いですね。
- 千勝:
- 主人公の宿泊先として、当初はゲストハウスを探していたんですが、通り沿いで音がうるさいとか、訪ねた時がたまたまお休みだったとか、どうにもそぐわなくて。そんな時に、歩いていると石畳になっている通りを見つけて、いい雰囲気だったので中を覗いたら、ちょうど社長さんがいらっしゃって。お話したら「うちはゲストハウスじゃないよ」って言いながらも許可してくださったので、とても京都らしい風情ある画をつくることができました。
――撮影にもご縁やタイミングがあるものなんですね。中でも京都は「つながり」が濃い街かもしれません。
- 篠原:
- そうですね。旅に誘われていくという場所として、京都はとても相応しい街。京都ターンでは、河原町を中心とした“いかにもな京都”ではなく、少し中心部から離れたエリアで京都らしい日常観が撮れたと思います。
- 千勝:
- すてきな京都の風景や風情がどんなふうに映し取られているか、劇場でお楽しみください。
――「本」と「旅」好きに刺さる要素が満載の映画「本を綴る」 。書けなくなった作家が旅先で出会う人々とのハートフルな化学反応をご覧あれ。さらにこちらでは、映画制作における篠原監督の「食」への思い入れについて伺いました。
【作品名】本を綴る
【関西の上映館】
2025年1月10日(金)~ 京都・出町座
1月24日(金)~ 大阪・扇町キネマ
【公式サイト】http://honwotsuzuru.com
【X】@honwotsuzuru
【Instagram】@honwotsuzuru
企画・製作:ストラーユ/配給:アークエンタテインメント
profile
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映画監督
篠原哲雄
東京都出身。明治大学法学部卒業後、フリー助監督として森田芳光氏・根岸吉太郎氏・金子修介氏らに師事する傍ら自主映画を撮り始め、8ミリ「Running High」がPFF’89で特別賞を受賞し、93年に16ミリの中編「草の上の仕事」でデビュー。代表作は、「月とキャベツ」(96)、「洗濯機は俺にまかせろ」(99)、第41回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した「花戦さ」(17)、「犬部!」(21)など。2024年5月に公開された「ハピネス」は、「本を綴る」と並行して制作された。2025年1月から放送開始の「アリスさんちの囲炉裏端」で初となるドラマ監督を務める。
![千勝一凜さん](/read/interview/__icsFiles/afieldfile/2024/12/17/plo.jpg)
役者・脚本家・プロデューサー
千勝一凜
京都市出身。本作では、脚本・プロデュース・キャスティングを担当。日本きもの着付け協会認定の着物着付け師範代であることから、おばんざい屋の店主・花を演じた遠藤久美子さんの着付けも担った。また、調理師免許取得しており、作中に登場する料理も手掛け、マルチに活躍。本作の前作となった東京都書店商業組合YouTubeチャンネル 東京の本屋さん~街に本屋があるということ~ドラマ「本を贈る」では企画・脚本・出演を担当している。
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