この恐竜がチョコレート!?小山進シェフが魅せる「大好きをつなげる生き方」展

兵庫・三田『パティシエ エス コヤマ』オーナーシェフ小山進さんによる初の個展が、神戸『フェリシモ チョコレート ミュージアム』で開催中。テーマは「大好きをつなげる生き方」。ショコラとアートが織りなす新たな世界は、子どもが喜ぶのはもちろん、子育て世代の大人たちも多くの気付きをもらえる展示となっている。

“遊び”がテーマの2企画を同時開催

神戸・中央区新港町にある『フェリシモ チョコレート ミュージアム』。世界のチョコレートやカカオに関する歴史や文化、ファッションやアートとのつながりなどを、大手通販会社『フェリシモ』がキュレーション。チョコレートの多様性や可能性を発信している。このミュージアムで開催中のイベントが、小山進シェフによる2つの作品展だ。

「大好きをつなげる生き方 小山進展」~遊びの中の土/遊びの中の紙~

フェリシモミュージアム
写真提供:フェリシモ チョコレート ミュージアム
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リアルなチョコレート恐竜、現る!

1つ目の展覧会が「大好きをつなげる生き方~遊びの中の土~」
パティシエでありショコラティエの小山シェフが、とんでもない作品を生み出した。写真のティラノサウルス、実はチョコレートでできているのだ!
このほか、ティラノサウルスやトリケラトプス、ステゴサウルスをはじめ、チョコレートで創作した恐竜10体が展示中。骨格や筋肉、皮膚の質感に至るまでリアリティを感じさせる驚きの完成度である。

「僕は子どもの頃、毎日のように動物や恐竜の絵を描き、粘土遊びをしていました。今思えば、平面(2次元)から立体(3次元)にすることを、あの頃から練習していたんです」。その“大好きだったこと”を身体が覚えていたという。

小山進シェフ
『パティシエ エスコヤマ』オーナーシェフ・小山進さん。2019年にはフランスで最も権威あるショコラ愛好会「C.C.C.」より、「世界のトップ・オブ・トップ ショコラティエ100」のうちの一人として表彰を受ける。その活動はパティシエ・ショコラティエとしての領域に留まらず、絵本『The Lost Treasure(双葉社)』(作・小山進、絵・にしのあきひろ)の出版も。ほか著作には『あなたの「楽しい」はきっと誰かの役に立つ(祥伝社)』などがある。
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今から3年前、『エスコヤマ』のお客様から“ティラノサウルスをテーマにした、デコレーションケーキを作って欲しい”という依頼が。「僕はパティシエでありショコラティエなので、チョコレートでティラノサウルスを作ろうと考えました。だけど、リアリティを持たせた恐竜を創作した事は一度もなかった。でも、なぜか造ることができそうな気がしていた」と、当時を振り返る。

チョコレートで恐竜を造るうえで、重要な技術は日々の経験から養っていた。「ポイントは数点ですよ」。例えば、チョコレートはフードプロセッサーで撹拌すると溶ける少し手前で粘土のような状態になること。また、チョコレートは32℃〜34℃で溶け出す性質を持ち、27℃で固まり出すということ。「これらの知識を頭に入れ、どれくらいの室温でどれくらいのスピードで作業をしなければいけないのか? プロとして経験の中で身に付けたのは、たったこれだけでした」。

つまり小山シェフは、ショコラを扱うための基本的なテクニックを組み込みながら、子ども時代の好奇心や遊びを振り返りながら創作に挑んだ。その結果、リアルな恐竜を思わせる、唯一無二のチョコレート作品を完成させたのだ。

「子ども時代に熱中・熱狂したことが原体験となり、今につながる経験があるのでは?」
そう小山シェフが話すように、恐竜が大好きな子どもはもちろん、子育てに奮闘する大人にも多くの気づきを与えてくれる企画展だ。

企画展1「遊びの中の土」
企画展1「遊びの中の土」。小山シェフがこの展覧会のためだけに制作した、チョコレートでできた10体の恐竜をはじめ、土から造り上げたお面の展示も。さらにはフォトグラファー・石丸直人さんの撮り下ろし作品も展示。
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恐竜
(C)NaotoIshimaru
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遊び心満載のパッケージデザイン展

2つ目は「大好きをつなげる生き方~遊びの中の紙~」
小山シェフ自らが発案する『エスコヤマ』ならではの独創的なパッケージの秘密に迫る企画展だ。“手で触れられるアート”と小山シェフ自らが話す、パッケージが生まれる背景を知ることができる。

「僕は中学生の頃、グラフィックデザイナーにもなりたかった」と小山シェフ。「特にパッケージデザインは凄く好きで。自分が生み出したお菓子に、どんな衣装を着せてあげようか?と。お菓子を我が子のように思いながら試作を繰り返し、その子の誕生を心待ちにしています」と話す。

例えば、家にアート作品があったとして、子どもたちはそれに直接触れる事が許されていないのがほとんど。そこで小山シェフは考えた。「僕はいつも、子どもが触れることができる、アート作品的な要素をお菓子のパッケージに忍ばせています。例えば、パッケージを手にした子どもが、それを使い自由に工作を始めてくれたら良いなぁ。そんな事を思いながらパッケージをお菓子と共に世の中に発表しているのです」。

大人には気が付かないそんな要素を、子ども達へのメッセージとして、パッケージにこっそりと入れ込むのが小山シェフらしい。驚いたことに、そのパッケージにはQRコードを付け、映像や音楽もリンクさせる事ができるものもあるのだとか。「視覚、触覚、味覚が連動し、感性豊かな次世代の表現者が生まれて欲しい。いつもそう願っています」。

最後に小山シェフはこう話してくれた。
“自由で良いんだよ”
「この言葉は、お菓子づくり周りにある全てのクリエイティブを、今までずっと我流で進んできた僕から子供達に向けてのメッセージです。僕の無茶でわがままな発想を諦めず最終形に着地させてくれている優秀なデザイナー達にも絶大なる感謝を込めて」。

パッケージ
会場内の「creative walk」に並ぶ、小山シェフが手がけたパッケージの数々(一例)。
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フェリシモ チョコレート ミュージアム
会場では、アーティスト・石村嘉成さんによる展示会「カカオの森に生きるいのち」も同時開催。熱帯のカカオベルトに生息する生き物たちのアクリル画の展示も一緒に鑑賞を。
写真提供:フェリシモ チョコレート ミュージアム
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