伊勢湾と太平洋が育んだ海の幸の宝庫 ~三重県南部食材試食・商品商談会レポート~

 南北に細長い形をしていることから、北部・中部・南部の3つのエリアに区切られる三重県。今回は三重県の中でも南部エリアに限定した、食材試食・商品商談会を開催しました。参加者は昨年11月末に行われた『ホテルオークラ京都』での「みえの食PRレセプション」 に参加し、当企画への参加を希望した料理人たち。 食材視察で訪れたのは、ミネラル豊富な伊勢湾の水と、太平洋を流れる黒潮が出会うことで、関西でも有数の漁場が形成された「伊勢志摩地域」。商談会では、豊かな自然環境に恵まれた「東紀州地域」の業者も出店しました。さらに参加者たちは、三重県南部の食材をフル活用したシェフズミーティングを開催。自ら、三重県南部の食材・食品を調理して、その味わいを実感されました。盛りだくさんの2日間の様子をレポートします。

鮮度抜群の養殖魚をブライン凍結で全国へ 『長栄丸水産』

 最初の視察地として訪れたのは、三重県大紀町にある『錦漁港』。こちらで養殖業を営んでいる『長栄丸水産』の西村宗伯さんに、漁船に乗って、シマアジとクエ、マハタの養殖場を案内していただきました。錦漁港はもともと潮通しがよく(海水が常時入れ替わっていること)、魚にとって住みやすい環境にあるのだとか。いけすの中でのびのびと育った魚は、プリッと身が引き締まっており、“軽めの乗り具合におさえている”という脂の甘みがふわっと広がることが特徴。これを-35℃の「アルコールブライン凍結」で、瞬間凍結したものを出荷しており、関西はもちろん、関東の飲食店からも需要を集めているそうです。

西村宗伯さん
「“魚の生臭さをおさえる”などの理由から、魚粉ゼロ飼育も検討しています」と西村さん。参加者からも、エサについての質問が多く挙がっていました。
参加者のみなさん
バシャバシャと勢いよくエサに食いつく、活きのいい養殖魚の姿に、参加者たちも目が釘付け。
マダイ
出荷を待ついけすには真鯛の姿が。日焼けを防ぐために、日よけ用の網をかけて飼育したことで、美しい赤色が保たれていました。
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伊勢志摩の獲れたてを目利きして販売『丸義商店』

 次に向かった志摩市にある『丸義商店』は、近隣の波切(なきり)漁港などで水揚げされた、新鮮な海産物を販売する店。プロの目で目利きした、厳選された海産物だけを扱っており、観光客や地元の人たちからも厚い信頼を集めています。取材の日は、鮮魚のほか、貝類、干物、海藻などが所せましと並んでおり、中でも、ホタテにも勝るともいわれる、濃厚な風味が特徴の「バタ貝」は、その色鮮やかな見た目でも注目の的に。店奥のいけすでは、獲れたての伊勢海老がスタンバイしており、店のスタッフによると「今年の伊勢海老は平年並みだった」とのことでした。

バタ貝
正式名称は「ヒオウギ貝」。ホタテ貝と同じイタヤガイ科の貝で、地元では「アッパッパ貝」の名でも親しまれています。
料理人さんたち
厳選された海産物が種類豊富に並んでおり、参加者たちは一つひとつの食材に、真剣なまなざしを向けていました。
あおさ
葉が広く、ボリューミーなことで知られる伊勢志摩の「あおさ」。伊勢志摩のリアス海岸は、あおさの生育にとって、絶好の環境にあるといわれています。
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鳥羽が誇るブランド魚「トロさわら」『鳥羽磯部漁業協同組合』

 その次に訪れた『鳥羽磯部漁業協同組合』(三重県鳥羽市)では、鳥羽が誇るブランド魚「トロさわら」を見学。「トロさわら」とは、10月~翌1月頃に鳥羽で漁獲されるさわらの中でも、一本釣りによって漁獲された、脂肪含量10%以上のさわらのことをいい、例年、水揚げされたさわらの1割弱しか、「トロさわら」として認定されないそうです。中トロをも思わせる、脂の乗りが自慢ですが、その理由は、「脂の乗ったイワシなどの小魚を、たくさん食べて育っていること」にあるのだとか。大阪・肥後橋『鮨美寿志』で腕をふるう、寿司職人の井上宜浩さんも、『脂が乗った身はもちろん、皮にも旨みがある』と大絶賛でした。

説明する漁協の職員の方
「対象サイズは2.1~4.0㎏で、船上で活締めするなど、さまざまな基準をクリアしたものだけが、トロさわらとして出荷されます」と職員の久保田正志さん。
料理人のみなさん
目の前で実際に脂質含量を計測したところ、15%と基準をクリア。「背側で測って15%なので、腹側はもっと脂が乗っていると思います」
トロさわら
尾ビレに付けたブランドタグが「トロさわら」の証。裏には、このさわらを釣った漁師の船名が記されています。
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三重県南部の個性豊かな食材の美味しさを体感『試食・商談会』

 翌日の午前中は、志摩市志摩文化会館にて「三重県南部業者による試食・商談会」を開催。三重県南部の13の業者が出店し、参加者たちに自慢の食材をPRしました。三重県南部といえば、海産物とその加工品や、三重ブランドの「熊野地鶏」が有名ですが、そのほかにも、オレンジとレモンをかけ合わせた「マイヤーレモン」や、“日本の唐辛子・供給基地”を目指す「熊野唐辛子」、特殊な繊維層に染み込んだ水分を気化させた空間の中で野菜を育てる、独自栽培技術「Moisculture」で育てたマイクロリーフなど、魅力あふれる食材がお目見え。『ホテルモントレ』の極楽地勝三さんは「生産者の食材に対する愛情を調理人たちが引き継ぎ、お客さまの満足につなげていきたい」と話していました。

みかんじゅうす
御浜町『ささのうち農園』の無添加100%のみかんジュースは、平均糖度10度で、濃厚な旨さに加え、ゴクゴク飲める美味しさにブレンド。
伊勢茶スパークリング
伊勢市『伊勢商人』の伊勢茶を使ったスパークリングタイプのノンアルコール飲料は、すっきりとした飲み口で、和洋中さまざまな料理にマッチ。
ブルーベリー
主に自動車部品を作る熊野市『熊野精工』では、2024年に農業部門を立ち上げ、ブルーベリー栽培を開始。酸味が少なく、甘いブルーベリーは、ジャムなどに加工するのもおすすめ。
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意外な食材も注目の的に『食材試食会・情報交換会』

 午後は同会館の調理室にて、参加者たちが三重県南部の食材を使って、実際に調理を体験。自ら手にとって、食材の特性を確かめることができる、貴重な機会とあり、参加者たちも意欲的に調理に取り組んでいました。実際に料理に仕立てたことで、トロさわらや熊野地鶏の実力を実感することができましたが、意外にも、参加者たちの注目を集めていたのが、鳥羽市『海童工房 魚寅』の鳥羽産の鰆のコラットーラ。こちらの魚醤を使ってリゾットなどを作った、京都・紫野『イタリア食堂 ガロッパーレ』店主の東 晃志さんは、「深い旨みを感じる魚醤で、クールブイヨンの美味しさを引き立ててくれた」と話していました。

 三重県南部の食材を見て・作って・味わった今回の旅。特に、『食材試食会・シェフズミーティング』では、参加者がそれぞれの得意分野を生かして作り上げた、バラエティ豊かな料理がずらり。自店の新メニューの発想にもつながる、有意義な2日間になりました。

熊野地鶏のトマト煮込み
熊野地鶏を使ってトマト煮込みなどを作った、京都・烏丸丸太町『RESTAURANT Synager』オーナーシェフの北岸寿規さんは「しっかりした肉質で、脂がほどよい、味の濃い鶏肉」と高評価。
『凌霄』森山陽貴さん
 トロさわらをさばく『凌霄』森山陽貴さん。「さばくだけで脂のきれいさが分かります」。
真鯛のカルパッチョ
 調理室で作ったとは思えない、盛り付けにもこだわった料理が次々と並び、参加者からも、「少ない時間で、これだけのクオリティの料理が作れるとはさすが!」の声が上がっていました。
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