お手軽ワインを求めて、路地奥の癒しのカウンター『空想コンプリート』へ

一日の疲労を癒したり、興奮をクールダウンさせたり、明日の予定のためにテンションを上げたり――そんなときに立ち寄りたいワイン酒場が、大丸の裏手エリアにある。京都らしい細い路地を入ったところに。
たった数メートル奥まっただけで少し静かになって、とはいえ、緊張感漂うほど凛とした空気ではなく、肩肘張らずにワインが楽しめるビストロ風の店内は、お洒落すぎない親しみを感じさせて居心地がいい。手頃なものからレアな一本まで、セラーに詰まったオーナー・剛(ごう)さんのワインへの慈しみをぜひ味わってみてほしい。

店主の手書きタグから受け取るワイン愛

入口近くにでんと鎮座するセラーこそ、『空想コンプリート』の最大の魅力。ずらりと並ぶのは、「気軽にオトナ時間を楽しんでほしい」というオーナー・剛さんのお眼鏡に叶ったボトルばかり。手軽な価格帯のものを中心に、中にはなかなかお目にかかれない珍しいナチュラルワインまで、食中酒に最適なワインが幅広く揃っている。

ボトルがずらりと並び、客を迎えてくれる圧巻のセラー。
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これだけあるとどれを選んだらいいのか……と悩むのもごもっとも。ご心配召されるな。ここのボトルにはすべて剛さんオリジナルのラベルが掛けられているのだ。
産地や品種はもちろんその風味や特徴まで、一枚一枚手書きで記されている。

ちょっとした冒険心で初めましてのワインを選びたくなる。スパークリングワインはグラス850円~。
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「最近、老眼が進んで書くのも一苦労です(笑)」なんて言うものの、大好きすぎるワインへの愛が溢れんばかり。まるですり減ったHPが回復するポーションそのものだ。
選んだボトルのタグはリユースされるので持ち帰り不可だが、写真に残してコレクションするのも一興だ。

オーナー・剛さん。
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座ったら、まずは「泡とパン」一択

さすがにボトル一本は持て余すというなら、グラスワインをおすすめしたい。何よりも、泡。スパークリングワイン一択で。

スパークリングやシャンパンは抜栓するとどんどん気が抜けていくので、グラスでは提供しない店も少なくない。提供していても、開けてからの時間によってはシュワシュワがへたっていることだってある。泡の弱い泡なんて、泡じゃない!
その点、こちらではワイン好きたちがせっせとオーダーしてくれるので、常に活き活きとした泡を楽しめる。

パン コン トマテ600円。
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一緒に味わってほしいのが、メニューのトップに記されている名物「パン コン トマテ」。普段なら胃袋に溜まりやすく、口の中の水分を奪いかねないパン系の料理は避けるのだが……ここの「パン コン トマテ」は別格だ。

ムチモチ食感のパンは、京都発祥のブーランジェリー『ル・プティ・メック』のチャパタを使用。そのままだと柔らかくてニンニクとトマトを擦りつけられないため、カットしたものを冷凍しているのがポイントだ。
「そもそもオリーブオイルをかけて仕上げる料理なので、オリーブオイルを使ったパンの方が相性がいいのでは?」という剛さんの思惑どおり、ニンニクの香りとトマトのほのかな酸味がオリーブオイルとの絶妙なバランスを生み出している。噛んだ瞬間の、ジュワッと染み出てくる旨みを泡で流し込む至福たるや。恍惚である。

吞兵衛好みのソースで呑める一皿がある

「液体で呑める」は、呑兵衛が通過するステージのひとつ。その代表的な液体がおでんの出汁だろう。その習性をもつ方々にお試しいただきたいのが、「ソースで呑む」だ。
魚なら「鮮魚のポワレ」。鮮魚は季節によって変わるが、例えば、鰆に合わせてあるのは程よい塩梅に仕上げられたあおさバターのソースで、これだけで濃厚な白ワインの杯を進めさせる。

季節の焼き野菜が添えられた、鮮魚のポワレ1600円。魚は鰆。
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仔羊のバスク風トマト煮込み2200円。
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肉なら、仔羊などいかがだろうか。ラム料理が常にあるのは、ジビエ好きにはたまらないポイント。
ナイフもいらないくらいホロトロに煮込まれた仔羊から染み出た肉汁が、玉ねぎの甘みとトマトの酸味と合わさって、極上のソースとなっている。立ち上る湯気からの香りを嗅ぐだけで、喉の奥が赤ワインを欲する。
もちろん、これらの料理のソースはパンにつけて食べても美味だ。が、そこをあえて、ワインとのマリアージュをとことんまで味わってみてほしい。
しっかりメニュー気分じゃないなら、軽めのアテで。剛さん曰く、「パテでワイン、リエットとワインというサク呑みの常連さんもけっこういはりますよ」。

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writer

椿屋

tsubakiya

映画は「ひとり、劇場で!」がモットーの映画ライター。2024年鑑賞数は267本。人生の映画ハシゴ最高記録は1日7本。各媒体で、着物・グルメ・京都ロケ地といった切り口のレビューを担当する。超大作から自主映画まで、ノンジャンルな雑食。