
海の京都・天橋立~宮津で
丹後の地のもん、満喫の巻
あまからジャーニー
“海の京都”というキャッチフレーズもずいぶん耳に馴染んできました。日本海に丸い頭を突き出した丹後半島は、海の幸はもちろん、山や里の産物も豊富な食の宝庫。そんな丹後の美味を求めて行く「あまからジャーニー」第1回。和のオーベルジュで地の食材だけで仕立てる“京新感和食”を満喫します。
和のオーベルジュで “海の京都”を体感
天へと昇る架け橋──日本三景・天橋立。斜め横から眺めると海の上の浮橋のよう。その景観を、戦国武将で文化人としても知られる細川幽斎(ゆうさい)がことのほか気に入り、2本植えた松越しに愛でたのだとか。
今、“二本松”と通称されるこの地に、和モダンな一軒家が佇んでいる。和のオーベルジュ『amano-hashidate幽斎』。昼夜の食事のほか、1日2客のみの泊り客を受けている。
迎えるのは、岸和田安弘さん、史子さんご夫婦。岸和田さんは、かつての宮津城の堀端(現・宮津市役所の向かい)で100余年の歴史を紡いできた旅館の4代目だ。家業を継いで20年が経った2010年、老朽化した旅館を建て直すならばと思い切って業態も新しく、この地への新築移転に踏みきった。
「わざわざこの地に来てくださるお客様に、宮津・丹後を感じてもらうことが一番のもてなしになるはず」。スタイリッシュな館内は、地元にまつわる古物や骨董を配して旅情を誘う。2つのメゾネットタイプの客室は「千貫」と「龍燈」。名木とされた松の名から名づけたという。
そして何より、目の前の阿蘇(あそ)の海に天橋立が横たわるというこの上ないロケーション。さらに食いしん坊には素晴らしいもてなしが用意されている。
宿泊の客室はデザインの異なる2部屋。共に1階のダイニングで食事、2階にベッドルームがある。バストイレ付き。大きな窓から天橋立が眺められる。
地元客も驚嘆する“京新感和食
岸和田さんが仕立てるのは、オリジナルの“京新感和食”。
それはまず、魚介だけでなく肉や野菜、調味料まで良質な地元産を探し集めることから始まる。作り手の顔が見える素材たちを、和洋中の料理ジャンルを問わず、自由闊達な発想でコースに仕立てる。その料理は、「これがお馴染みのあの食材?」「こんな食べ方があったんや!」と地元客をも驚き喜ばせているのだ。
たとえば、我々が訪れたのはちょうど名産・トリ貝の時期。全13品のトリ貝尽くしコースは、「尽くしは、どうも苦手」という食通も、飽きさせるどころか満面の笑みにさせるパワー溢れるものだった。
造りは60℃で5秒だけ湯洗いして。お箸でツンと突くとうねうねと動くのだから仰天する。しかも梅味噌や由良産のオリーブ油、丹後の塩を、好みで組み合わせてどうぞというのだからワクワクだ。
焼き物は、よくある陶板焼きだと思ったら、アヒージョに変身。まずは醤油ダレでトリ貝の身をさっと焼いてレアでいただき、肝をひとつ残しておいて、オリーブ油とニンニクを加える。その肝の旨みをモンゴイカやレンコ鯛にまとわせ、さらに美味しいオイルもパンに吸わせて余さず味わう。
八寸では、トリ貝のヒモを90℃で10秒ボイルして糸モズクと酢の物に仕立てたり。朝揚がったサザエや、郷土料理の鰆のヘシコをディップにして赤大根でサンドしたもの、さらに「鹿カマです」と岸和田さんが悪戯そうに笑ったのは、隣町の上世屋の猟師から入れた鹿肉のミンチを、蒲鉾板に塗って焼いた斬新な一品。どれもこれも地元の風土に育まれたものだから、地酒が進みすぎる。
100%丹後の食材だけで作るオリジナリティあふれるコースは、初夏のトリ貝だけでなく、夏のアワビ、秋からはブリ、松葉ガニと、季節ごとに主役を代えていく。
“京新感和食”と謳うジャンルレスな料理はどれも、どこか素朴で、滋味深く、なんだかほっこりする味だった。食後は、浴槽に湯をたっぷりと溜め、アカモク湯を満喫。「入浴剤代わりに」と凍らせた海藻のアカモクを加えるとぬるぬるの湯になり、芯まであったまる上、お肌はすべすべに。手作りのもてなしに心も身体もほぐされた。
朝食は、加悦(かや)町の『才本とうふ店』の豆乳と、網野の『山と海with日本海牧場』のにがりで手作りするすくい豆腐や自家製干物、地卵の巨大な出し巻きなど。お浸しや木の芽ジャコなどの小鉢も丁寧な手作りで。土鍋ご飯は丹後コシヒカリ。地野菜満載の味噌汁に、自家製ハムと盛りだくさん。
駅前の土産物店に丹後の味たんまり
「今日のは根付きのアジやから脂のって美味しいですよ」と『幽斎』で朝食に出された干物。
家族にも食べさせたいと、どこかで根付きのアジが買えないか?と岸和田さんに尋ねてみたら、「干物ならココ」と紹介してくれたのが、天橋立駅前の大きなお土産物店『旬彩するめや』。
「根付きのアジ? ラッキーですね、今日はありますよ。うちでは“とろあじ”と名付けてます」。
先々代がスルメイカを商い始めて、今は4代目の娘さんが店に立つ老舗だ。漁港から仕入れたばかりの魚を開いて塩をしただけの地の魚介が、店先で干されている様は壮観。
干物の他にも地ものにこだわって選んだお土産は、なぜか酒の肴ばかりになってしまった。『竹中缶詰』は大阪でも買えるけど『旬彩するめや』スタッフ直伝のオイルサーディンごはんのレシピ付きがウレシイ。舞鶴発祥の万願寺唐辛子は、おかず味噌に仕立てられている。あ、これはご飯のともにもなるけれど。甘党のあの人のために、人気ナンバー1というモチモチ生地の「ピンと餅」も買っておこう。
左は「その日の気温や天候と、魚の状態を見ながら塩の仕方も変えます」と3代目が見せてくれたレンコ鯛。「朝揚がったのをうちで捌いて3時間干したとこです」。右は、とろあじ1枚432円。
ピンと餅8個850円、京風ちりめん山椒1080円、葉わさび594円、万願寺とうがらしのこうじみそ370円、『竹中缶詰』のオイルサーディン560円・かきのコンフィ975円。
【オススメ立ち寄りどころ】
「僕の同級生がやっているうどん屋が旨いんですよ!」と、『幽斎』の岸和田さんに勧められ、宮津城跡のほど近くにちょっと寄り道。『こんぴらうどん』は、本場讃岐にて修業された店主が、旨いうどんを出して地元で大人気だ。以前から、丹後を訪れるたびに一度食べてみたいと思っていた。
「讃岐ほど硬くなく、柔らかすぎないうどんを目指してるって言うてましたよ」との岸和田さん情報の通り、もっちりとしていながら、プツンと歯切れいいうどん。麺を柔らかくするために、地元『飯尾醸造』の「冨士酢」を練り込んでいるのだそう。
探求心旺盛なご主人は「毎日味を違えていく」とかで、品書きも随時変わるのだそう。黒酢を利かせたあんかけが独特で旨いと聞いたので、いつか食べてみたいな。でも、常連と思しき方が豪快に啜っていた海老天カレーも捨てがたし…。再訪を誓った、丹後からの帰り際、宮津での一幕。
「あまから手帖」2021年10月号でご紹介したのは、冷やしとり天1000円。柔らかな鶏モモ肉の巨大天ぷらが4つも。甘酢ダレをかけてさっぱりと。
『amano-hashidate幽斎』
【住所】京都府宮津市字須津2653
【電話番号】0772-46-6878
【営業時間】in15:00〜、out~10:00
【お料理】1泊2食コース37400円~。
https://www.you-sai.net
『旬彩するめや』
【住所】京都府宮津市文殊640-45
【電話番号】0772-22-3123
【営業時間】9:30〜18:00
【定休日】不定休
https://www.surumeya.com/
『こんぴらうどん』
【住所】京都府宮津市敦賀2057-32
【電話番号】0772-22-0700
【営業時間】11:00〜15:00
【定休日】不定休
https://www.facebook.com/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%B4%E3%82%89%E3%81%86%E3%81%A9%E3%82%93-159285457420427/
Writer ライター

団田 芳子
Yoshiko Danda