北陸新幹線で、禅の心に触れる旅【永平寺町】福井・前編

北陸新幹線で、禅の心に触れる旅【永平寺町】福井・前編

あまからジャーニー

2024.03.28

文・撮影/船井香緒里 トップ画像(北陸新幹線W7系)提供/JR西日本

PR:福井県

2024年3月16日、北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸開業した。関西と北陸を結ぶ「サンダーバード」は敦賀駅止まりで、新幹線への乗り換えが必要となるが、北陸新幹線に乗車して旅の新たな発見を楽しむのも一興だろう。

今回、紹介するのは『大本山永平寺』のある福井県永平寺町。「永平寺 親禅の宿 柏樹關(はくじゅかん)」で「禅」の世界を快適な環境で体感。さらには、老舗酒蔵『黒龍酒造』を擁する『石田屋二左衛門』が手掛ける、酒蔵複合施設『ESHIKOTO(エシコト)』へ。禅の心、そして福井ならではの食文化に触れる旅に出かけてみませんか?

目次

禅に親しむ『永平寺 親禅の宿 柏樹關』 『大本山永平寺』の坐禅体験へ 精進料理を味わい、心と体を養う。

禅に親しむ『永平寺 親禅の宿 柏樹關』

参道入口復元された参道の入口近く。永平寺川を望む場所に『柏樹關(はくじゅかん)』はある。

福井県の南側に位置する敦賀駅から、新幹線で北上すること約20分。福井駅に着いたらレンタカーを借りて一路、永平寺町へ。四季を彩る山々に囲まれたこの地は、鎌倉時代(寛元2年)。道元禅師によって開かれた『曹洞宗 大本山永平寺』のお膝元。修行道場では現在も約100名余の雲水と呼ばれる修行中の僧侶が、厳しい修行に励んでいる。

復元された参道の近くにある『永平寺 親禅の宿 柏樹關(はくじゅかん)』は、禅の心に触れられる宿として2019年に開業。旅館と宿坊の中間的存在として、快適な設備やサービスのなか、宿坊さながらの体験、さらには地元の旬素材を用いた精進料理を味わうことができる。

柏樹關永平寺川に架かる渡水橋を渡り『柏樹關』へ。建物の柱には、永平寺の敷地内から切り出された永平寺杉が使われている。

柏樹關大本山永平寺認定の「禅コンシェルジュ」が、永平寺への橋渡しはもちろん、『柏樹關』館内での坐禅体験など、禅の世界を案内してくれる。なお、ロビー横にある「開也の間」または客室にて写経体験もできる(開也の間での体験は当日予約制)。用紙代770円。 画像提供:柏樹關

『柏樹關』では、『大本山永平寺』で研修を受けた“禅コンシェルジュ”が在籍しており、館内で写経・坐禅体験ができる。しかし、何より特筆すべきは『大本山永平寺』での貴重な体験だろう。宿泊客は無料で境内での坐禅体験や、明朝の「朝のおつとめ」への参加が可能なのだ(※1)。
※1坐禅体験と朝のおつとめは、都合により実施されない日があります。

『大本山永平寺』の坐禅体験へ

柏樹關境内を三方の山に囲まれた深山幽谷の地。石畳の両側には、五代杉と呼ばれる巨大な老杉が何本も立つ。(画像提供:大本山永平寺)

1日目。チェックインを済ませたなら館内ロビーにて集合し、徒歩で永平寺へ。杉木立に包まれた境内は、凛とした緊張感が漂い、静寂に包まれている。案内された建物は、一般客の禅研修道場『吉祥閣(きちじょうかく)』。まずは雲水(修行僧)から永平寺の概要、参拝中の注意事項などの説明を受け、私語厳禁のほの暗い部屋へと案内され、いよいよ坐禅へ。

まずは、坐禅の姿勢を教わる。右足を左腿の上にのせ(半跏趺坐/はんかふざ)、可能であればさらに左足を右腿の上にのせる(結跏趺坐/けっかふざ)。両手は、へその前に置き手のひらを重ねて親指同士をつける。体は壁に向かい、目は開いたまま斜め下を見つめる。

鐘が鳴り、部屋が暗くなると坐禅の開始だ。
呼吸を意識しながら、無の時間…。とはいえ、慣れないと足が痺れ、正直言って辛い…。
挙手をすれば「警策(きょうさく)」と呼ばれる平らな棒で肩を「パンッ!」と打ってもらえる。静謐な空間に響くその音にビクッとしてしまうが、一瞬にして気が引き締まり雑念が振り払われる感覚に陥るだろう。坐禅体験の後は『寂光苑』など境内を散策することもできる。

宿に戻り、夕食までの時間、大浴場「香水海(こうすいかい)」でゆっくりと心身をほぐすのもいいだろう。

大浴場「香水海」の内湯では、香湯(こうとう)が用意されている。香湯とは、香木を煮出した香り高い湯のこと。永平寺では、特に神聖な行持をおつとめする際に「香湯沐浴」を行う。柏樹關では、永平寺と同じ成分・分量の配合で香木を用意。大浴場(内湯)で楽しむことができる。 画像提供:柏樹關

精進料理を味わい、心と体を養う。

『柏樹關』に泊まる最大の楽しみが、夕食に味わう精進料理。
「本来、精進料理とは修行僧の体を養い、心を養う料理です。私どもの料理は、お寺で出す精進料理とは別物ではありますが、その真理をお伝えできるよう心がけています」。そう話すのは、料理長の大平英幸さん。国内外の賓客を迎えてきた『ホテル椿山荘東京』で四半世紀に渡り和食調理を担当。『柏樹關』の開業にあたり、『大本山永平寺』の食事を司る典座老師(てんぞろうし)に師事し、永平寺に受け継がれる精進料理の技と心得を、徹底的に学んだ料理人だ。
「私が心がけているのは、どんな食材を調理するときでも全ての命に感謝するということ。野菜は根っこまで余すことなく用いるなど、始末の精神を大切にしています」。

柏樹關料理長『柏樹關』料理長の大平英幸さん。「料理づくりに大切なのは感謝の心、始末の心です。いただいている食材への思いはもちろん、生産者や流通の方々にも感謝の意をもち、食材を使い切ります」。なお、福井ならではの味覚を堪能したい方には、精進料理の技を活かした肉・魚料理なども含む和食コース料理もあり。

柏樹關料理料理の内容は季節により異なる。取材時の「前菜」。奥から時計回りに、胡麻豆腐 銀餡 山葵 / 翡翠茄子 / 蓮根と山芋の蒲焼 / 車麩フライ 蛇腹胡瓜 / 昆布有馬煮 加減酢ジュレ / 福井県産すこと茸の白和え /茸旨煮と胡瓜のあいまぜ 。

この日、いただいたのは特選精進料理(全10品)。
前菜には、「典座老師にお教え頂きました」と大平料理長が話す、胡麻豆腐や車麩フライも組み込まれている。艶やかで風味豊かな胡麻豆腐は、擦ったゴマを晒に包み水に浸けて揉むところから始める。その際に出る胡麻の絞りガラは、刻んだ椎茸旨煮とキュウリの「あいまぜ」の和え地に用いるなど、余すところなく活用。
いっぽう、車麩フライは、甘めに煮た車麩にパン粉をまとわせて揚げた一品。ザクっと頬張れば、じんわりと旨みが滲み出て、食べ応えもしっかり。また、鰻の蒲焼きを思わせる「蓮根と山芋の蒲焼」ほか、丁寧な仕事を感じさせる、味わい深い品々に心を掴まれるだろう。

柏樹關料理写真左/精進の造り。手前からアボカド、戻し椎茸、柚子こんにゃく、重ね湯葉、海藻麺。写真左/定番の煮物。飛龍頭、大根、しめじ、青味。

造りも、もちろん魚など動物性の食材のほか、五葷(ごくん)と呼ばれる香味の強い野菜は不使用。
干し椎茸を水で戻して火にかけ柔らかくした一品をはじめ、艶やかな柚子蒟蒻や、なめらかな舌触りのアボカドなど、工夫の窺える品が続く。
また、煮物で供される飛龍頭も典座老師・直伝の味。「他の料理の仕込みで出た、人参や椎茸の切れ端なども包み込んでいます」と、大平料理長。豆腐に大和芋を練り込んだ生地はふわっと柔らか。人参や椎茸、忍ばせた銀杏のホクッとした食感も心地よく、素材の持ち味がしっかりと生かされている。

柏樹關料理夕食のご飯物は、見目麗しい野菜の手毬寿司。茗荷、椎茸、焼き茄子、蓮根酢漬けは胡麻を混ぜ込んだ酢飯とともに。手前は、アボカド、パプリカ、おぼろ昆布。

ご飯物には見目麗しい野菜の手毬寿司を。さらに留椀には、大豆を潰してつくる郷土の汁物「打ち豆汁」を供するなど、地域の食文化を感じさせる精進料理の数々。五味だけではなく六つ目の味「淡味」。素材そのものの持ち味が引き出された、この土地ならではの旬の恵みを味わえば、「食は良き薬であり、心と体を養うもの」だという道元禅師の言葉を、しみじみと感じることができる。
ちなみにここは宿坊ではないため、飲酒は可能。福井県の日本酒5種(各40ml)飲み比べなど、地元の酒との相性も堪能したい。

柏樹關客室全18室。客室には、広々とした畳スペースをと、ツインベッドを完備。越前焼の湯呑みや洗面台、越前和紙の装飾など、福井・越前ならではの伝統工芸の技が至るところに見て取れる。

食後は露天風呂に浸かり安らぎの時間を過ごすもよし。越前和紙の装飾などがなされた、広々とした客室で、たまにはデジタルオフな時間を過ごすのもまた、よし。

柏樹關雲水は坐禅をはじめ、食事・排泄・就寝・掃除もすべてが修行。木造の廊下と階段の、ちりひとつない綺麗な状態に驚くだろう。(画像提供:大本山永平寺)

そして明朝。希望者は、永平寺で日の出前からたくさんの僧侶が務める「朝のおつとめ」などに参加が可能。宿のスタッフが、案内してくれる。
早朝の張り詰めた空気のなか、何十人もの僧侶による読経は、まさに荘厳の一言だ。その後は、永平寺の中でも特に見どころとなる建物の見学も。厳かな雰囲気と美しい景色を、心静かに味わいたい。

柏樹關傘松閣朝のおつとめの後は、建物内を見学することも可能。写真は「傘松閣(さんしょうかく)」の天井。昭和5年創建当時の著名な画家144名による花鳥風月をモチーフにした天井絵が描かれ、まさに圧巻の一言!(画像提供:大本山永平寺)

「朝のおつとめ」を終えた後は、帰館してお待ちかねの朝食。艶やかなお粥を、10種近い小鉢料理と共に味わうことができる。永平寺の修行僧が毎朝必ず食べるのもお粥なのだそう。粥(しゅく)の力により生かされ、体を整え、その生命の上で修行に励むのだ。

『柏樹關』で過ごす1泊2日は、自らを律し、全ての物事に感謝し、ムダを省き、生き方を見つめ直す。つまり、丁寧に生きるという禅の教えを学び、自分自身を整えていく悦びを実感することができるのだ。 (後編へ続く)

朝食の献立は、肉大豆甘辛煮をはじめとした小針の料理をはじめ、紙鍋で供される汁物、おかゆ、デザートも付く充実の内容。

■店名
『永平寺 親禅の宿 柏樹關』
■詳細
【住所】福井県吉田郡永平寺町志比6-1
【電話番号】0776-63-1188
【営業時間】in14:00~、out~10:00
【宿泊】1泊52800円~(客室1室、大人2名分)
【公式サイト】https://www.hakujukan-eiheiji.jp/

Writer ライター

船井 香緒里

船井 香緒里

Kaori Funai

「Kaorin@フードライターのヘベレケ日記」でお馴染み。酒と酒場と音楽をこよなく愛し、「Led Zeppelin」、「The Who」はじめ60〜70年代の洋楽ロック好き。愛用するスピーカーは「Tannoy ⅢLZ」66年製。アウトドア好きでもあり、ジョギングとロードバイクにて健康維持。https://kaorin15.exblog.jp/

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