禅の町で出合う、福井の美酒と食文化。【永平寺町】福井・後編

禅の町で出合う、福井の美酒と食文化。【永平寺町】福井・後編

あまからジャーニー

2024.03.29

文・撮影/船井香緒里 

PR:福井県

北陸新幹線が金沢〜福井県敦賀市まで延伸開業したことにより、今、注目すべき旅先のひとつが福井県だろう。『曹洞宗 大本山永平寺』のお膝元、永平寺町で過ごす1泊2日。前編で『永平寺 禅の宿 柏樹關(はくじゅかん)』を拠点に禅に触れた翌日は、老舗酒蔵『黒龍酒造』を擁する『石田屋二左衛門』が手掛ける酒蔵複合施設『ESHIKOTO(エシコト)』へ。福井の旅・後編は、この地域ならではの風土と食、人々との交流を楽しみます。

目次

酒蔵複合施設『ESHIKOTO』とは? 『黒龍酒造』の伝統と革新を持ち帰る 食事も手土産も福井メイド『acoya』 店舗情報

酒蔵複合施設『ESHIKOTO』とは?

ESHIKOTO3万坪の敷地にある酒蔵複合施設『ESHIKOTO』。2024年には、オーベルジュをはじめ新施設が開業予定。

ESHIKOTO『ESHIKOTO』の目前には、県内最大の河川、九頭竜川が流れる。永平寺町はその中流に位置し、清流の町としても名高い。

荘厳な禅の世界に触れた翌日は、『永平寺 禅の宿 柏樹關』から車を走らせること約15分。のどかな山間の景色にモダンな建築美が映える、酒蔵複合施設『ESHIKOTO(エシコト)』へ。1804年創業、『黒龍酒造』を擁する老舗酒蔵『石田屋二左衛門』が創造したオリジナルブランド名でもあるこの施設は、お酒を核に福井を中心とした北陸の文化を伝える場所。

「えしこと」とは、日本の古語で「よいこと」という意味をもつ。反対から読めば「とこしえ(永)」。人々が集い、福井の良さを楽しむ拠点に、という思いが込められている。

3万坪の敷地には「酒樂棟(しゅらくとう)」と「臥龍棟(がりゅうとう)」の2つの施設が。酒樂棟には、黒龍酒造直営の酒販店『石田屋ESHIKOTO店』のほか、レストランとパティスリーからなる『Apéro & Pâtisserie acoya(アペロ&パティスリー アコヤ)』が入る。

いっぽう、臥龍棟は現在、一般非公開だが、今回取材で特別に見せていただいた。イギリスの建築家サイモン・コンドル氏が設計を手掛けた、天井高10m以上ある施設内は、まるで大聖堂のよう。貯蔵セラー「臥龍房(がりゅうぼう)」では、温度を12℃で管理。瓶内二次発酵のスパークリング日本酒「ESHIKOTO AWA」を熟成させている。この熟成により数年後、いや10年後はどのような酒に進化しているのだろう。 2024年に創業220年目を迎えた『石田屋二左衛門』の、新たな挑戦に期待が高まるばかり。

ESHIKOTO臥龍棟にある貯蔵セラー「臥龍房」。施工には、古民家の古材や、福井・足羽山周辺で採掘される稀少な笏谷石(しゃくだにいし)を用いるなど、当主のこだわりが随所に光る。

『黒龍酒造』の伝統と革新を持ち帰る

ESHIKOTO『石田屋ESHIKOTO店』には、この店舗でしか買えない銘柄が揃い、黒龍酒造のファンにはたまらない空間。店奥のカウンター席では、酒のテイスティングが可能。季節限定品はもちろん、ノンアルコールドリンクも用意。

酒樂棟の酒販店『石田屋ESHIKOTO店』を訪れると、凛とした空気が漂い、身が引き締まるような気分に。
「福井の自然の恵みも感じていただける場所に」と話すのは、スタッフの簑葉 望さん。壁には漆黒の越前和紙が張り巡らされ、木製のチェストは伝統工芸品の越前箪笥。また、床には笏谷石が網代のようにレイアウトされ、左官職人の研ぎ出しにより完成したカウンターが、刻の移ろいを反射させる。地元が誇る伝統工芸の、昔と今をシンクロさせた空間づくりにも注目したい。

ESHIKOTO越前箪笥のチェストの中には、越前焼をはじめとした酒器や、箪笥店の主人手製の木製コースターがディスプレイ。販売も行う。「本日のテイスティング」を楽しめるショップ奥のカウンター席。

特筆すべきは、『石田屋ESHIKOTO店』でしか購入することができない酒を揃えていること。ESHIKOTOブランドのひとつ「永(とこしえ)」シリーズ。なかでも純米大吟醸クラスの酒は、福井の酒米を用い、生酛造りをベースに醸造。しかし、昔ながらの生酛造りではなく、全く新しい方法に挑戦した、いわば簑葉さん曰く「衛生的な環境はもちろん、原料は現代ものを用いながら、乳酸菌の繁殖は自然に委ねます」。

ESHIKOTO右から、生酛造りをベースに醸すESHITOKO「永 五百万石」3850円、「永 さかほまれ」5500円。瓶内二次発酵させた泡酒「ESHIKOTO AWA 2020 Extra Dry」7700円。仕込み水には、九頭竜川の伏流水を用いる。軟水の特徴が表れた、軽やかでしなやかな口当たり。

筆者は、福井の代表的な酒米、五百万石を用いた「永 五百万石」を購入。口に含めば、生酛酒母由来の酸をうっすら感じ、飲み口はじつに清々しかった。
「永」シリーズの他にも、二次発酵して造られる「ESHIKOTO AWA」は、ワイン好きのための一本だろう。福井県米を用い、15ヶ月以上の瓶内二次発酵と熟成を経た泡酒だ。炭酸ガスの圧入により造られるスパークリング日本酒とは一線を画す味わいだ。

食事も手土産も福井メイド『acoya』

『石田屋ESHIKOTO店』で買い物をする前後に立ち寄りたいのが、同じ「酒樂棟」にあるレストラン「Apéro & Pâtisserie acoya(アペロ&パティスリー アコヤ)」。朝膳や昼膳を味わうことができるレストランであり、カフェタイムや手土産にうってつけのパティスリーでもある。あらゆるシーンで使えるけれど、いつ行っても共通しているのは、福井という土地が育んできた食の恵みを実感できるということ。

ESHIKOTO全7品の昼膳より(2750円)。左上から、蒸野菜の柚子餡、伊自良(いじら)卵の五目焼き、季節のお漬物。黒龍吟醸豚と大根の煮込み、福井サーモン 黒龍酒造酒粕の汁物。炊きたてのご飯と共に。このほかに、ベビーリーフのサラダ 白板昆布のドレッシングも付く充実の内容。

ESHIKOTOお米、野菜、調味料に至るまで、地元生産者との結びつきも深い。

福井県産の食材を用いた料理の数々。「土鍋ご飯が進む、素材らしさを活かした味づくりを心がけています」と話すのは、竹内賢太郎シェフ。関西や東京のフランス料理店などでの修業経験もある、敦賀市出身の料理人だ。「この場所で、福井の風土を感じながらお食事を楽しんでいただきたいから」と、地域の食文化や和洋のテクニックを融合させたメニューが真骨頂。

ランチメニューは、季節のサラダを筆頭に、炊きたての土鍋ご飯を客1組ずつに供する。この日は、県で屈指の米どころ・大野市の中でも特に良質な米が獲れる阿難祖地区のコシヒカリ。粒立ちがよく艶やかで、透き通った甘みが印象的だ。

ESHIKOTO主菜に用いる黒龍吟醸豚は、黒龍酒造で醸す純米吟醸酒の、酒粕入り飼料で育てたブランドポーク。

御膳には、ご飯のお供となる魚菜をはじめ「黒龍吟醸豚」を用いた逸品も。そのバラ肉は、大根と香味野菜、水だけで3時間煮込んでいる。箸を入れるとスッとほどける柔らかさ。頬張れば、脂のくどさを一切感じない。やや薄めのギリギリの塩加減が心地よく、噛むほどに清々しい旨みが口中を占拠する。福井県産のからし種で作った地がらしをつけると、肉の旨みがグッと際立った。

また、県内で養殖された福井サーモン(トラウトサーモン)は、黒龍酒造の酒粕を用いた粕汁仕立て。厚みのある身は脂ノリがよくホクホク。酒粕の風味は優しく、永平寺御用達「米五」の越前こうじ味噌の質朴な旨みが重なり合い、上品な味わいが印象深い。いやおうなしに土鍋ご飯が進む料理の数々は、地野菜もふんだんに使われていて、食後感はじつに軽やかだった。

「福井サーモンの腹身は、朝食の焼き魚に。脂が比較的穏やかな背側を粕汁に用いるなど、食材の魅力を余すところなく。また、野菜の切れ端や、魚のアラなどでだしをとるなど始末の心を大切にしています」と竹内シェフ。 食材をムダにせず、飽きのこないよう調理を工夫する。そして、食事をいただく人のために心を尽くす。精進料理に通ずる教えは、ここ永平寺で発揮されるからこそ大きな意味をもつのだろう。

ESHIKOTO黒龍大吟醸ソフトクリーム611円。パティスリーの入口付近には、柑橘とショコラのケーキ、大吟醸と塩のケーキなど季節のパウンドケーキなども販売。手土産におすすめ。

デザートタイムには、福井の旬素材を使った季節のパフェや、越前の塩を使ったベイクドチーズケーキなど、パティスリーの名物を。ランチで満腹……だとしても是非とも味わっていただきたいメニューが「黒龍大吟醸ソフトクリーム」。黒龍酒造の大吟醸酒の酒粕をミルクに混ぜ込み、貴醸酒の上品な甘みを忍ばせて。味わえば、バニラのコクと大吟醸酒の華やかな香り、貴醸酒の上品な甘みが伸びやかに広がる。

「季節の移ろいと、福井らしさを伝えていけるように」と微笑むパティシエの岡田麻波さんは、竹内シェフと同じ敦賀市出身。 福井愛が詰まった、料理人やパティシエ、地元出身の若いスタッフたちとのコミュニケーションも、この地ならではの旅の醍醐味。

ESHIKOTO竹内賢太郎シェフと岡田麻波シェフ。「スタッフも福井県民ばかりですよ。彼ら、彼女たちが働きやすい環境に」。そう話す竹内シェフは、3月16日、福井駅前に開業した姉妹店『Restaurant ULO』のシェフに就任。

眼前には、九頭竜川が悠々と流れ、雄大な山々が連なる。 永平寺町の景色や空気、さらに福井、しいては北陸の風土を感じさせる食と酒との出会いは、労力をかけて訪れる価値がある。『ESHIKOTO』は、日本酒を通して、北陸ならではの文化や人々を紡ぐ、酒蔵ツーリズムの拠点としても目が離せない。

ESHIKOTO『Apéro& Pâatisserie acoya』にはテラス席もある。永平寺町の自然に身を委ねながら、至福の時間を過ごしたい。

■店名
『ESHIKOTO』
■詳細
【住所】福井県吉田郡永平寺町下浄法寺第12-17
【定休日】水曜、第1・3・5火曜(不定休あり)
【公式サイト】https://eshikoto.com/
※「ESHIKOTO」全施設の入店は、20歳以上に限る。

■店名
『石田屋 ESHIKOTO店』
■詳細
【電話番号】0776-63-1030
【営業時間】10:00〜17:00(テイスティング16:30LO)
【定休日】『ESHIKOTO』の定休日に準ずる
【公式サイト】https://eshikoto.com/ishidaya/

■店名
『Apéro& Pâatisserie acoya』
■詳細
【電話番号】0776-97-9396
【営業時間】9:00〜10:00LO(モーニング)、11:00〜13:30LO(ランチ)、14:00〜16:00LO(アラカルト)、11:00〜16:00LO(イートインデザート)、10:00〜17:00(テイクアウト)
【定休日】『ESHIKOTO』の定休日に準ずる
【公式サイト】https://acoya-fukui.com/
【instagram】 https://www.instagram.com/acoya.fukui/

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