なぜとんかつを焼くのか。「炭火焼とんかつ 大蔵」の手法に目からウロコが落ちた
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店名どおり、炭火焼きのとんかつ。どうやら揚げた後に焼くようですが、何かメリットがあるの?奇を衒った新手法じゃないの?そんな疑念を持ちつつ、「炭火焼とんかつ 大蔵」に取材に行って分かった衝撃の事実とは…。
バーボン熟成からの、炭火焼き。その心は…
とんかつを1貫、2貫、と数える時代になりましたねえ。まるで鮨のようですが、ちょっと高級路線のとんかつ店が増える昨今。
その潮流の中で名を馳せる「炭火焼とんかつ 大蔵」は、なんと豚肉を揚げた後に炭火で焼く、前代未聞のスタイル。実はこの店、前身は「ニューバーボン」として、バーボンをぶっかけて熟成させた肉のとんかつを提供していました。
店主の大蔵義一さんはラーメン界では知られた「金久右衛門」の創業者でもあり、「とにかく横並び大っ嫌い」というパイオニアです。
炭火焼き、もはやメリットしかないかも…
バーボン熟成のとんかつも十分人気を誇っていたのに、行きつけの焼鳥屋で〝炭焼き〟の魅力に気付き、「とんかつも炭焼きしたら旨いんじゃね?」というアブノーマルな発想に行き着いたのだそう。
単にメディア受けを狙った珍調理法ではありません。そもそも大蔵さんが得意とする低温調理では、揚げた後にとんかつが冷めやすいのが難点。また、安全面から中までしっかり火を通すことがマストですが、そうすると肉も硬くなり、綺麗なロゼピンクに仕上がりません。
とんかつの調理シーンとは思えない、炭火焼き風景です
しかし低温調理後に炭火で焼くことで、余熱でじんわり中まで火が入り、〝生ではないのにロゼピンク〟が実現するのだそう。炭火の熱は火持ちが良いので、揚げた後に冷める心配もなし。
炭火焼きの最も大きな利点は、余分な油が炭に落ち、それが燃えて香ばしい煙が衣にまとわれること。つまり、衣がカラッと揚がる上に、トンカツ全体がスモークのような香りに包まれるわけです。
豚肉は日によって変わり、あんしん豚、十勝放牧黒豚、佐助豚など
しかも単に炭火で焼けば良いというものでもありません。炭火を長時間同じ温度で火力コントロールするのがまず大変。さらに「ロース」「リブロース」「シャトーブリアン」で脂の量が違うので、網に置く位置と時間を調整して、こまめに面倒を見ていないと焼きムラや焦げなどが発生。
リブロースの脂身ですら、しつこくなくスルッとお腹に入ります
そんな労力をかけてまで炭火で焼く理由は、「当店で使っているお肉は、小さな生産者さんが大変な手間をかけて育てている豚さん。それぞれ最高に美味しい瞬間を食べて欲しんです!」とのこと。ちなみに大蔵さんは「豚」と呼ばず、頑なに「豚さん」と言っていました。リスペクト…!
パン粉は「立ち」が命です!
他にも、パン粉についてのこだわりも並ではありません。「パンにも繊維があるんです」と大蔵さん。作っているのは〝パン粉フェチ〟の業者さんで、衣にした時に「立ち」がしっかりするよう、繊維を意識した捏ね方でパンを焼いているのだそう。そのため、低温調理でもカラッと揚がり、軽やかな食感で胃もたれしないパン粉ができるのだとか。
粒の大きいパン粉。油切れを良くするために工夫したサイズだとか
そんな情熱が詰まったとんかつをいただけるAコース3800円。上ロース・リブロース・シャトーブリアンの3種類に山盛りのキャベツ、ご飯、味噌汁が付きます。とんかつはソース、醤油でいただくのも良いですが、塩と花椒がおすすめ。
シャトーブリアンは小皿にバターが出てくるので、少量の塩とともに。脂たっぷりのシャトーブリアンにバターを溶かすと、背徳感満点のビジュアルに…。
シャトーブリアンはバターで食べてもしつこくない、脂身の後切れの良さ
ちなみにとんかつに関して変態(良い意味で)な大蔵さん、最近は肉を切る時に押さえつけることで衣が潰れてしまうのも嫌なのだそう。「いつか空中でとんかつを切るってのを実現したいんですけどね」とのこと、本当にクレイジー(良い意味で)です!
あ。最後に大事なこと伝え忘れていました。大蔵さん、あの「人類みな麺類」とコラボして、「人類みなトンカツ」なる新店を西中島南方にオープンしたんです!
茶美豚を今度は乳酸菌発酵させて柔らかく仕上げたとんかつ、定食で1200円~という高コスパ。自ら高級路線とんかつブームに一石を投じるとは、さすがとんかつ業界の異端児ですね!
■店名
『炭火焼とんかつ 大蔵』
■詳細
【住所】大阪府大阪市東成区東小橋1-2-1
【電話番号】06-6976-3620
【公式サイト】
https://www.facebook.com/profile.php?id=100069463155618&paipv=0&eav=AfYG5T5dlJPdzA8v9_569Y8yJLG8_P1kylIEIlgvb5DHcbGXEjwrkBVCjJ3PgkvSmVY
あまから手帖2023年8月号/とんかつ手帖
Writer ライター
あまから手帖 編集部
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