今年最大級の破壊力!「喫茶Y」のモーニング

今年最大級の破壊力!「喫茶Y」のモーニング

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2023.11.24

文:「あまから手帖」編集部・松崎聖子 撮影:赤鹿麻耶、松崎聖子(13枚目)

大阪が誇るデカ盛り店「喫茶Y」。47年もの間、人の胃の許容量を遥かに超えたボリュームのモーニングセットや定食を出し続けるファンキーな喫茶店だ。モーニング連載の今年のトリを飾るのはここしかない!と闘志を燃やし、取材拒否の難関を突破した。

目次

今は取材を受けていない、喫茶Y 常に「お客さんか店員か分からない人」がいる 卵8個のオムレツを挟んだ「ハーフサンドイッチ」 「SNSのためだけにデカ盛り」はNGです テレビ取材を受け入れる一つだけの条件とは 店舗情報

今は取材を受けていない、喫茶Y

「喫茶Y」外観の壁「トーストレディ」と描かれた壁。外国人からこう呼ばれたのが気に入ったそうだ。

かつてはテレビや雑誌にじゃんじゃん登場していた。おばちゃんこと貴島千里さんの止まらない大阪弁トークと、「人の胃のキャパ知ってますか?」と問いたくなるデカ盛り料理。店内の壁は訪れた芸能人の写真がびっしり。だが、コロナ禍で3年間休業し、今は取材も受けていない(そもそも電話に出ない)。

あまから手帖の取材も、「30年前に載ったしエエわ~」と一度断られたのだが、どうしても喫茶Yで今年を締めくくりたい…その一心で説得した。するとおばちゃんと仲良くなってOKが出た。

常に「お客さんか店員か分からない人」がいる

「喫茶Y」の貴島千里さんと常連客この日も、数十年通う常連さんと奥様が手伝っていた。

おばちゃんは、ひたすらお客さんに声を掛ける。「奥のお兄ちゃん、足りた~?」「ハンバーグもあげよか?」。1人でデカ盛り料理を作りながら喋りまくっているので、カウンターもキッチンもしっちゃかめっちゃか。だから、店内にはいつも「お客さんなのか店員なのか分からない人」がいる。カウンターに座っているおじさんが、おもむろに洗い物をし始める。サッと会計にも走る。

「喫茶Y」のドトールのカップ喫茶店なのにドトールのカップで出てくるこだわりのなさが良い。

昔から常連さんは「食べに来ては働いてくれる」らしい。それを見た他のお客さんも、自分で料理を取りに行ったり食器を下げたりする。おばちゃんはちゃっかり「お兄ちゃん、あっこも下げてくれる?」とお願いしたりするが、ちゃんとその後に「飲んでや~」とコーヒーをサービスする。

卵8個のオムレツを挟んだ「ハーフサンドイッチ」

「喫茶Y」のバケツ入り卵さりげなく椅子の下に置かれたバケツ卵。これが4個ほどあった。

モーニングは8時から10時半(ラストオーダー)までで、一番シンプルな「パンモーニング」(600円)でも5cmぐらいの分厚いトーストにハム6枚。最もわんぱくなのが「ハーフサンドイッチ」。オムレツとハムとレタスを挟んだトーストサンドだ。なんと卵の数を1個から8個ぐらいまで選べる。せっかくなのでMaxの8個でオーダーしてみた。

「喫茶Y」のオムレツ調理風景卵8個をワシャワシャとかき混ぜ…。

「喫茶Y」のオムレツ調理風景フライパンが黄色の海のように。

「よっしゃあぁぁ」とおばちゃん、卵を次々と片手で割ってリズミカルにフライパンへぶん投げ始めた。たぶんこれでも殻が混ざらないのだから、さすが47年間の投球テク。焼きながらもこっちを見て喋り続けるので、「オムレツ焦げるよ!」と言いたくなる。パンも同時にトースターに放り込む。全てのタイミングを体で分かっているので最後は帳尻が合うのだろうな。

「喫茶Y」のハーフサンドイッチ盛り付け風景卵がちょっと焦げているのが妙にそそる。

フライパンを覆い尽くしたオムレツの海をテキトーに切り分け、焼き上がったパンにマーガリンとマヨネーズをしこたま塗り、座布団のように積み上げていく。

「喫茶Y」のハーフサンドイッチ盛り付け風景この上にまだ、6枚ほどハムを…。

タマゴ布団の上にケチャップを噴射し、次はハム。これも大盤振る舞い。10枚を敷き詰め、レタスもわしづかみで積み上げていく。最後にトーストで蓋。タワマン並みの高層サンドイッチがあっちゅう間にできあがった。

「喫茶Y」のハーフサンドイッチ盛り付け風景1片で他店の一人前はありますね。

「喫茶Y」のハーフサンドイッチ盛り付け風景「うち回転率悪いねん。みんな食べ終わってしばらく動かれへんから」。そうだろうなあ…。3片にカットするが、1片を持つのすら片手では無理らしい。両手で皿へ移設すると、もはや〝サンド〟されていない具がすぐさまバラバラに広がった。「このぐっちゃぐちゃがエエやろ~」とおばちゃん気にしない。確かにぐっちゃぐちゃで美味しそう。

「喫茶Y」のハーフサンドイッチセットハーフサンドイッチ。モーニングはドリンクお代わり何杯でもOK…!(11時まで)

セットにはなんと、サンドイッチにスパサラ、手羽先煮、粕汁が付いてきた。その日の気まぐれでいろんなおかずが付く。実はこの他にも、そぼろ丼とトーストと自家製ヨーグルトが出てきた。人の胃をなんだと思っているのだろう(笑)。でも美味しいからカメラマンと2人で完食してしまった…(自分たちが怖い!)。

「SNSのためだけにデカ盛り」はNGです

「喫茶Y」のおばちゃんおばちゃんは「YES」「NO」をハッキリ言うのでビビる人もいるが、理不尽に怒ったりしない。

ちなみにオムレツはもともと卵の数を10個まで選べたが、今は7~8個まで。卵が高騰しているからというのもあるが、「10個で!って言うから作るやん。そしたらな、残すねん。食べ切れへんの分かってんのに写真撮るためだけに注文すんねん」。けしからん。サンドイッチの持ち帰りはNGだと分かっていてもそれをやるのだ。“映え”ブーム、個人的に撲滅したい。

「喫茶Y」のカレー別の日にお邪魔した。「Y定食」1000円は、写真の料理の他にハンバーグ、カレー、粕汁やら付いて、おかず全品お代わりOK。

喫茶Yで使うのは全部、上質な素材なのだ。卵は高級卵「がんこ村」、パンは知る人ぞ知る九条の「三景屋」から。ハムも上級なものを吟味。マヨネーズも「がんこ村」卵で作ったもの。原価率を聞いたら、儲けが全くないので唖然とした。

「儲からないですよ。でもお客さんが『ああ、美味しかった』って言うてくれたら、儲かったなあって思うねん」。名言すぎて泣きそうになった。おばちゃん、今世でそうとう徳を積んでいるだろうな。

テレビ取材を受け入れる一つだけの条件とは

「喫茶Y」のキムタクの古いポスターいつの写真だろう⁉ 年代物のキムタクのポスターとうちわ。

ちなみにおばちゃんはキムタクの大ファンで、何十年も前からファンクラブに入っている。「こないだ東京からテレビ取材の依頼に来た人がおったけど、断ってん。キムタクさんが来てくれるなら出る~言うて。死ぬまでに一度キムタクさんとお話ししたいなあ」。

おばちゃんの夢を叶えてあげられるテレビ関係者の方!どなたかいらっしゃいませんか。

■店名
『喫茶Y』
■詳細
【住所】大阪府大阪市北区豊崎1-3-1 丸善レヂデンス豊崎1F
【電話番号】出ません
【営業時間】8:00~15:00(土曜は~11:00)
※モーニングは~10:30LO
【定休日】日曜休(休日と休日の間の土曜も休)

あまから手帖/2023年12月号

Writer ライター

あまから手帖 編集部

あまから手帖 編集部

amakara techo

1984年の創刊以来、関西グルメの豊かさをお届けしてきた月刊誌「あまから手帖」編集部。 旨いものを求めて東奔西走、食べ歩いた店は数知れず。パン一つ、漬物一つ掲載するにも、関西の人気店を回って商品を買い集め、食べ比べる真面目なチーム・食いしん坊。

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