命と食材の間をうろつく。「田舎の大鵬」体験記。
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京都中華の老舗「大鵬」の二代目が、綾部市で開いた「田舎の大鵬」。鶏、豚、羊などの動物、畑から得た野菜、自生している野草など、ここでは食材との距離が近い。到着してすぐ、鶏を絞める様子を見学し、生き物が食材になるまでの過程を知る。
目次
命と食材の間で
「田舎の大鵬」へ取材にいくと決まってから、実は少し緊張していた。メールの文面にある「一緒に鶏を絞めるコース」の文字を読み、その日が来るまでずっとだ。
生き物がどのように食材になるのかをわたしは知らない。スーパーに並んだ肉を買うとき、命があったころの姿を思い描くことはある。だがすっぽり抜け落ちたその後の過程については、頭で理解しているつもりでいても、それは実感を伴わない想像でしかなかった。
目の前で絞められる鶏をみて自分がどう感じるのか、まったく想像ができなかった。
「田舎の大鵬」がある蓮ヶ峰農場。
そもそも血が苦手で採血中に意識を失いかけるくらいに気が弱いのだが、鶏の解体現場を目撃して気絶していては仕事にならないので、事前にYouTubeでいくつかの動画を薄目で見てみた。
自分の手で鶏を絞める農場での体験動画。一から十まで丁寧に手順を説明しながらの解説動画。海外のどこかの路上で次から次へと淡々と鶏の首を切り落としていく映像。啓発的な文言のサムネイルがついた動画もある。
なんというか、色んな方法があり、生き物と食材に対する温度感も違って興味深い。
こんど鶏を絞めるところを見学する、と身内に話すと母は顔をしかめ、祖母はそんなのわたしのいた田舎ではよくある光景と言った。そういえば父方の祖父も自らの手で撃った鹿を解体して食べていた。
取材当日。
抱えられてきたきれいな烏骨鶏のきれいな目。困ったことに可愛い。その日その日で、食べごろの子を選ぶというので、明日だったらこの子じゃなかったかもしれないんですね、と聞くと、そうですねと返ってくる。「この子」と口にしてしまってから不安になる。
本日のコース料理に出てくる烏骨鶏。
じゃあ、といってスタッフの方が親指で烏骨鶏の目をふさぐように頭を押さえ、流れるようにナイフを首に入れたので、当然のように血が出る。しばらくして血の雫が止まり、ほとんど暴れることなく、静かに動かなくなった。かわいそうだと感じたが、食べる側の自分がそう思っていいのか分からなかった。血抜きのあとはお湯につける。羽がするすると抜けて、青い肌があらわになり肉の輪郭が見えると、不思議なことに「食材」という感じがしてくる
だが、触れるとまだ温かかった。
絞めた烏骨鶏を煮込んだスープ。
命と食材の間をうろつくなんとも言えない感覚の中で、一品一品を堪能するコース料理。詳細は、本誌5月号で紹介する。
■店名
田舎の大鵬
■詳細
【住所】
京都府綾部市八津合町別当2-1
【TEL】
なし
【営業時間】
季節によって営業時間は変更
【定休日】
不定休
【SNS】
https://www.instagram.com/inakanotaihou/?hl=ja
Writer ライター
あまから手帖 編集部
amakara techo