大阪・今里の酒亭『大阪まんぷく堂』、著しい進化にホレ直すの巻

大阪・今里の酒亭『大阪まんぷく堂』、著しい進化にホレ直すの巻

団田芳子の「わたホレ新章」

2022.08.31

文・撮影:団田芳子

2017年に世に出した拙著『私がホレた旨し店 大阪』。長ったらしい書名は、いつの間にか“わたホレ”と呼ばれるように(略すのは大阪人の性?)。あれからもう5年。ちょっとご無沙汰してる店や、変身した店を、改めて私自身が飲み食べ歩きます。第1回目は、進化著しい『大阪まんぷく堂』へ。

目次

お茶屋を思わせる、板壁に格子窓 “日本酒に合う料理”が年々進化 酒も肴も、独学で洗練させた5年間 店舗情報

お茶屋を思わせる、板壁に格子窓

大阪・今里『大阪まんぷく堂』外観

板壁に格子窓の一軒家。今里新地からは外れているけど、元はお茶屋だったのかしらんと思わせる、何だか妖しい風情が私にはドストライクで。

靴を脱いで上がる店内も赤と黒の世界観。これはやっぱり元お茶屋かと思ったら、「普通の家やったみたいです」と惚けたお顔で言ったのは、店主の芦田テツヲさん。

「赤いのは、最初中華居酒屋として始めたから」と言うから驚いたっけ。ここは当時からすでに、日本酒を吞ませる酒肴コースで評判を上げている店だったのだから。

大阪・今里『大阪まんぷく堂』内観

“日本酒に合う料理”が年々進化

初めて訪れたのは2013年。『あまから手帖』の取材のための覆面潜入。

蒸しアワビに松茸、ワタリガニと上等食材を惜しげなく使った怒濤の前菜連打に始まり、造りは天然物の鯛の昆布〆やカツオ。さらに左党のテンションを最高潮に上げる酒肴盛り合わせは7種もいろいろ。

とどめに骨付きラム肉まで。そのどれもが、きちんと手が掛けられてあり、味わいの按配も素晴らしい。その酒肴コース10品が、たったの3500円だったのだ!

「今里やからって、いくら何でも安すぎるでしょ!」と言う私に、芦田さんは「いや、まったくの我流なんで、後ろめたくて」と頭を搔いてた。中華出身で、日本酒に目覚めて、日本酒に合う料理を出し始めたばかりだったみたい。

3年後、コースは4900円に、翌年5200円になって、“わたホレ”に、「それでも安い。十分に安い」と私は書いた。そして数ヶ月前に久々に訪れたら8800円に! 芦田さん、ようやく少しは自信がついたのね。
「いや、えっとあの、食材やら何でも値上がりしてますし…」。
芦田さんはまた頭を搔いていた。

面白がってちょっとイケズな言い方をしてしまったけど、8800円でも十二分にお値打ち。それは、その日の盛況ぶりを見ても明らか。皆さん実に楽しそう。東京から来た私の連れなど「何これ?スゴイよ!こんなの東京で食べたら2倍いや3倍取られるよ!」と大喜びで、私は大いに株を上げたのだから。

酒も肴も、独学で洗練させた5年間

コースの中身は、本当に驚くほどの進化を遂げていた。

“わたホレ”では、怒濤の「ヤレ吞め」コースという見出しを付けたけど、うん、それは今も確かに間違ってはないんだけど、でもそんなお下劣なタイトルはもう似合わないほど素晴らしいものになっていた。

6月の先付けは、蓮の葉に水滴ひとしずくが何とも涼やか。葉の下には、半透明の新蓮根の饅頭を沈め、ジュンサイを浮かべた一口の冷たいおだし。初夏に気の利いたスターター。しかも、だしの美しさも上等居酒屋を通り越して、立派な日本料理店の域。

阪・今里『大阪まんぷく堂』ジュンサイの汁物

お楽しみの酒肴も、以前は豆皿がチョコチョコと並んでいたのが、漆箱に笹を敷いて、この通り上品になっちゃって。器も良い物を揃えてるし…。

大阪・今里『大阪まんぷく堂』酒肴彩々ピーマンおじゃこ、もずく酢、食用ほおずき、お酢で骨まで軟らかく炊いたイワシ胡麻和え、厚焼き玉子、明太玉子(冷凍卵の黄身を醬油漬けにし、明太子をまぶした私の大好物)、タコうま煮。

大阪・今里『大阪まんぷく堂』お椀すっぽんスープ、すっぽんの身入り玉子豆腐。

酒のラインナップももちろん素晴らしく、酒器もワイングラスや錫(すず)のちろりとぐい飲み、ガラス器など、酒に合わせて変えてくれるのがいちいち愉しい。その上、「今、ペアリングを勉強中なんです」というから頼もしい。

大阪・今里『大阪まんぷく堂』日本酒

そういえば表構えもどことなく上品になったと思ったら、黄色いぼんぼりがなくなってスッキリしたみたい。

日本料理の修業をしていない分、あちこちへ食べに行き、勉強したのだろうな。そして、いいなと思ったことをどんどん取り入れてきたのだろう。そう、芦田さんはまるで超吸水性ポリマーみたいに、この5年間、ぐんぐんいろんなものを吸収して進化したんだ。

でも、そんな努力を語ることなく、黙々と料理する芦田さん。心なしか今までより禿頭が光り輝いて見えて――、ホレ直しちゃったよ!

大阪・今里『大阪まんぷく堂』店主の芦田テツヲさん

■店名
『大阪まんぷく堂』
■詳細
【住所】大阪市東成区大今里西3-4-14
【電話番号】06-6972-1199
【営業時間】18:00~22:00頃
【定休日】不定休
【お料理】お料理8800円。
https://www.facebook.com/manpukudou

Writer ライター

団田 芳子

団田 芳子

Yoshiko Danda

食・酒・大阪を愛するフリーライター。旅行ペンクラブ会員。小宿の会塾長。料理人には怖れと親しみを込め“姐(ねえ)さん”と呼ばれる。講演、TV・ラジオ出演も。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。

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