
お引っ越し後もほのぼの。お気楽和食『旬菜 まさか』
団田芳子の「わたホレ新章」
「あのー、引っ越し決まりました。40歩だけ移動します」と、とぼけた感じで移転を告げられたのは、拙著“わたホレ”も校正段階でのこと。ギリギリ新住所掲載が間に合ったといういわく付きの『旬菜 まさか』。小綺麗になって、ますます使い勝手もよろしくなったお引っ越し後の様子をご紹介します。
ミナミにあって嬉しい大人の隠れ家
店の雰囲気にも、料理の味にも、店主や料理人の人柄が反映されるもの。
この店の雰囲気はすこぶる良い。ガヤガヤと騒がしくはなく、かといって緊張感を強いるでもない。友人グループで和気藹々とやりたいときも、「相談があるんです」というシリアスな顔の後輩とのサシ飲みでも、どんなシーンにもピタリとハマる。
店主のコバシクンこと小橋雅洋さんの度量の広さと愛嬌が、このやらこい空気感を創出しているよう。
コバシクンは、京の老舗を皮切りに新地の割烹、さらにミナミの人気店『魚菜処 光悦』にて8年研鑽を積んだ腕のある料理人。だけど、大上段に構えることなく、居酒屋以上割烹未満の上等居酒屋系で、やや割烹寄りという使い勝手の良い店を作っている。
店主のコバシクン。この愛嬌ある笑顔!
今日も、優しい笑顔で迎えてくれたコバシクンが、「50才になりました」と言うから驚いた。あら、そんなお齢とは!“コバシクン”呼ばわりは失礼かしらん。けど、この笑顔を見ると、大将とかご主人とかより“コバシクン”と呼びかけたくなってしまう。
知り合って8年になる。その間、「雑誌の企画で、こんなの探してるねんけど、何か知らない?」とか、「祝日の夕方早めから10人で行きたいねんけど」とか、いろんな質問やワガママなリクエストを投げてきたけど、いつも「出来ることやったらやりますよ」と、ふんわり受け止めてくれる。その度量の大きさについつい甘えて、またワガママを言ってしまう私だ。
『あまから手帖』(2018年10月号)にも登場。ちなみに、この号の表紙を飾ったのもコバシクンの料理。路地奥のさらに奥という隠れ家だから、客は誰かに連れられてきて常連になったという人ばかり。
コバシクンの作る料理も、そんなお人柄のままに優しい。
ここにメニューはない。「2-3品でいいねん」と言えば、「じゃあお造りと何か小鉢出しましょか」と単品で。「お腹空いてるよ」と言えば、旬の食材をちょっと捻りを利かせて次々にコース仕立てで繰り出してくれる。
ガッツリコースの場合、まずは一口のスープ。割烹なら一番だしで、“ウチの味”をアピールするところだが、「今日は、アマダイのだしです」と、魚の旨みを気取りなく。
先付けに続いて、お造りは、1カンずつ数種類。彩りも美しく。
そして焼き物。今日は筍。「土佐煮を焼いたような感じ」とご本人の言う独自の蒸し焼き。2015年に初めて取材したときにも、旨さに驚いたコバシクンの得意料理だ。
「みんな喜んでくれるんですけど、映えないんですよー」と笑う椀物。「新玉ねぎを2時間蒸してミキサーにかけて、蛤のだしで割って鰹だしをちょろっと」入れた摺り流しも、しみじみ旨い。
酒吞みが大いに盛り上がるアテ盛りも来る。
お造り盛り合わせ。シマアジ、イザギの昆布〆、赤貝、アオリイカ、ウニ、マグロは赤身と中トロに、酢で締めたアジ。ツマはいつも色鮮やかな紅芯大根だ。
右は、真昆布のうまみを湛えつつ、香ばしく焼かれた筍の蒸し焼き。可能な限り皮も食べちゃう。
さらに、今日のメインは富山のホタルイカを小鍋仕立てで。
「1匹目は20秒しゃぶしゃぶしてそのまま。2匹目は鍋の中で潰してもらったらキモが出て、野菜も美味しくなりますよ。3匹目からはお好きにどうぞ!」と言われるままに食べればみんな満面の笑み。
富山産ホタルイカの小鍋仕立て。5月半ばくらいまで。
〆は、定番しらす山盛りの卵かけごはん。連れのオジサンたちも子どものように無心にかっこんでいる。だよね。ほっこり旨いよね!
そうして40種ほども揃っている日本酒を好きなだけ吞んで、1万円強。お値段帯としても、ほんとに使い勝手のいい店だ。
「ざっくばらんなミナミが性に合ってるんですよねぇ」と言うコバシクン。私にとって、ミナミになくてはならん大人の隠れ家だ。
定番しらす山盛りのTKG。初卵が可愛い。
日本酒は、ちょっと見たことない珍しいものも多い。
■店名
『旬菜 まさか』
■詳細
【住所】大阪市中央区宗右衛門町6-1 日宝サンロードビル1階
【電話番号】06-6210-4117
【公式サイト】http://masaka2013.com/
Writer ライター

団田 芳子
Yoshiko Danda