明治期のフランス料理を再現!?大阪『旧桜宮公会堂』で期間限定ランチコース

大川沿いに佇む歴史的建築『旧桜宮公会堂』で楽しめるランチコース「明治の饗宴」。明治天皇の銀婚式を祝う晩餐をもとに再現された料理は、約130年前の西洋文化の息吹を体感させる。

明治期の記憶を辿る、晩餐会の料理を現代に

ゆったり流れる大川沿いに佇む『旧桜宮公会堂』。

1935年に明治天皇記念館として建設され、国の重要文化財に指定されている歴史的な洋館だ。公会堂や図書館を経て、現在は明治期のロマン漂う趣はそのままに内装をリノベーションし、ウェディング施設やレストランとして活用されている。

この荘厳な館で6月30日まで行われている注目のレストランフェアが「明治の饗宴」。1894年に行われた明治天皇の銀婚式晩餐会のメニューを現代に蘇らせたというものだ。

明治時代といえば、西洋建築や洋服の普及、洋食店の登場、宮中晩餐会でのフランス料理の採用など西洋文化が華開いた時代。そうした約130年前のフレンチを楽しめるというから、おのずと期待が高まる。

『旧桜宮公会堂』披露宴会場
往時の気品が感じられるダイニング。大きな窓から差し込む光と直径2.4mのシャンデリアの輝きが、精緻な天井装飾を浮かび上がらせる。
10

時代考証から立ち上げる、味の輪郭

「再現は簡単ではありませんでした」と話すのは中村駿介料理長。
当時の写真やレシピの記録が無く、残されていた資料は「天皇の料理番」で知られる秋山徳蔵氏にまつわる書籍「秋山徳蔵メニュー・コレクション」のみ。そこに記録されているのはメニュー名だけで、解読すら難しい古字が入り混じるものだ。

『旧桜宮公会堂』明治の饗宴 資料
10

そのため、半年をかけて何度も図書館へ足を運び、漢字一文字一文字を読み解いたという。
「当時の厨房設備や主流だったであろう熱源、使われていた調理器具、時代背景、当時入手できた食材とメニュー表の文字を照らし合わせて推測し、そこに現代的な味付けを取り入れました。銀婚式の晩餐会では16品のメニュー名がありましたが、当時は大皿に盛り付けられ、テーブルに一斉に並んでいたと思われます。それをコース仕立てにしました」。

今回、提供されるのは全5品のハーフコースと7品のフルコース。

なかでも象徴的なのが「葡萄酒煮燻豚(豚肉の赤ワイン煮込み)」だ。「冷蔵技術がない時代の保存法である燻製を下処理に用い、赤ワインのみで煮込んだ料理だと思います」と中村料理長。当時の技術を踏襲し、今回も燻製してから煮込んだという。

『旧桜宮公会堂』明治の饗宴フルコース
写真はフルコース7品7700円より。
10
『旧桜宮公会堂』明治の饗宴「葡萄酒煮燻豚」
当時を再現し、豚肩肉を燻製してから赤ワインで煮込んだ「葡萄酒煮燻豚」(ぶどうしゅにこみくんとん)。奥深いスモーク香が広がる。
10

また「蒸焙羊肉生菜(蒸し焼きラム肉と野菜)」は、1872年に天皇が牛肉や羊肉を試食したことにより、1200年続いた「食肉禁止の詔」が解禁された歴史を感じる一品。調理法について、「当時の厨房設備から考えると現代のように焼いて仕上げるのではなく、メニュー名から分かるように蒸していました。これはしっとりした食感が好きな日本人に向けた調理法ではないかと想像します」と中村料理長。

『旧桜宮公会堂』明治の饗宴「蒸焙羊肉生菜」
「蒸焙羊肉生菜」(じょうばいようにくなまな)は蒸し焼きにしたラム肉のロースをマスタードソースで。
10

その他、現代では一般的な生クリーム、バターといった乳製品や白ワインが皇室やごく一部の特権階級しか手にできない至高の贅沢品であったり、海外から導入されたばかりのカリフラワーやリンゴなどが用いられていたりと、メニュー名から当時の最先端が凝縮されていたことが次第に分かってくる。

『旧桜宮公会堂』明治の饗宴「湯煮獨活花菜」
爽やかな香りとほのかな苦みが特徴のウドのピューレを加えたソース・マヨネーズに茹でたカリフラワーを添えた口直し的一品の「湯煮獨活花菜」(ゆにうどはなな)。ウドは江戸時代から本格的に栽培され、明治期に人気が拡大した山菜。カリフラワーもまた明治初期に西洋野菜として日本へ伝わったそう。
10
『旧桜宮公会堂』明治の饗宴「ブーダン・ド・ポンム・ヲー・マラスキン」
サクランボのリキュールを使って仕上げた焼きリンゴのアイスクリーム添え「ブーダン・ド・ポンム・ヲー・マラスキン」。サクランボもリンゴも明治期に日本へ入ってきた当時希少なフルーツだったという。
10

一方で、当時はすでにあったと思われるベシャメルソースでエビとマッシュルームを和えてパイ包み焼きにし、トマトソースで食べる「ブーシエー」など、今とそう変わらない料理も。一品一品に思いを馳せるのがたまらなく楽しいのだ。

『旧桜宮公会堂』明治の饗宴「ブーシエー」
「ブーシエー」はルイ15世の王妃・マリー・レクザンスカが一口で食べられるように考案されたと言われる「ブーシェ・ア・ラ・レーヌ(女王の一口)」のこと。ベシャメルソースで和えた海老とマッシュルームをさっくりとしたパイで包み、トマトソースと共に。
10
『旧桜宮公会堂』明治の饗宴「洋酒蒸魚」
白ワインで蒸した白身魚に白ワインソースを合わせた「洋酒蒸魚」(ようしゅむしうお)。レモンのコンフィを添えて爽やかに。
10

歴史的な空間も一興

食事の余韻をさらに深めるのが、この空間が持つ歴史的没入感だ。

なんとヘレン・ケラーが講演を行ったこともあるという舞台が会場内にあるほか、パルテノン神殿のような正面玄関は現造幣局の正面玄関を移築した歴史的建築物だという史実など、時空を超えた空間が、食事の時間を彩ってくれる。

「今回の銀婚式のメニューのように、お客様の人生の節目に足を運んでいただけたら嬉しいですね」と中村料理長。日本の歴史を重ね合わせつつ楽しめることは間違いない。

『旧桜宮公会堂』外観
10

writer

佐藤 良子

satoryoko

料理取材に徹して20年の食ライター。歴史が好きなため、料理史の観点から見るレストラン取材がライフワーク。日々賑やかな小学生2児の母。
Instagram@ryocosugar