鍾乳洞がある喫茶『ホラ!あな』。名物はジビエ料理
「いらっしゃいませ!鍾乳洞ご利用ですか?」
入ってすぐに「鍾乳洞ご利用ですか?」と聞かれる喫茶店は日本でもここだけだろう。ログハウス風の建物の扉を開けると、爽やかな店主が迎えてくれる。都会のカフェと言っても通用しそうなオシャレなインテリアの店内を進むと、「不動屈入口」と書かれたドア。スタッフに「行ってらっしゃい!」と送り出され、眼下に渓流を見ながら、129段の階段を恐る恐る降りる。仄暗い谷底に着くと、ほら穴が口を開いて迎える。ヒイィ、もう訳が分からない。
洞窟内に入るとたちまち冷気に包まれる。温度は14℃程度とのことだ。蛍光灯だけが照らす隘路は進むほどに細くなり、岩から染み出す水で濡れている。ところどころに地蔵や石像があり、ここが信仰の場であることを感じさせる。
屈まないと頭がぶつかるぐらい天井の低い通路を、鎖を頼りに5分ほど降りていく。急に広い空間が現れ、ザアアアと轟音が響く。なんとそこには、滝が流れている。傍には不動明王の像が見守り、水を汲むひしゃくもある。白いライトが光る中を勢い良く流れるこの水は、長寿の水と言われ、近隣の人々が汲みに来るそうだ。
不動の滝を過ぎても道は続き、子供でも頭がぶつかるほど低い穴の中を進むと、地底湖のように青い水が湛えられた場所に出る。美しさに見惚れながらさらに歩くと、行き止まりの空洞に出る。何千万年もの間、水に侵食され溶けたのであろう奇岩が辺り一面を囲み、この世の景色とは思えない幽玄な雰囲気だ。水音だけが反響する洞窟の中でしばし我を忘れそうになるが、現世に帰るべく、また鎖を伝いながら戻る。再び129段の階段を登り、この世に戻ってきた気分で扉を開けると、「お疲れ様したー!」と元気な声で迎えられる。ギャップ!
なぜ喫茶店に鍾乳洞がくっついているのか
『喫茶ホラ!あな』は、奈良県の指定然記念物である不動窟鍾乳洞を委託管理している喫茶店だ。鍾乳洞は2億5000年前に形成され、約1300年前に修験道の開祖である役行者によって発見されたと伝わる。長らく修験道の「裏行場」の一つとされたため、洞内には不動明王や不動の滝が祀られている。洞窟の長さは140mほど。夏も冬も13〜14℃をキープしており、夏は涼しく、冬は温かい快適空間である。
鍾乳洞と喫茶店が一緒になった店は、百歩譲って他にもあるかもしれない(ないか)。だが『ホラ!あな』が特殊なのは、「ジビエを使った本格的な洋食が味わえる」ことである。そもそも、なぜここに喫茶店があるのか?誰がやっているのか?その謎を先に詳らかにしよう。
喫茶店はもともと川上村の持ち物で、建物は40年ほど前に建てられた。当時は観光地のレストハウスらしく土産物を並べ、うどんなど軽食を出すだけの休憩所だった。それが、前のオーナーが譲り受けてカフェになり、2022年4月からは現店主の木下倖仁さんに受け継がれた。
ジビエとスイーツ目当てに来る人も
木下さんは大和高田出身なので地元人ではないが、「ご縁があってここを経営することになりました」と嬉しそうに話す。約20年間、大手の居酒屋グループで働いていた経験があり、「せっかくなら奥吉野で獲れたジビエの美味しさを知ってもらおう」と、上北山村の猟師が仕留めて処理した鹿や猪の肉を調理し、ハンバーグやカレー、ロースト丼などジビエメニューにして提供している。
「鹿は処理してすぐに冷凍させたほうが美味しいんです。刺身で食べられるぐらいです」と木下さん。鹿肉は固いと思われがちだが、背中の肉を高温のオーブンで焼き、そのあとじっくり火入れすることでしっとりした柔らかさになる。ジビエだけでなく、すぐ目の前の川で釣れたアマゴや鮎など川魚も名物。玉子サンドに添えられるアマゴフライにはファンも多いという。
滝の水で作るかき氷で酷暑も吹き飛ぶ
スイーツは女性スタッフの担当で、スキレットにのせたダッチベイビーやフルーツたっぷりのかき氷など鍾乳洞喫茶とは思えない映えメニューが揃う。ちなみに、店内には不動の滝から水が引かれ、料理もスイーツも全てこの水を使っている。アイスコーヒーもかき氷も、ひときわキンと冷えて澄んだ味わい。目の前の雄大な山河を眺めながら、特等席の窓際でいつまでも座っていたくなる。
店内には実に色々な人が訪れる。一人で訪れ当たり前のように鍾乳洞に入る男性、学生らしき男子グループ、地元人らしき夫婦、カップル。またここは今も修験の地でもあり、6月の花供入峰の日には大峯山の修験者が大勢鍾乳洞に入るという。「山伏姿のまま店に寄ってくださって、20人ぐらいでケーキを食べて行かれました」と木下さん。さぞかし迫力のある光景だったろうと想像する。
鍾乳洞に潜り、大きな窓から山河を眺め、かき氷を食べていると、どんなにAIが進化してもこの体験を作ることはできないなとふと思うのである。
data
- 店名
- 喫茶ホラ!あな
- 住所
- 奈良県吉野郡川上村柏木351
- 電話番号
- 0746-47-2388
- 営業時間
- 10:00~17:00(16:30LO)
- 定休日
- 月・火曜、臨時休業あり ※12~2月末は土・日曜、祝日のみ営業
- 料金
- 鍾乳洞入洞料大人600円、小人300円
- 交通
- 近鉄大和上市駅からバスを乗り継ぎ、「不動窟」下車すぐ
- メニュー
- 鹿肉のデミオムライス1800円、鹿干し肉のカルボナーラうどん1700円、鹿猪ソーセージジェノベーゼうどん1700円、イチゴのダッチベイビー1300円。コーヒー400円、クラフトコーラ650円。
- https://www.instagram.com/horaana0420/

writer

猫田しげる
nekota shigeru
北海道出身。20年以上、グルメ誌、新聞地域面、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」などのweb媒体で記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」と恐ろしくフォロワー数の少ないInstagramをヨロシク!
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