安田淳一監督【前編】待ってました! 日本アカデミー賞「侍タイ」スピンオフドラマ放送。独占インタビュー

たった1館での上映から口コミで拡がり、全国300館を超える異例のロングランを記録したインディーズ映画「侍タイムスリッパ―」。2025年には、第48回日本アカデミー賞で2冠(最優秀作品賞・最優秀編集賞)を達成し注目を集めました。同作のスピンオフドラマ「心配無用ノ介 天下御免」が、7月16日からBS-TBSでの放送に向けて編集作業真っ只中。監督の安田淳一さんに、たっぷりと今作の魅力についてお聞きしました。

茶色い声援が生んだスピンオフ企画

「侍タイムスリッパ―」(通称『侍タイ』)は、幕末の会津藩士が現代の撮影所へとタイムスリップし、“斬られ役”として生きていく道を選んだ男のヒューマンドラマ。第48回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞し大きな話題になりました。

「侍タイ」で高坂新左衛門(山口馬木也)が太秦映画村の撮影所に迷い込んでしまったシーン。©2024 Samurai Time Slipper. All Rights Reserved.

「侍タイムスリッパ―」では一人で11役以上を担った安田監督。スピンオフドラマでも、カメラを回す。

心配無用ノ介を演じる錦京太郎、を演じる田村ツトムさん。キメの所作を自ら発案し、緩急ある芝居でキャラクターを魅力的に体現している。©「心配無用ノ介 天下御免」製作委員会

――7月からスタートする「心配無用ノ介 天下御免」は、「侍タイ」の劇中劇がベースとなった物語。田村ツトムさん演じる錦京太郎を主人公とした全6回の連続ドラマですよね。そもそも、今回のスピンオフドラマの構想はどのようにできたのでしょうか。

安田:
東京での舞台挨拶で、お客さんに喜んでもらいたくて扮装で登壇してもらったんです。関西からは心配無用ノ介役の田村ツトムさんと村田左之助役の高寺裕司さんにお願いして、主演の山口馬木也さん(高坂新左衛門)、敵役の冨家ノリマサさん(風見恭一郎)、あとは東京の俳優さんにも来てもらって。その時に田村さんがね、錦京太郎としてすごく人気で、どの劇場でも「京さまー!!」っておばさまたちの、黄色ならぬ茶色い声が飛び交うわけですよ(笑)。嘘やろ⁉ と思ってね。
そしたら、田村さんも調子に乗って投げキッスとかするから。何してるんや! って心の中ではツッコミ入れながらもね(笑)、ああ、このキャラクターはこんなにも愛されてるんや……と思って。

――田村さん、お茶目ですね。

安田:
普段の田村さんは真面目な好青年って感じの人なんですけども、錦京太郎になると、あのちょっと調子乗ってる感じの、昔風のスター気取りな面白いキャラクターとなって、女性ファンから声援を贈られる。イベント中に半分冗談で、「心配無用ノ介でスピンオフができたらいいですよね」なんて言ったら、ものすごい反響があったので、これは需要があるんちゃうか? と思ったのが最初でしたね。
©「心配無用ノ介 天下御免」製作委員会

太秦映画村の50周年記念イベントにのっかった

その後に太秦映画50周年の企画として、映画村を訪れた人たちと一緒に映画づくりを体験できるような場をつくる提案をした安田監督。

安田:
映画村は元々は公開撮影を行っていた場所で、テレビでやってる時代劇の撮影現場を見られる貴重な機会を提供してきた。だけど、時代劇自体が少なくなったことに加えて、情報公開にも厳しい時代になり、結果的にお客さんは空のセットを見物するだけになってしまっている。だからこそ、公開撮影を復活させるのは面白いと考えたんです。ただ、模擬撮影にしてしまうと嘘っぽいから、実際に撮ったものをアウトプットできるカタチでやるのがいい。例え、5分10分でも。

――そうなると、ちょうどいい題材が(笑)。

安田:
そう。心配無用ノ介やったらええんちゃいますかって。その場ではぜひ!って盛り上がったんですが、まあそのまま話は終わって……。その後、僕がどっかで喋ったのかな? ギャガさんからBS-TBSさんへと、どんどん情報が漏洩していって(苦笑)。テレビ番組にできないかという話に発展して、今回のドラマ化が実現しました。
安田:
僕としては『侍タイ』を応援してくださった方々への恩返しになるし、映画村としては20年振りに公開撮影を取り戻せる。BS-TBSさん的には今はあまり見なくなった“勧善懲悪の庶民派時代劇”を民放でつくりたいという狙いがあって。もちろん利益は求めますが、それよりもそれぞれの想いを託した意義のあるプロジェクトとして進められていると思います。

去る3月28日、太秦映画村のグランドリニューアルオープンに合わせてクランクインした安田組でのドラマ撮影。村内オープンセットでの撮影風景が一般客に公開され、話題となりました。

――公開撮影でいつもと勝手の異なるロケはご苦労もあったと思いますが、観客がいるという初めての環境はいかがでしたか。

安田:
本当にたくさんの人が来てくれて、中には、朝から夕方までずっと見続けてくれる熱心なファンの方もいたくらい。ずっと何回も同じこと繰り返してるのに見てて面白いんかな?って思ってたけど(苦笑)、ものすごく一所懸命に、熱い真っ直ぐな眼差しでね、「頑張って!」っていう表情で見守ってくれているわけですよ。
©「心配無用ノ介 天下御免」製作委員会

“世界のシライシ”が撮った神回も

――5月無事クランクアップを迎え、現在は編集作業中とのことですが、手応えはありますか?

安田:
ええ、面白いですね。最初に撮った1話は遠慮がある感じだけど……。実は、今回の撮影に関して、全6話の内、第2話を友人の白石和彌監督(「孤狼の血」「碁盤切り」「十一人の賊軍」など)に撮ってもらったんです。

――ええ! それはビッグゲストですね。

安田:
僕は長らくビデオ屋で、映画も自主制作でやってきたから、プロの現場というか、他の監督の演出現場を見たのが初めてでした。すごく刺激的で、3話以降、覚醒した感じがありました。白石監督に来てもらったことは、本当にありがたかったです。

――白石監督の現場でもっとも印象に残っているのは、どんなことですか?

安田:
何よりも勉強になったのは、クオリティを維持しながら定刻で終わること。まずね、遠慮しないんですよ。良い画を撮るために、イントレ(足場)を組んでもらうのも、必要であれば迷わず言う。その姿勢を見て、「そうなんや、これ遠慮せんでええんや」って教えてもらいました。
僕が1話を撮ってたときはけっこう押して、撮りこぼしもあったけど、白石監督のターンでは、ベテラン俳優さんが多かったっていうのを差し引いても、きちきちとスケジュール通りで。それって、大事なことだなって改めて感じました。監督の翌日に僕が撮影したときは1時間押して、けっこう落ち込んだんですよね……。

――その後、意識が変わるとスケジュール管理にも変化が出たのでしょうか。

安田:
そうですね。白石監督の現場を体験してからは、タイムコントロールを意識するようになりました。欲しい画を撮りつつも定刻で終えられるようになったのは大きな収穫でした。

――具体的にはどういったことを意識されましたか。

安田:
アシスタントにサッと指示を出すようにしたり、勇気をもって任せることが大事だと気づきました。そうやって時間を守れるようになって、初めて定刻で終了できたときは、まだ半分以上残っているのに、クランクアップしたみたいに大盛り上がりして(笑)。
あまりに興奮して、スタッフを連れてステーキを食べに行こうとしたんですが、予約したのが思っていたのと違う店舗で。結局、肉の口になっていたので別の店に行くことにしたんですが、当初の予算の4倍の支払いになって、涙目になりながら払ったのもいまとなっては良い思い出です(苦笑)。
©「心配無用ノ介 天下御免」製作委員会

観る者に物語を感じさせる食シーンを

――『侍タイ』では、現代にタイムスリップしてきた高坂がショートケーキを食べながら涙するシーンがとても印象的でした。監督にとって作中の食シーンには、どのような思い入れがありますか?

安田:
元々、街のビデオ屋としては、料理はやっぱりシズル感を出して、ライティングもきっちりやって、美味しそうに撮るのは鉄則なんですが。映画の中では、ただ美味しそうに映すということではなくて、物語との関連性をもって登場させるようにしています。
「侍タイムスリッパ―」でのケーキにしてもおにぎりにしても、それをきっかけにお客さんの中でストーリーを膨らませるアイテムとして使っている。キャラクター付けでよくあるような、アイスクリームをぺろぺろしているとか、印象付けのためだけの出し方はしないように心がけています。まあ、心配無用ノ介に関しては、極度の甘党という設定で、甘酒のアテに甘味を食べるキャラクターですが(笑)。

――監督ご自身の好き嫌いはいかがですか?

安田:
僕は好き嫌いが多いんですよ。魚介類が得意ではなくて、とくに川魚が苦手。接待で川床料理をいただくときなんかは、半泣きになりながら頑張ります(笑)。事前に訊いてくださる場合には、「お肉が好きです」ってお伝えしています。ラーメンやハンバーグや焼き肉といった、小学校5年生の男の子が好きそうな料理が好きなんです。自分で作るのもオムライスとかたこ焼きとか。

そんな小学5年男子の舌をもつ安田監督のお気に入りの店は、地元・城陽で人気の手打ちうどん店『やまびこ』とのこと。続く後編では、監督ご推薦店をご紹介します。どうぞお楽しみに。

【作品名】連続時代劇「心配無用ノ介 天下御免」(全6話)
7月16日(木)スタート 毎週木曜23:00~23:30(再放送:毎週土曜17:00~17:30)
企画・監督・脚本・撮影:安田淳一
キャスト:田村ツトム、沙倉ゆうの、井之上チャル ほか
【公式サイト】
※7月14日(火)21:00~23:30 BS-TBSにて、映画「侍タイムスリッパ―」ノーカット放送決定!
7月25日(土)には太秦映画村にて、心配無用ノ介と盆踊りを踊る「心配ナイト」開催。詳しくはコチラ

profile

安田淳一

映画監督・米農家
1967年生まれ、京都在住。大阪経済大学在学中から映像制作業を開始し、結婚式ビデオ撮影を皮切りに、幼稚園発表会、企業VP、マルチカムによるイベント中継・収録、さらには映画製作も手掛ける。 2013年、自主制作映画『拳銃と目玉焼』の劇場公開にあたって宣伝配給のため未来映画社を設立。2017年公開『ごはん』は、38カ月連続上映(自社主催2回含む)動員が12000名を突破した。2023年、父親の逝去により米農家を継ぎ、監督業との兼業生活をする。わずか1館からスタートした後、全国300館以上で上映された異例のヒット作『侍タイムスリッパー』(2024年)で、第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。同作品で、おおさかシネマフェスティバル2025監督賞、第44回藤本賞奨励賞、2024年度新藤兼人賞銀賞、第37回日韓スポーツ映画大賞・石原裕次郎監督賞、第3回京都映画賞優秀スタッフ賞など多数受賞。

writer

椿屋

tsubakiya

映画は「ひとり、劇場で!」がモットーの映画ライター。2025年鑑賞数は280本。人生の映画ハシゴ最高記録は1日7本。各媒体で、着物・グルメ・京都ロケ地といった切り口のレビューを担当する。超大作から自主映画まで、ノンジャンルな雑食。