キーワードは、だし。 健康的な食生活をキッチンで学ぶ 日本版ティーチングキッチンとは?
ティーチングキッチンは「楽しく」「おいしい」
おいしく、ローカロリーな減塩レシピを調理体験を通して学び、無理のない食生活の改善を促す。座学+“キッチンでの学び”が、ティーチングキッチン最大の特徴だ。
生活習慣病の治療には、食事療法が欠かせない。といっても、アレもコレもダメと制限だらけではストレスが溜まって、結局は断念してしまう。そんな患者の本音に注目し、ハーバード大学では医療・栄養の専門家や料理学校、シェフが連携し、「楽しくて、おいしい」と実感してもらえるプログラムを開発。その生みの親であるデビッド・アイゼンバーグ氏が、この日、来日。日本版ティーチングキッチンを推進する大阪大学の馬殿 恵(ばでん めぐ)先生とプチ講演会を行った。
と、その前に。参加者はキッチンの周りへ。数名が調理を体験し、その様子を残りの参加者が見学。「茅乃舎」の減塩だしやだしつゆなどを使った、カロリーや塩分を抑えたレシピを見て食べて学ぶ。
大人気レシピ「和風だしのチキンカレー」
調理のスタートは、だしを取るところから。まずは水を張った鍋に「減塩茅乃舎だし」のパックを入れて箸でつまみ、水が濁るまでよく振る。「だしの旨みをしっかりと出しておくことが大事です」と、調理指導の高木祐香先生。火にかけ、沸騰したら中火で3分。すると濁りが取れ、見事な黄金色に! 最後にコツがもう一つ。「だしパックをお玉にのせて絞ってください。だしの旨みを出し切りましょう」。
オリーブ油と鶏肉を炒めたら、残った油でショウガとニンニクを炒めるのもポイントだ。「香味野菜の風味があると、塩が少なくても満足度が高まります」。玉ネギと、うま味成分の豊富なトマトを加え、しんなりするまで炒めてカレー粉を。「ルウに比べて低カロリーで、塩分は0なんですよ」。鶏肉とだし、減塩醤油とみりん、ウスターソース、ケチャップを加えたら、あとは15分煮込むだけ。「イメージは、おだしの利いた蕎麦屋さんのカレー。片栗粉でとろみをつけて完成です」と高木先生。
外食や、ルウで作る家庭のカレーは一皿700~800㎉とされているが、この「和風だしのチキンカレー」は467㎉(ご飯は金芽ロウカット玄米ごはん)。塩分はなんと1.6gで、一般的なカレーの約半分。にもかかわらず、スパイシーで旨みが充実しているため、物足りなさは一切なし。会場からは驚きの声が上がっていた。
レンジで3分! ナスとオクラの「揚げ出し風」
カレーを煮込む間に、副菜を一品。ナスとオクラを乱切りし、耐熱ボウルに入れてゴマ油を絡める。「油で揚げないので、揚げ出し風です(笑)」と、高木先生はラップをして電子レンジへ。600w3分で、加熱は終了。熱いうちに「塩分ひかえめ 茅乃舎だしつゆ」を水で割って和えるだけ。粗熱が取れたら、旨みを補強するためにカツオ節をかけ、あっという間に出来上がりだ。
しっかりとだしや醤油の旨みが野菜に染み込んでいて、食べ応え充分。1人前のカロリーは88㎉で、塩分は0.4g。馬殿先生が「時間がなくても簡単に作れて、野菜不足が解消できる。私もよく作るレシピなんですよ」と言葉を添えた。
丁寧に解説しながらの調理実演は30分。参加者は2品に舌鼓を打ちながら、プロ考案のレシピの秀逸さに舌を巻いていた。
食と医学を融合したティーチングキッチンのカタチ
試食をしながら和やかに始まったのは、デビッド・アイゼンバーグ氏によるプチ講演会。ティーチングキッチン誕生の背景や、現在の広がりについての講義だ。
アイゼンバーグ氏の父は、ニューヨークでパン屋を営んでいたという。パン作りを手伝い、料理や食への興味を育んでいた10歳の時、突然、父が心臓発作で他界。氏は医師を志し、ハーバード大学の医学部へ。在学中の1979年、アメリカ初の医学交流留学生となり、中国で東洋医学を学び、『気との遭遇』を執筆。西洋と東洋の医学を融合させる総合医療を提唱し、その第一人者となった。
1980年代、肥満や生活習慣病が世界中で増加する中、氏は食を学ぶことの重要性に着目。「ドクターも栄養や料理の知識を持つべき」と、1998年、ハーバード大学の医師や料理人によるチームを作り、健康的な調理や栄養指導を考えるプロジェクトを発足。食と医学の融合を図ったこの経験が、ティーチングキッチンへと繋がったと話す。
「ヘルシーな食材とは何か? 健康的でおいしい料理は、どう作るのか? 講義だけではなく、キッチンで楽しく作って、おいしく学ぶことで、食事療法を自発的に続けてもらえる。今、ティーチングキッチンは世界中で導入されています」。
和食の強みを生かした日本版ティーチングキッチン
続いて登壇したのは、大阪大学の馬殿先生。糖尿病などの生活習慣病を診療する中で、無理なく続けられる新しい食事療法の必要性を痛感し、栄養学を学ぶために、ハーバード公衆衛生大学院へ。ティーチングキッチンの存在を知り、「日本版を作りたい」とプログラムの開発に情熱を注ぐ。
「和食は本来とても健康的。世界中から高い評価を受ける食文化なんです。その根底を支えてきた“だし”をより活用することが、日本版ティーチングキッチンの特徴です」。
興味深かったのは、ハーバード公衆衛生大学院の専門家が提唱する健康的な食事プレートの解説。玄米などの全粒穀物と、魚や鶏肉などの健康的なタンパク質を1/4ずつ、芋類を除く野菜をたっぷり採り、多彩な色の果物もほどよく摂取するのが理想というもの。一汁三菜に親しむ日本人が取り入れるのは、それほど難しくない内容だ。
日本版ティーチングキッチンでは、こうした健康的な食材を使って、だしの旨みを利かせ、減塩醤油などの発酵調味料を活用したレシピを数多く紹介している。
2023年には、大阪大学と「久原本家」が共同で、肥満者を対象に「カロリーダウン」「減塩」など4回のプログラムを初実施。その結果、参加者の体重・血圧・体脂肪量が減少し、筋肉量は維持という理想的な傾向が見られた。さらに、3カ月後も改善効果がキープされたという。「無理せずに生活を改善できたことによって、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)も向上したんですよ」。馬殿先生は晴れやかな笑顔で講義を締めくくった。
だしの旨みは、健康食の世界的キーワードに
最後のプログラムは、アイゼンバーグ氏と馬殿先生、公益財団法人「Well-being for Planet Earth」代表理事の石川善樹さんによるパネルディスカッション。進行役を『久原本家』の久原みらい研究所の所長である山下貴稔さんが務めた。
その中で印象的だったのは、馬殿先生による食志向の研究結果。
朝晩の食前にだしを飲むとジャンクフードを欲さなくなるという。「だしの旨みには高い満足度があるので、濃い味や油っこいものを食べたい気持ちが収まるんですよ」。
石川さんは「だしの旨みは、母乳と同じ」だと話し、会場の興味を引いた。生まれてすぐ口にしたものは、だしと同じ旨みを持っている。だしを活用した食事療法はその原点に返ることであり、世界中に普及できる可能性があると示唆した。
「日本はアメリカ国外で初めてティーチングキッチンに取り組んでいます。世界に普及するカギは、だしの旨みを軸とした日本での研究結果が握っています」。アイゼンバーグ氏が締めくくり、パネルディスカッションは幕を閉じた。
ティーチングキッチンは、生活習慣病の治療だけを目的としたものではない。今の健康を維持するため、疾患を予防し、ウェルビーイング(継続的な幸福)の向上にも役立つ実践的な学習プログラムに──。そんな未来が、もうそこまで来ている。
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- 公式サイト
- https://kubarahonke.com/
- 備考
- 【会社名】久原本家グループ
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