刃物の町・堺で職人直伝の包丁研ぎ&柄付け【手作り体験】

仁徳天皇陵をはじめ百舌鳥(もず)古墳群が世界文化遺産に登録されたのが2019年。気球で観光できるツアーが今秋スタートするとかしないとか?など話題の堺。連載「タンケン!タイケン教室」10回目の今回は、堺といえば…の“包丁”をタイケン。火花を散らして…ではなく、「研ぐ」と「柄付け」のタイケンをしに、チンチン電車でGO!

『堺伝匠館』で堺の職人技に触れる

茶の湯、鉄砲、自転車、傘、線香、昆布加工、そして刃物。
「ものの始まりなんでも堺」とはよう言うたもんでおますな。

チンチン電車の駅を降り、風情ある街並みを歩いていたら口調まで変わってしまった。

外敵からの防御のため築かれた濠(ほり/環濠)により、独自文化が花開き、貿易都市としても名を馳せた堺。 今日は名産・包丁のタイケンということで、まずは刃物のお勉強から。最初に『堺伝匠館』2階の「堺刃物ミュージアム」へやってきた。
体験コースを運営する『和田商店』専務の和田高志さんが館内を丁寧に案内してくれる。

刃物って200種類以上あるんやで?
鰻の包丁って5種類もあるの知ってた?

ポルトガルより伝来したタバコの葉を刻むためのタバコ包丁に始まった600年の伝統を学びつつ、柳刃包丁、鮪切、菜切、餅切、飴切、巻き寿司用…!など、多彩な刃物を拝見。

「堺伝匠館」内観とシャンデリアのような包丁ディスプレイ
『堺伝匠館』2階にある展示スペース「堺刃物ミュージアム CUT」。包丁ができる工程を表現したシャンデリア風のディスプレイがスゴイ。コレ落ちてきたら…などと考えるのは無粋?
一画では、熱した地金に鋼を重ね、熱を加えながら成形していく様子がビデオ視聴で学べる。1階にはショップもあるが、外国人観光客を中心に大人気のため品切れ続出中。
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堺伝匠館
和田さんが丁寧に教えてくれる。職人に説明を聞きながら周る贅沢。
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刃物
各地で違う鰻用包丁。西瓜(スイカ)、くり包丁まで! 日本人の料理へのこだわり、熱意が感じられる包丁の数々。
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「鍛冶・研ぎ・柄付けの完全分業制が堺打刃物の特徴。今日は研ぎと柄付けを体験していただきます。では参りましょう!」。専務について『堺伝匠館』を出て、いよいよタイケン会場へ。

86歳!の現役職人に「研ぎ」を学ぶ

徒歩3分ほどで着いたのは、刃物の老舗『和田商店』の店舗。まずはお着替えを…と出されたのは作務衣!憧れのサムエ!
「お写真撮りましょうか?」と声を掛けてくれたそのお方こそ、本日のセンセイ。研ぎ歴なんと70年!の池上悦郎さんである。

御年86歳!!!!
よろしくお願いしますッ。

まずは、TVショッピングなんかで見たことのある「切れ味チェック」。
渡された練習用の包丁は、新聞紙の上から包丁を入れてもうまく刃が進まず、切れない。
「これをこれから切れるようにしていきますよ~」センセイ、よろしくお願いします!

池上悦郎さん
池上さん(手前)と和田さん(奥)。
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センセイの指示通り、粗さ(粒度)の異なる2種の砥石の上で横・斜め。微妙に角度を変え、5回10回5回…と何回か砥石の上に刃を滑らせる。一通り研いだら、木板の上で切れ味をチェック。

刃を置いて引っ掛かりがあると「研げている」証拠なのだとか。刃にある細かな凹凸が切れ味の元になっていて、使い続けると凹凸が平らになり、「切れなくなっていく」という仕組みだそう。昔の職人さんは指や爪で研ぎ具合を確認していたらしい。怖!
繰り返し研ぐと木板チェックで刃が引っ掛かって進まなくなり、「研げた」みたい。

新聞紙に刃を落とすと、ス~~ッ! カ・イ・カ・ン!!

次に持ち帰る本番用の包丁を研ぐ。名前も無料で入れてくれるとのことで、事前に伝えておいた「あまから」名入りの刃を研ぐ、研ぐ、研ぐ。

「刀研ぎを生業にしていた明治生まれの父親に教わってきました。子どものころから研ぐ角度を時計の針で覚えたり…苦労しましたね」。
昭和14年生まれ、中学生のころから手伝っていたというセンセイの話にはグッとくるものがある。とはいえ、外国人のゲストにも自らレクチャーするというから恐れ入る。

研ぎ体験
和田専務と池上師匠に手取り足取り教えていただく。扱うのが刃物だからチョット緊張するが、研ぐ回数や角度は都度教えてくれるから安心。なによりも、数多の刃物を研いできたであろう池上師匠の「手」がいい。矍鑠(かくしゃく)とした声もいい。
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研ぎ体験
体験用の包丁は、三徳・出刃・刺身・ペティから選べるが、今回は馴染みのある三徳包丁で。名入れは、手彫りなら漢字、ひらがな、カタカナから選べる。アルファベットは大文字のみ可(刻印打ち)。
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柄付けで完成。お得なマイ包丁

最後は研いだ刃に持ち手=柄を付ける作業をタイケン。
まずは、専務のお手本を見せていただく。研ぎを教わった向かいにある「ザ・職人」なスペースに腰を掛け、刃を赤くなるまで高温に熱したかと思えば柄を刺し、木槌で叩いて打ち込んでいく。

「熱することで柄の穴を焼きつつ、押し広げてぴったりサイズになっていくイメージです」と専務。

様々な柄が入った引き出しなど、年季の入った道具に囲まれる作業スペースにて。奥のバーナーで刃を熱し、専用の器具で歪みやひずみを調整しながら完成させていく。
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見学・体験ができて、名前入りの三徳包丁が1本持ち帰れて15000円て…店で1本購入したらそれぐらいするわけで。コレ、もしかしてだけどお得タイケンじゃない?

熱した刃を柄に刺してもらい、下からトントントンとまぁまぁの力で打ち付ければ・・・あまから包丁、完成~!

世界無形文化遺産の「和食」を支える堺刃物。
今や100均でも包丁が買える時代だけど、使い捨てるのではなく、自分の包丁を食卓でじっくり“育てる”のも大切ですね。

包丁
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少人数からOK! 体験予約方法

料金:15000円(和包丁代込み)
定員:2~10名(要予約)
体験スケジュール:13:00~、15:00~の2回 ※予約は5日以上前に必要。
予約は こちら

作務衣
屋号「助松」入りの前掛けと作務衣に興奮しつつ、様々な包丁を見せていただく。漂うのは職人感…よりも女将風味?
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連載「タンケン!タイケン教室」

関西の人気の体験型施設に潜入し、全力レポする連載「タンケン!タイケン教室」

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writer

おばやし零余子

obayashi

兵庫県宝塚市在住の独身アラフォー編集者。酒と酒場好きで、年々大きくなる身体に危機感を覚え山登りに目覚めるが、一向に痩せる気配なし。最後の晩餐は雑煮。