パワースポット妙見山と『かめたに』名物鍋で、有り余るほどパワーチャージ

「登山の後の一杯は、登頂にも勝る至福の瞬間!むしろそれ目的に山に登る」と語る“酒飲みハイカー”ミツルさんとアラフォーの自称山ガール・おばやしが、初心者向けトレッキングと「下山後すぐに酒が飲める店」を訪ね歩く。

ハイキング感覚のゆるい低山でも、下山後にキリッと冷えたビールが飲めればご機嫌の中年ハイカーおばやし。
そんな彼女にミツルが連載第8回目の山として指定したのが兵庫・大阪両府県にまたがる標高660mの妙見山。
ややアクセスしづらいが、同地下山後の名物・しし鍋を目指して向かう。

【下山後酒場3箇条】
1.遅くとも16時から営業している】
2.下山(登山)口から徒歩圏内、あるいは公共交通機関一本で行ける】
3.立ち飲みではなく、椅子席がある】

信仰の聖地の麓に広がる里山の景色

ミツル
今回は前回の五月山よりも少し強度を上げて、ハイカーに人気の妙見山を目指します。
最寄り駅の能勢電鉄・妙見口駅は梅田から約1時間。その駅名の通り、妙見山登山と起点となる駅であり、大阪府最北端の駅でもあります。
おばやし
さすがにここまで来ると里山らしいのんびりした雰囲気が漂いますね〜。
駅前にはコンビニもなく食堂が2軒だけ・・・。下山後の一杯は大丈夫なのですか?
妙見口駅、かめたに外観
ミツル
心配するでない。
今回はこのうちの一軒、赤いテントが目印の『かめたに』で、名物のしし煮込みうどんをアテに一杯やる予定なのだ。ラストオーダーは16時30分。ゆっくり飲み食いするためにさっさとスタートしますよ!
おばやし
了解です! 駅前の観光地図を見ると、妙見山にはいくつかコースがあるみたいですね。
ミツル
今回は大堂越コースを登ろうと思います。このコース沿いには2023年までケーブルカーが走っていただけに、前半は比較的緩やな道で登りやすいですからね。
大堂越、上杉尾根コースマップ
【今回のルート】能勢電妙見口駅から続く道を進み、国道477号を経て、旧ケーブルカー黒川駅から本格的な登山スタート。
しばらくは沢沿いの歩きやすい道を登り、大堂越で他ルートと合流する。ここはからつづら折りの急登となり、能勢妙見山本殿がある山頂へ。下りは上杉尾根コースを歩き妙見口駅へ向かう約3時間の周回コース。
おばやし
妙見口駅から20分ほどで、旧ケーブルカーの黒川駅ですね。
まだ車両も残っていて今からでも走り出しそう。ケーブルカーが運行していたということは、多くの人が山頂を目指したということですよね?
ミツル
山頂にある日蓮宗の霊場・能勢妙見山は、古くから五穀豊穣や除災・招福・開運などの神様として信仰されてきました。本尊の妙見菩薩は北極星信仰の象徴としても崇拝され、じっとして動かない星であることから、一つのことを極める芸事の神様として全国から参拝客が足を運ぶパワースポットなのですよ。

実は山頂まで車道が通じているため、ケーブルカーの利用客が減少したのも休止の理由の一つでしょう。鉄道がまた一つ地図から消えることは、ソフトな鉄道ファン「ソフ鉄」である私も実に残念なことです。
おばやし
ソフ鉄かどうかは知りませんが、今回珍しく妙見山に関する情報は、なんだか気合が違いますね。
黒川駅、ケーブルカー
まだケーブルカーの車両が残る黒川駅。トイレは使用可能なので、山に入る前に済ましておきたい。
軌道跡から離れると小さな沢を渡って、そのままその沢沿いを登っていく。
ミツル
はい。妙見山にはすでに3回は登っていますので、予習はばっちりです。

では本格的にスタートしましょう! 最初は小さな沢を渡って、その沢沿いの道を登っていきます。

希少な自然と歴史、そして肩透かしの三角点

おばやし
比較的整備されて歩きやすいですけど、じわじわと足に来ますね〜。

うん? なんか石垣みたいなのが、所々に出てくるのですけど、お城でもあったのですか?
ミツル
これは炭焼き窯の跡なんですよ。妙見山は大阪に近い上、良質の木材が採れたため、昭和30年代まで木炭の生産地にもなっていました。
特にこの山のクヌギから作られる菊炭は有名で、香りが良く、火力も強く、しかも型崩れしにくいために重宝され、かの豊臣秀吉や千利休にも愛されたそうです。
おばやし
おお、知っていることを語る時の自信に溢れた表情がいつもと違う!(でもなんだろう、妙にイラつく…お年頃かしら?)

あ! これがクヌギ林ですね。途中で伐採されて、再生を繰り返したために独特の樹形になってますね。不思議だ〜。
ミツル
ここから先は少し岩が露出した場所もありますが、20分ほどで分岐点の大堂越に着きます。そこからはおばやしさん得意のつづら折りの急登ですよ。
大堂越コース、炭焼き窯跡
大堂越コース沿いには炭焼き窯跡がいつくか点在している。
林業遺産にも指定された台場クヌギ林。幹を1〜2mほどで伐採したあとを土台(台場)として新たに芽が成長した。室町時代頃からこの周辺のクヌギが活用されていた。
おばやし
ふぅう、ここが大堂越か。ちょっと一服してお団子でも食べてパワーチャージ!

なになに? ここからつづら折りの急登? ぐぐぐ、確かにキツイ! それに、先が見えないしんどさもある。
ミツル
いつものように文句が多いですな〜。
ほらご覧なさい、標高500mを超えれば、木々の間から眼下に広がる里山の風景も見えますよ!
おばやし
文句が私のガソリンなんです! あ、道が広くなって整備された墓地が見えます。山頂が近づいてきたのかな…。 案内看板を見ると、三角点はまだ先のようですね。
大堂越
四方向からの登山道が合流する大堂越。ここから先はつづら折りの急登が続く。
ミツル
山頂周辺は能勢妙見山の境内として整備され、とても歩きやすいです。それに山頂近くには、大阪府内では珍しいブナ林が広がっています。せっかくなのでそこに立ち寄ってから三角点を目指しましょう。
ブナ林
妙見山北面は日本海からの冷たい風があたることと、神域として伐採を免れたことから、幹周り2m以上のブナの大木が100本以上自生している。
輝く北極星をイメージさせる建物・星嶺へ向かう。奇抜なデザインに驚かされる。
おばやし
ブナ林を抜けると、なんか眩しいくらい立派でちょっと異質な建物が見えてきました。ここが頂上っぽい! しかも展望スペースから遥か彼方に大阪の町並みが見えて眺望も最高です!

あれ!? でも三角点はここじゃないみたいですね。残念……。 やたら主張する「三角点」の案内板に従っていくと、ありました!三角点…、けどなんか……ずいぶん控えめですね。
妙見山山頂、三角点
星嶺からは大阪の市街地や六甲山を望むことができる。三角点は道標に従って進み、星嶺から徒歩5分ほどの森の中にひっそりと鎮座する。
ミツル
さっきの立派な建物は、参拝者が誰でも語り合える場所として建てられた信徒会館の「星嶺」。ここからの眺めはまさに山頂にふさわしいですよね〜。
しかし三角点はこの先にある忠霊塔の奥にひっそりと佇んでいます。

三角点は山頂としては肩透かしですが、話のネタとして足を運んでおくのもいいかもしれません。
では、一息ついたあとは、本殿にお参りしてから、上杉尾根を通って下っていきましょう。
おばやし
上杉尾根コースは、眺望は良いものの、変化のない下りが続いて結構疲れましたよぅ。滑りそうな急斜面もありましたから、注意が必要ですね。

里山ならではの料理『かめたに』

おばやし
さあ、妙見口駅まで戻ってきました!いざ「かめたに」へレッツゴー!


こんにちは。あ、店内は自家製パンやお土産がいっぱい並んでいますね〜。売店の奥に飲食できるテーブル席があります!
ミツル
この地に店を構えて80年以上という老舗です。三代目店主の谷川正晃さんが、丹波篠山の専門店から仕入れた上質の猪肉を使ったメニューが人気なのです。

おすすめは、通年提供しているしし鍋味噌煮込みうどん(一人鍋)2400円。通常猪肉は50gですが、100gにできる倍増プラン(2800円)、150gの増々プラン(3400円)もある。一人前からオーダーできるのが嬉しいのう。今日はとりあえず、生ビール(中600円)と倍増プランでお願いします!
おばやし
私はうどんが出来上がるまでの間に、猪肉のフランクフルト・ししフルト(500円)と生ビールを!

ぐびび〜ぷはぁ〜、ああおいしい・・・。ししフルトもプリプリとした食感で、噛むほどに旨みが溢れますぅ。キンッキンに冷えた生ビールにぴったりです。
店内レジ前には自家製パンが豊富に並ぶ。ししフルトと生ビールのお得なセット(1000円)もある。テイクアウトして外で味わうのもまたいい。
ミツル
しし鍋味噌煮込みうどんもやってきました!一人前とはいえ、二人でシェアしても十分に楽しめるボリュームです。具材は猪のロース肉に地元産の野菜がたっぷりで、ほぼしし鍋の様相。しかもおばやしさんの好物・お餅が2つも入っていますよ。
おばやし
そこまでおっしゃるなら、ちょっと失礼して…。

う〜ん、猪肉の柔らかな食感と脂身の甘さがたまりません!野菜の旨みがとけ込んだスープも上品に仕上がって絶品。お餅も最高!
しし鍋
グツグツ煮立った状態で提供され、固形燃料で温め続けるので、最後まで熱々のまま楽しめる。
ミツル
聞くところによると、スープの味付けは3種類の味噌をブレンドした特製です。寒い時期には、この滋味あふれるお鍋は嬉しいですね〜。お肉も倍増にして正解でした!次に私は能勢町の地酒・秋鹿の千秋(一合550円)を熱燗でお願いします!
秋鹿、千秋、ワンカップ
秋鹿オリジナルの可愛いデザインのワンカップ。
おばやし
いつものように飲みすぎないでくださいね。大阪まで帰るのに少なくとも2回は乗り換えが必要ですからね!
ミツル
分かっておる! う〜ん、千秋は秋鹿のスタンダードな純米酒だけに、濃醇な味わいながら後味すっきりで飲み飽きないなぁ。山椒をふりかけて味変させたお鍋の猪肉にも合いますな〜。
おばやし
そしてミツルさんが日本酒を飲んでいる間に、私は店内を物色して自家製の塩パン(200円)を買っちゃいました。モグモグ・・・。
ミツル
猪鍋にパンという、奇想天外な組み合わせ! どんだけ炭水化物が好きなの?
今日も消費以上のカロリー摂取ですな。おばやしさんのダイエット計画はいかに? 次の山こそしっかりカロリー消費してもらいますよー!
対面に座るミツルからの死角を利用して塩パンを確保するおばやし。その塩味がビールに合ったのかどうかは本人だけが知る。

profile

藤川満さん

藤川 満

神戸在住のフリーライター。全国各地の低山と酒場をフィールドに飛び回る。日本酒をこよなく愛し「日本酒では全く酔わない」が口癖。

おばやし零余子

おばやし

兵庫県宝塚市在住の独身アラフォー編集者。酒と酒場好きで、年々大きくなる身体に危機感を覚え山登りに目覚めるが、一向に痩せる気配なし。最後の晩餐は雑煮。

脱力系山歩き酒飲み連載「下山go酒場」

ベテラン酒飲みハイカー・ミツルと、初心者ハイカー・おばやしが下山後の至福の一杯を求めてトレッキング。

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