余計なものは、必要なもの。「眠れぬ夜のご褒美」/正和堂書店のおすすめ

大阪市、今福鶴見駅からちょっと歩いたところにある『正和堂書店』は、小西さんご家族が経営する街の本屋さん。実は鞄からチラ見せしたくなるオリジナルブックカバーが大人気の書店さんでもあります。 本はココロのごちそうといいますが、ブックカバーに包んで大切に持ち歩きたい、おいしい本を書店員の小西さんにご紹介していただく連載「ブックカバーの下はごちそう」。
第11回は「眠れぬ夜のご褒美」。静かな夜、雨音をBGMに読みたい人気作家陣によるアンソロジー。“考えても無駄”なことは多いけれど、心のままに、いろんな思いをぐるぐるさせる日があってもいいんじゃないでしょうか。

眠れぬ夜のご褒美(ポプラ社)

あなたにとって、とっておきの夜食はありますか?
私にとっては、リンツのチョコレート。…夜食というより「夜のおやつ」かもしれません。
夜遅く、美しい包装をほどくときのあの高揚感といったら。
明日への活力になるかどうかはさておき、その日の疲れやストレスはすっと和らぎます。

そんな“夜食”をテーマにした短篇集、「眠れぬ夜のご褒美」をご紹介します。
おいしいものが大好きな作家陣が描くのは、夜を舞台にした極上の人間ドラマ。
心もお腹もあたたかく満たされる、全6篇を収録したアンソロジーです。

眠れぬ夜のご褒美
眠れぬ夜のご褒美(ポプラ社) 標野 凪/冬森 灯/友井 羊/八木沢 里志/大沼紀子/近藤史恵・著
10

想い人を待ち続ける駅で。
終電を逃し、たどり着いた“秘密”の場所で。
禁断のラーメンを目指す道中で。
傷心旅行で訪れたいわくつきのペンションで。
「正しい食べもの」をつくり続けてきた小さなキッチンで——。

どの物語も心に残り、何度も読み返したくなります。
なかでも印象に残ったのは、大沼紀子さんの「夜の言い分」。
こんな一節がありました。
「余剰なカロリー。冗長なお喋り。不要不急の集まり。余計な時間。
でも、私たちには、たぶん必要なものなんだろう。」
古い友人たちと定期的に開く、ファミレスでの夜食会。
ちょっと不真面目で、ちょっと正しくなくて、どこか背徳感もある。
でも、それこそが"必要なもの”だと、物語は語りかけてきます。

そういえば私にも、悩んだときに思い出す言葉があります。
「人間くさくて良いと思うよ。」
仕事でミスが続き、生活もだらしがない。前向きになりたいのに、気づけばウジウジ悩んでしまう。
そんな自分に嫌気がさしていた時、信頼する先輩がくれたひと言でした。

思えば私は、「正しく、きれいな人生」を目指しすぎていたのかもしれません。
規則正しく健康的な生活。前向きにミスを糧にし、キラキラした日々を送ること。
でも、悩んだり、不真面目だったり、ちょっとだらしない日があるからこそ、バランスが取れるんですよね。
「人間くさくて良いよな! 今、人間してるなー!」と思えると、少し心が軽くなるのです。
たまに食べるとっておきの夜食が背徳的だからこそ、心に沁みるように。

この本自体が、贅沢なご褒美のような一冊です。
“正しいこと”に疲れたとき、そっと手に取ってみてください。

『正和堂書店』が選ぶ、おいしい本連載「ブックカバーの下はごちそう」

大阪の街の本屋さん『正和堂書店』の選書コラム。心に効く本揃ってます。

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大阪・鶴見にある1970年創業の街の本屋さん。3代目の小西康裕さんが「読書時間がより楽しくなるように」とデザインしたオリジナルブックカバーが大人気。2代目の典子さん、3代目の康裕さん・敬子さんご夫妻(と4歳の長女)、康裕さんの弟・悠哉さんなど、一家で奮闘するSNSの総フォロワー数は20万人!
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