「関西ジンラリー」で知った、日本のジン造りのポテンシャルと可能性
120種の素材ごとに蒸留する『GEEKSTILL』
山梨県に蒸留所を構えるクラフトジンの蒸留所『GEEKSTILL』(ギークスティル)。蒸留家の岸川勇太さんが目指すのは、土地に根ざしたボタニカルの個性を生かしたジン造りだ。ジンの基本となる香りの素材は植物=ボタニカル。岸川さんはその可能性を広げるため、山や森に自ら足を運び、植物を採取するところから始める。身近な自然の中にある香りを見つけ出して、一つの酒へと昇華させていく。
蒸留所では、ジュニパーベリーをはじめ、柑橘、ハーブ、樹木など120種以上のボタニカルをそれぞれ単独で蒸留し、香りの特徴を細かく記録している。素材ごとに蒸留する方法は手間がかかるが、「一つひとつの香りの個性が分かるので、造りたい味をきちんと組み立てられる」と岸川さん。ボタニカルごとの香りを理解してブレンドすることで、複雑で奥行きのある味わいを生み出すことができるという。
現在、岸川さんが取り組んでいる挑戦の一つが、国産ジュニパーベリーによるジン造り。ジンの定義となるジュニパーは多くが海外産に依存しているが、山梨県の畑で栽培を試みている。日本は湿度が高く実付きが少ないため収穫量は限られるが「いつか100%国産ジュニパーでジンを造りたい」という思いから、試行錯誤を重ねている。
自然の植物を観察し、その香りを蒸留で引き出す。地道な作業の積み重ねの先にあるのは、日本の風土から生まれる新しいジンのかたちだ。「ボタニカルは、まだまだ身近なところに眠っている。日本ならではの香りをジンとして表現していきたい」。岸川さんの穏やかな笑みの奥にあるジンへの強い思いが伝わってきた。
日本人がカンボジアで生み出す熱帯ジン『MAWSIM』
ジンはもともと寒い国で生まれた酒だ。オランダで誕生し、その後イギリスで広く飲まれるようになり、約三世紀かけて世界に広がった。現在ではウォッカ、ラム、テキーラと並ぶ四大スピリッツの一つとして知られる。近年のクラフトジンブームを見ても、蒸留所の多くはヨーロッパや北米など、寒冷な地域に集中している。そんな常識を覆す発想から生まれたのが、カンボジア発のクラフトジン「MAWSIM」(マウシム)だ。
世界の主要なスパイスの約95%は熱帯アジアに存在すると言われている。カンボジアではジン造りに必要なボタニカルを一年中手に入れることができ、しかも乾燥させることなく新鮮なまま蒸留に使える。フレッシュなレモングラス、胡椒、トロピカルフルーツなど、土地の香りをそのまま閉じ込められるのが「MAWSIM」の大きな特徴だ。
『MAWSIM Gin』は、リサイクル事業を手掛ける岐阜の会社が、新事業としてカンボジアに蒸溜所を開設。2022年7月にローンチ。翌2023年には世界的な品評会「ワールドジンアワード」に出品し、約1100銘柄の中から、トロピカルなボタニカルを主体にしたジンがアジア圏で初めてワールドベストジンを受賞した。
もう一つの特徴がサステナブルな酒づくりだ。蒸留の際に生まれるヘッドやテイルは廃棄せず、消毒液や次回の蒸留時のベーススピリッツとして再利用。蒸留に使ったボタニカルもバーのフードやスパイスとして生まれ変わる。カルダモンの皮はカクテルの燻製に使われ、余剰ボタニカルからはトニックシロップやFIZZシロップも作られる。素材を最後まで使い切る循環型の仕組みを構築。もともと古紙回収事業の会社から始まり、サステナブル意識は群を抜いて高いと言える。
“暑い国で造るジンは、果たして美味しいのか?”という逆転の問いから始まった「MAWSIM」。その答えはぜひ自身で確かめてみてほしい。
故郷の清流から生まれるブルージン『仁淀川蒸留所』
高知県仁淀川町の山あいに、新しい蒸留所が誕生した。高知市春野町出身の山崎祐大さんは、和歌山や奈良でウイスキー蒸留所の立ち上げに携わってきた経験を持つ。蒸留所をつくるならどこかと考えたとき、幼い頃に慣れ親しんだ、仁淀川の景色が思い浮かんだという。「いろんな川を見てきましたが、やっぱり仁淀川に勝てる川はない」。そう語る山崎さんは2024年に町へ移住し、酒造りを始めた。
現在造っているジンは、仁淀川の清流をイメージした「BLUE GIN IMEA」(ブルージン イムア)。名前の通り鮮やかな青色のジンで、トニックウォーターを加えるとピンク色に変化する。ヒノキの皮やユズの搾りかすなど、町内の生産者から譲り受けた素材を加え、刺激を抑えながら香りを引き出している。
3月20日、待望の蒸留所オープンを迎えた。開業式典には、仁淀川町長もテープカットに訪れ、ライブペインティングなどのイベントも行われた。いよいよ故郷での本格的な酒づくりが始まった。クラフトジンとともに、高知県初のウイスキー造りにも着手している。新たに井戸も設置し、仁淀川の清らかな水と自然を生かした酒造りに挑む日々を送っている。
記事で紹介した造り手のジンが飲める「関西ジンラリー2026」は3月31日まで開催中。詳しくは後編へ!
writer
中野 弘子
Nakano Hiroko
京都コーディネーターⓇ&フリー編集者。京都の月刊情報誌「Leaf」編集長時代に「町家でごはん」を企画。京都の日常暮らしから全国の伝統文化、エンタメなどを多数取材。著書「よそさんが心地いい京都」(交通新聞社)、ペンネーム古瀬ヒロ著「京都謹製きもの和こもの」「京都いっぴん日用品」(淡交社)などがある。
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