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門上武司の旅vol20:地元客を「辛いけど旨い」四川麻辣の美味に開眼せしめた腕と心意気やよし、福井市『皇龍』

関西を代表するグルマン・門上武司による旅企画「皿までひとっとび」が、ひとっとびして帰ってきました!年間1000食以上を誇る“外食欲”は、御年70歳を過ぎてもなお旺盛。「アレが食べたい」と頭をよぎれば、もう居ても立ってもいられない。日本全国どこへでも、トランクひとつで東奔西走。拠点の関西を飛び出して、各地の美食を訪ねる新生「皿までひとっとび」の第20回は、福井・福井市『皇龍』へ。

「こんなの麻婆豆腐じゃない!」からの逆転劇

福井駅から4kmほど離れたロードサイドの店頭にはためくのは、「冷麺あります」という黄色い幟(のぼり)。ちょっとカジュアルに過ぎはしないかと、かすかに心配しながら「皇龍」のドアを開けたのが、昨年の夏のこと。

もちろん、そんな懸念はまったくの杞憂であった。その証拠に、1年が経ち、僕はまたもやこの店の卓について、料理の出来上がりを待っている。

『中華料理 皇龍』店内
2024年開店。米や野菜から肉・魚介に至るまで、福井の水と土地に育まれた食材使いを心がける、冨士大介さんの独立店だ。妻の亜里沙さんと2人で切り盛りする。
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今回も、まずは看板メニューの四川麻婆豆腐からいただいた。「麻」と「辣」の2種の辛みを鮮烈に感じさせつつも、その背後には旨みとコクがしっかりと。そう、この味だ、と舌にしびれを感じながら安心する。

『中華料理 皇龍』四川麻婆豆腐
大豆の主張が強すぎないからと福井市内『岸田食品』の絹豆腐を使う、店の一番人気、四川麻婆豆腐。サイズは小(豆腐半丁)、中(1丁)、大(2丁)があり、写真は中1540円。坂井市の農家から直送されるコシヒカリを炊いたご飯165円~を追加で頼むお客が大半で、冨士さんのおすすめは、かけご飯にしない“おかず食べ”。
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「オープン当初は、『こんな辛い麻婆豆腐は麻婆豆腐じゃない』とよく言われましたね。でも、気に入ってくれるお客さんが次第に増えて。今では必ず注文される方も多いんです」。店主の冨士大介さんが語る。かつては京都の、四川メインの中国料理店「大鵬」で働いた人だ。

周囲の理解に“乗じて”ひそかに辛さを増す、よだれ鶏

続いての料理は、やはり四川料理を代表する、よだれ鶏。鶏はムネ肉を使う。しっとりとした歯応え、あっさりとしたムネの味わいに、辛みの利いたソースが絡む。唐辛子油・山椒油に黒酢や醤油、ニンニクなどをきかせたチキンスープの深い旨みと、発酵の香りを帯びた自家製豆板醤のコクが、料理全体にまとまりを感じさせてくれるし、振られたナッツ類の香ばしさも、アクセントとして効果的である。このひと皿に盛り込まれた要素が一体となって、鶏を盛り上げている感じがした。

『中華料理 皇龍』よだれ鶏
よだれ鶏990円。国産鶏のムネ肉を低温でじっくり加熱し、やわらかな食感に仕上げる。ソースに加える豆板醤は唐辛子と味噌を発酵させた自家製だ。
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「麻婆豆腐の辛さが理解してもらえるようになってきたので、実はよだれ鶏も少しずつ辛さを増しているんです」と冨士さんが打ち明ける。

地元で見つけたスッポンと銘柄牛の出合いもの

おすすめに従って追加したのは、ふくい和牛「ふくふく」とスッポンの煮込み。眼鏡の街として有名な鯖江を流れる日野川でスッポンが獲れるので、それを『皇龍』流に仕立てた一品だ。 スッポンから染みた強靱な旨みの中に、地元の銘柄牛「ふくふく」のアキレス腱のしなやかな歯応えを主役とする多彩な食感、淡い麻辣の味わいが見事に重なりあい、鍋の中から力強くこの店の個性を主張してくる。

『中華料理 皇龍』ふくい和牛「ふくふく」とすっぽん煮込み
(左)ふくい和牛「ふくふく」とスッポン煮込み3300円。地産和牛のアキレス腱を圧力釜で1時間半ほど煮込み、スッポンやネギ、ししとう、ズッキーニ、キクラゲなどの食材と合わせる。
(右)担々麺1200円。水菜、ネギなどの野菜は近くのビニールハウス農家から。辛みは比較的マイルドで、四川料理に馴染みが薄い人でも食べやすい。
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冨士さんが京都から地元の福井に戻り、出合った食材から生まれた料理。その出合いの僥倖を、僕は美味の中に追体験する。そんなひと皿に巡り合うのも旅の楽しみである。

締めは担々麺とした。ゴマと肉味噌の利いた心地よい辛みのスープにちぢれ麺がよく絡み、コクとまろやかさを感じた後口にふわりと山椒が香る。これはリアル四川というよりは、われわれ日本人にフレンドリーな味わいを意識した一品と言えそうだ。

開店して2年が過ぎた。四川特有の麻辣の辛みに対する食べ手の理解も深まり、冨士さんの思う「美味しい」と、お客の感じる「旨い」の距離は確実に近づきつつあるし、両者の接近のスピードは、今後ますます早まってゆくのではないかと感じた。 「また訪ねたい店」のリスト、その上の方に入れておきたい一軒だ。

『中華料理 皇龍』門上顧問と店主の冨士さん
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皿までひとっとび

関西を代表するグルマン・門上武司が各地の美食を訪ねる旅企画。

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writer

門上 武司

kadokamitakeshi

関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問。年間外食350日という生活を30年以上続けるも、いまだ胃袋健在…。ゆえに食の知識の深さはいわずもがな。
食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぎ、発信すべく、日々奔走している。

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