門上武司の旅vol20:地元客を「辛いけど旨い」四川麻辣の美味に開眼せしめた腕と心意気やよし、福井市『皇龍』
「こんなの麻婆豆腐じゃない!」からの逆転劇
福井駅から4kmほど離れたロードサイドの店頭にはためくのは、「冷麺あります」という黄色い幟(のぼり)。ちょっとカジュアルに過ぎはしないかと、かすかに心配しながら「皇龍」のドアを開けたのが、昨年の夏のこと。
もちろん、そんな懸念はまったくの杞憂であった。その証拠に、1年が経ち、僕はまたもやこの店の卓について、料理の出来上がりを待っている。
今回も、まずは看板メニューの四川麻婆豆腐からいただいた。「麻」と「辣」の2種の辛みを鮮烈に感じさせつつも、その背後には旨みとコクがしっかりと。そう、この味だ、と舌にしびれを感じながら安心する。
「オープン当初は、『こんな辛い麻婆豆腐は麻婆豆腐じゃない』とよく言われましたね。でも、気に入ってくれるお客さんが次第に増えて。今では必ず注文される方も多いんです」。店主の冨士大介さんが語る。かつては京都の、四川メインの中国料理店「大鵬」で働いた人だ。
周囲の理解に“乗じて”ひそかに辛さを増す、よだれ鶏
続いての料理は、やはり四川料理を代表する、よだれ鶏。鶏はムネ肉を使う。しっとりとした歯応え、あっさりとしたムネの味わいに、辛みの利いたソースが絡む。唐辛子油・山椒油に黒酢や醤油、ニンニクなどをきかせたチキンスープの深い旨みと、発酵の香りを帯びた自家製豆板醤のコクが、料理全体にまとまりを感じさせてくれるし、振られたナッツ類の香ばしさも、アクセントとして効果的である。このひと皿に盛り込まれた要素が一体となって、鶏を盛り上げている感じがした。
「麻婆豆腐の辛さが理解してもらえるようになってきたので、実はよだれ鶏も少しずつ辛さを増しているんです」と冨士さんが打ち明ける。
地元で見つけたスッポンと銘柄牛の出合いもの
おすすめに従って追加したのは、ふくい和牛「ふくふく」とスッポンの煮込み。眼鏡の街として有名な鯖江を流れる日野川でスッポンが獲れるので、それを『皇龍』流に仕立てた一品だ。 スッポンから染みた強靱な旨みの中に、地元の銘柄牛「ふくふく」のアキレス腱のしなやかな歯応えを主役とする多彩な食感、淡い麻辣の味わいが見事に重なりあい、鍋の中から力強くこの店の個性を主張してくる。
冨士さんが京都から地元の福井に戻り、出合った食材から生まれた料理。その出合いの僥倖を、僕は美味の中に追体験する。そんなひと皿に巡り合うのも旅の楽しみである。
締めは担々麺とした。ゴマと肉味噌の利いた心地よい辛みのスープにちぢれ麺がよく絡み、コクとまろやかさを感じた後口にふわりと山椒が香る。これはリアル四川というよりは、われわれ日本人にフレンドリーな味わいを意識した一品と言えそうだ。
開店して2年が過ぎた。四川特有の麻辣の辛みに対する食べ手の理解も深まり、冨士さんの思う「美味しい」と、お客の感じる「旨い」の距離は確実に近づきつつあるし、両者の接近のスピードは、今後ますます早まってゆくのではないかと感じた。 「また訪ねたい店」のリスト、その上の方に入れておきたい一軒だ。
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- 店名
- 中華料理 皇龍
- 住所
- 福井県福井市飯塚町29-101
- 電話番号
- 0776-58-3466
- 営業時間
- ランチ11:30~14:30(14:00 LO)、ディナー17:00~21:00(20:30LO)
- 定休日
- 月曜(祝日の場合は翌日休み)
- 交通
- JR福井駅から車で13分
- 席数
- カウンター6席、テーブル16席
- メニュー
- ぷりぷりエビマヨ1210円、炒飯495円~、小籠包360円~。生ビール715円。
- https://www.instagram.com/kouryu_fukui/

writer

門上 武司
kadokamitakeshi
関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問。年間外食350日という生活を30年以上続けるも、いまだ胃袋健在…。ゆえに食の知識の深さはいわずもがな。
食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぎ、発信すべく、日々奔走している。
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