200余年の歴史が滲む京都『近又』の多彩な昼膳

京都・錦市場の側にある老舗料亭『近又』では、多彩な昼膳が近年好評です。モダンなカウンター席と、趣向を凝らした庭に面する和室。趣異なる空間も魅力のひとつです。

創業は享和元年(1801年)

『近又』の創業は、享和元年(1801年)。その始まりは、薬商人の常宿でした。その後、宿泊客を会席料理や茶懐石などでもてなす時代を経て、2年前に旅館としては閉業。現在は懐石料理店として商いを続けています。

さりげなく飾られた「御宿」の看板は、かつての名残。2001年に国の有形文化財にも登録された町家は、外観から趣があります。

京都『近又』外観
『近又』の文字が入った行燈は、明治時代に活躍したガス灯の名残です。
京都『近又』玄関
あえて灯りを落とし気味にした玄関は、季節ごとの飾りも見どころです。
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カウンター席限定の昼コース

奇を衒(てら)わない端正な味わいに定評のある『近又』で近年特に人気が高まっているのが、「気軽に和食を楽しんでいただけるように」との想いで始まった、カウンター席限定の昼コース(全7品6600円)です。2020年の大改装で誕生したモダンな空間で、軽めのコースをいただけます。

軽めと言いつつ、先付、椀物、向付、煮炊き物、焼物に、ご飯と水物が付く充分な内容。なかでも焼物に必ず添えられる作り立てのだし巻き玉子が大好評。一品ずつ目の前で調理されていくおいしい景色も、贅沢なご馳走のひとつです。

京都『近又』昼コースの椀物
桜エビの真薯(しんじょ)と蓮芋の椀物。ご近所・錦市場『丸常蒲鉾店(まるつねかまぼこてん)』の魚のすり身を使用しています。
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京都『近又』昼コース・若竹煮
若竹煮はフキ、菜種(菜の花)ウスイエンドウと共に。盛り付けてからたっぷり追いガツオをして、香りと旨みを強調した味わいに仕上げます。
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京都『近又』昼コースのだし巻き
〝だしが勝ちすぎない、卵がおいしいバランス″を意識した配合にしているというだし巻き玉子。共に供される焼物は季節替わりで、この日はマスの西京焼。
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京都『近又』カウンター
見せることを意識して造られたカウンターは、料理人の美しい〝動″が際だつ、静謐な空間です。
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夏だけの鱧点心もおすすめ

リピーターが多い夏の名物、鱧点心もおすすめです。いただけるのは、6~9月の平日だけ。竹かごに盛られた先付から始まり、鱧の椀物、鱧の天ぷら、鱧の蒸し寿司に、シャーベットが付く内容。粋な鱧尽くしをお昼なら6000円から堪能できます。
※冬季は「穴子の蒸寿司」の点心に変更。

主役の蒸し寿司は、本来京都の冬の風物詩的な料理。それを真逆の夏に出す理由は、意外性だけではありません。「料理屋だからこそお出しできる、出来たての温かい寿司のおいしさを広く知っていただけたら」という8代目の鵜飼英幸(ひでゆき)さんの想いが込められています。

京都『近又』の鱧点心
鱧点心のメイン・鱧の蒸し寿司は、鱧のタレ焼き、黄身そぼろ、イクラなど具だくさん。椀物はふわふわの鱧の落とし。藻塩でいただく天ぷらは、鱧のほか、カボチャやミョウガが付きます。
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京都『近又』の鱧点心(先付・デザート)
一品目の先付はゴマ豆腐、ナスの田楽、ヅケマグロの手鞠寿司など。締め括りの青ジソシャーベットが夏らしい爽やかな味です。
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風情ある個室は抜群の特別感

カウンターとは打って変わった雰囲気。明治時代の風情が色濃く残る個室は、全部で6部屋あります。なかでも人気が高いのは、庭に面したお部屋。飛び石に配されているのは、今では入手困難な鞍馬の赤石。小雨を表現する竹の穂垣や石清水八幡宮と同じ織部灯籠など、細部に古き佳き和の趣向が凝らされた庭は、一見の価値があります。

見応えある空間と滋味豊かな料理は、世代も国籍も問わない吸引力。遠来の客人をもてなす折にもおすすめしたい老舗です。

京都『近又』の個室
一番人気の個室。和の情緒はそのままに、足が悪い方でも過ごしやすいようテーブルを配置しています。
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