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日本にシャルキュトリー文化をもたらした伝道師。兵庫・芦屋『METZGEREI KUSUDA(メツゲライ クスダ)』

シャルキュトリー=ハムやソーセージなどの食肉加工品という言葉は、この店が無ければきっとここまで浸透しなかった。六甲道に『METZGEREI KUSUDA』が誕生したのが2004年。その後、工房、イートイン、広いショーケースを備えた芦屋店が09年に開店。24年には東京・麻布台ヒルズにも新ブランドを出店し、全国区となった。

フランスも認める職人の技

7月14日。東京・フランス大使館大使公邸で催される「パリ祭」を祝うパーティーには、毎年『METZGEREI KUSUDA』の豪華なシャルキュトリーの盛り合わせやパテアンクルートのケータリングが並べられる。食肉加工食文化の本場のフランス人が認める味、文字通り日本を代表する店である。

芦屋店のショーケース。店の入り口に伝票が置いてあり、お客さんが欲しい商品と量を記入してスタッフに渡し、量り売りで購入する。調理法や食べ方など、分からないことがあれば質問すると丁寧に教えてくれるのでご安心を。
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開業22年目に突入した今では、神戸・芦屋の人々の日常にシャルキュトリーはすっかり浸透。製品を手掛ける店主の楠田裕彦さんは、ハム職人だった父の職場に幼少期から出入りし、仕事を手伝って育った。イタリアンやフレンチのレストランで料理も学び、渡欧資金を貯めて、ドイツ・フランスへ渡り、シャルキュトリーの製造現場で数えきれないほどのレシピを学んだ。「上手に肉が捌ける日本人が来たぞ」と、現地の工房では驚かれたという。そんな楠田さんが歩んできた道筋が詰まったショーケースは、開店時から21年通っていても、毎回初めて見る商品がある。日本の食材や季節感も盛り込んだ独自のアレンジと、ヨーロッパの伝統的なレシピを伝える商品と、その奥深さに目を見張る。

楠田裕彦さん。自身の製品の精度のみならず、食肉の生産者や環境問題など全方位的な知識や問題意識を持って業界を牽引している。職人として生涯現役で、より美味しい製品作りをと志している。
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芦屋店の工房で肉を捌いて手作業で

日本の生産者が育てる豚や牛、鶏を、塊のまま仕入れて丁寧に下処理を施す。塩漬けにしたり、スパイスと合わせたり燻製したり、ボイルしたり、工房内の作業は気の抜けない工程の積み重ねだ。食肉を育む人からのバトンを受けて無駄なく使い切り、職人として美味しく加工し仕上げることを使命として真摯に向き合ってきた。

5日間塩漬けにした豚バラ肉をレンガの窯でじっくり3昼夜温燻し続け、メツゲライクスダの香り高いベーコンは出来上がる。味わい深く、焼いても煮込んでも料理の格がグッと上がる。
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例えばベーコン。豚の塊肉に包丁を入れて小さな筋まで取り除き、塩漬けにすること5日間。レンガの窯で桜のチップで燻製にする。庫内60℃の温度を保ちつつ3昼夜燻し続けてようやく完成する。旨みをじっくり凝縮させるために必要な手間と時間。本当に美味しいものは、量産も時短もできないものだ。フライパンで少し焼いただけで香りの違いは歴然。ぐっと凝縮された旨み、上質な脂が溢れ出る。スライスでもブロックでも購入できるので、調理の幅も広い。

「生ソーセージセット」はその日ある4種類を組み合わせたもので2500円。弱火のフライパンの上で転がしながらじわじわ15分ほど加熱して。溢れる肉汁スパイスやハーブなどを混ぜ込んだ肉の旨みが格別。
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生タイプのソーセージも、工房内でミンチにした豚肉に調合したスパイスやハーブを混ぜ込んで、腸詰していく。一本ずつ購入することができるので気になる味をチョイスするのもいいが、迷う時には、その日ある、4種類を組み合わせた「生ソーセージセット」がおすすめだ。味や食感の違いを食べ比べて実感できる。

取材時のメニューから「ジャンボンペルシェ」100g1404円はパセリの香りが爽やかで見た目も美しいテリーヌ。
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パテやテリーヌも個性豊か。これほど美しくシャープな製品を作れる職人も、国内では稀と言える。こちらは取材時のメニューで、イタリアンパセリのグリーンが鮮やかな「ジャンボンペルシェ」。約1週間塩漬けにした豚のモモ肉の塊がごろごろ。表面にはたっぷりのパセリのジュレ。白ワインやピクルスと合わせて味わいたい。

芦屋店限定のイートイン

イートインの「シャルキュトリープレート」2700円。12種類前後の商品とパン、オリーブ、マスタードを添えて。
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スライスしたての瑞々しさを味わえるのが、イートインの醍醐味で、それが叶うのが芦屋店だ。「シャルキュトリープレート」は、その日のショーケースの中から、お店が選んだハムやテリーヌ、サラミなどを少量ずつ盛り合わせて供される。定番から限定まで、一期一会のお楽しみ。取材時は、ドイツの「コッホサラミ」にブラックペッパー香る「ペッパーハム」。ネズの実のとサクラで燻製したハム「ジャンボンオゥジュニエーヴル」、「パテド カンパーニュ」など。ビールやグラスワインとともにオーダーして、昼飲みを満喫するにはもってこいの一皿。先にイートインで試してから、自宅用に気にった味をテイクアウトするのもおすすめ。

「ホットドック」1300円。炭火で15〜20分掛けて焼き上げる。パンは近隣のドイツパンの「ベッカライビオブロート」さんによる特製品。芦屋店の開店時から提供している。テイクアウトは1100円。
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パンからダイナミックにはみ出たソーセージ。「ドイツのホットドックはスナック感覚で、ソーセージを味わうのがメイン。パンは挟んで持つためのものなんですよ」と楠田さん。ホットドック用の特製ソーセージは、粗挽きのミンチにマジョラムを効かせて。一般には流通しない、親豚の肉も合わせて作るという。そうすることで炭火の温度にも耐え、噛みごたえも味わいも強くて深くなる。まさにここでしか味わえないスペシャルなホットドックだ。

イートインの席の予約は可能で、混雑時は90分制。また例年、年末は繁忙期のため店内飲食はお休み。テイクアウトのみとなる。
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大切な人への手土産や贈り物に喜ばれるのはもちろん、家庭の日々の食卓にプラスアルファの喜びを運んでくれた楠田さんのシャルキュトリーの数々。料理人も、一般客も、生産者も常に注目。業界を牽引する一軒が兵庫にあって良かったと、心から思っている。