どぶろくも醸す大阪・本町『日本酒餐昧うつつよ』で佳肴5品+単品を

フレンチを経て、日本酒の世界へ。店主・藤井章弘さんが大阪・本町に2011年に開いた居酒屋『日本酒餐昧(ざんまい)うつつよ』は、センスある酒肴や目利きの地酒に加え、自家製どぶろくが楽しめる希少な一軒。近年は、おきまりの佳肴5品+単品スタイルが人気だ。

店主が醸すどぶろくが、新たな魅力に

大阪の街中でどぶろくを醸造!? 店主の藤井章弘さんが姉妹店『スタンドうつつよ』の奥に醸造所を併設したのは2023年。自家製どぶろくは、『日本酒餐昧うつつよ』の新たな魅力となった。

「岩手の『民宿とおの』四代目の佐々木要太郎さんが醸す、洗練されたどぶろくの味わいに感動して。僕もやってみたい!と想いを伝えたら、要太郎さんが手ほどきしてくれたんですよ」。

どぶろくは、もろみを濾過しない、米の粒感を楽しむにごり酒。『民宿とおの』では、自然栽培米を使い、三段仕込みという清酒の技術を加えることで、格段にブラッシュアップさせている。その醸し方を踏襲したのが「うつつよのどぶろく」。昨年、大阪府産の無農薬・無肥料で作る酒米の王様「山田錦」を使った「埜〜nao〜」もリリースしたばかりだ。

「うつつよのどぶろく」「埜〜nao〜」
『大阪どぶろく醸造所』で醸す「「うつつよのどぶろく」と「埜〜nao〜」。どちらも左から火入れと生で、1杯980円均一。
10

おきまりの前菜4品で旬味を堪能

藤井さんは、かつて肥後橋で一世風靡した『トゥールモンド』でフレンチを学んだ異色の経歴を持つ。「居酒屋がやりたい」と入店したのは、大阪きっての日本酒専門店『山中酒の店』。系列の2つの居酒屋で店長を務め、2011年に独立。開店当初から酒肴のセンスには定評があったが、今やそれも円熟の域だ。

前菜4品とお造り盛合せで5000~5500円。このおきまりを堪能してから、アラカルトで好きなものを、というのが今のスタイル。「野菜を中心に、おっ! と思うような取合せを楽しんでほしくて」仕立てる前菜に、藤井さんの個性が横溢している。

『日本酒餐昧うつつよ』の白和え
取材時のおきまり(前菜4品、お造り盛合せ)5000~5500円から。日向夏とフルーツトマト、スナップエンドウの白和え。
10

今の時季ならば、一品目の前菜は、爽快でなめらかな白和え。その和え衣に、日本酒を呼ぶ工夫がある。旨みを底上げしているのは、『民宿とおの』がどぶろくと水だけで醸すどぶ酢だ。 「埜〜nao〜」の生と白和えは、いわば“どぶろくマリアージュ”。優しく胃を開くような軽やかな酸と、旬の果菜のフレッシュ感、まったりとした旨みに頬が緩む。

続く前菜2品目は、能勢の高山真菜(まな)のナムルにワラビを盛り合わせた桜鱒のきずし。香ばしくもほろ苦いルッコラのペーストを絡めて、どぶろくの熱燗でいく。

『日本酒餐昧うつつよ』の桜鱒のきずし
桜鱒のきずしとルッコラのペースト。
10

3品目の前菜は、ホタルイカのなめろう。白味噌とショウガにカシューナッツも合わせたこっくり濃厚な味わいに、加賀太キュウリを添えている。お相手は、藤井さんの故郷である香川の銘酒「悦凱陣(よろこびがいじん)」の「うすにごり 興(こう)」。キレのいい冷酒がすいーっと舌を洗い、もう一口へと誘う。

『日本酒餐昧うつつよ』のホタルイカのなめろう
ホタルイカのなめろうと、加賀太キュウリ。
10

お造り盛合せからのアラカルト

店内でひと際存在感を放つ冷蔵庫には、「ご縁のある酒蔵を中心に」全国の地酒がずらりと並ぶ。自分の料理に合わせて、香り系ではなく、優しい滋味の食中酒を揃えているため、「酒は任せるわ、と言われると嬉しいんですよ」と藤井さん。

では、お造り盛合せには? 「広島の『龍勢』を常温か、燗で。全量生酛(きもと)蔵なので、万能なんですよ」。

『日本酒餐昧うつつよ』のお造り盛合せ
お造り盛合せ。手前右から時計回りに、徳島のヒラメ、和歌山の真鯛と針イカ、氷見のひっさけマグロ、福岡のサワラは焼き霜造り、青森の桜鱒。造り醤油と麹醤油を添えて。
10

計11カンほどで1人前とは充実している。「いかにおいしい造りを出すか。毎朝、市場に通って、真剣に目利きしてます。だから、つい盛りだくさんになっちゃうんですよね(笑)」。

この時点で、お腹は八分目。でも、もうちょっと飲みたい。そういえば肉系を食べていないなぁ、とアラカルトの品書きから選んだのは、和牛ハツの炙り焼き。

『日本酒餐昧うつつよ』の「和牛ハツの炙り焼き」
和牛ハツ炙り焼き1700円。
10

肉厚のハツはブリッと歯応え豊かで、醤油ダレが絡んで旨みも隆々。食べ進めると、ん? 何やらほろ苦いペーストが。春ならではの根付きの三ツ葉。ぐっと複雑味が増し、藤井さんセレクトの「群馬泉」の熱燗と渡り合う。

『日本酒餐昧うつつよ』店主・藤井章弘さん
店主の藤井章弘さん。
10

「讃岐の手作りしょうゆ豆」や「鯖くんポテサラ」などのアテをさらに追加して、『ポニーの里ファーム』の自然栽培米の塩むすびあたりで締めて、満腹。前半戦はおきまり、後半はアラカルト、という流れは、旬の野菜や魚介を余さず味わえ、なおかつ、好きな一品も選べて有難い。

どぶろくの醸造も手掛けながら、調理はほぼワンオペ。47歳の藤井さんはまさに大車輪の働きっぷりだが、店内にはほこっとした心地よさが満ちている。“日本酒をおいしく飲むための餐(料理)”を磨き続け、『日本酒餐昧うつつよ』はこの5月末で15周年を迎える。

『日本酒餐昧うつつよ』の店内
カウンターとテーブル席を繋ぐ壁には、アートな剣山に1束(?)のカリフラワー。「ミョウガやトウモロコシなど季節の野菜を生けてます(笑)。可愛いでしょ?」。来店時には、どんな野菜が? ぜひチェックされたし。
10