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味自慢の割烹料理が食べ飲み放題で1人9900円⁉︎ 大阪・兎我野町『季節料理 喬司』

多くの献立がずらり記された浪速割烹の品書きを前に、何を頼むべきか分からない。おまけに「時価」などと書かれていれば懐も心配になってくる。ところが「食べ飲み放題」で9900円ポッキリの明朗会計ならどうだろう。そんな割烹だったら初心者だって怖くない。

150分食べ飲み放題1本勝負

太融寺のすぐ近く、兎我野町の外れにある小さな店は、知る人ぞ知る割烹だ。席もカウンターが4席、テーブルも2名掛けと4名掛けの2つきり。板場には寡黙な店主がひとり立つ。

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20年ほど前に訪ねた際には、品書きに値段がそれぞれ書かれていた。40品ほどの献立が並ぶ浪速割烹スタイル。どの品をどんな順に注文すべきなのか若輩者の私にはまだよくわからなかったけれど、料理はとびきりおいしく、端から端まで全部食べてみたいと思ったことは確か。そしてそれが今は叶うのだ。

予約は座席の関係で各組2名以上4名まで。品書きにある料理は食べ放題。お酒もソフトドリンクも飲み放題で150分1人9900円(ラストオーダーは120分時点)だという。「一体どういうこと?」と思いながら、好奇心に駆られて訪ねた。

4月中旬の品書。目移りするほどの長い品書きは『㐂川』の系譜の店ならでは。
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店主の桑野孝幸さんは18歳で北新地の『㐂川(きがわ) 有尾』に修業に入り、和食ひと筋の熟練の料理人だ。屋号には「季節料理」と掲げ、毎朝市場に仕入れに出向き、今食べて欲しいと思う、旬の食材を選んでお客を迎える準備をする。

ところが長年店を営むなかで、2008年のリーマンショックの翌年頃から、来店客の懐事情が変わったと肌で感じた。せっかく上等な食材を揃えて仕込みをしても、財布を気にしてか安い料理ばかりが注文される。そこにもどかしさを感じ、心ゆくまで旬の味覚を食べてほしいと、現在のような食べ飲み放題という提供スタイルに変更した。

店主は10000円の壁との攻防中

食べ飲み放題を始めた2009年頃は7500円で提供。そこから仕入れ値の高騰に応じて、8500円、9500円の時代を経て、現在が9900円。「苦しいところですけれどね。10000円超えるとお客さんもしんどいかなぁと思ってギリギリ」と苦笑いする桑野さん。まさに「around10000円」で踏ん張っているけれど、この物価高の時勢、どうぞご無理はなさらず、とお客の立場ながら心配になってくる。

営業中は黙々と1人で全ての調理をこなす桑野さん。おいしいものをお腹いっぱい食べて欲しいという思いと、物価高の狭間で踏ん張っている。
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さて、この日はアラフィフの男女で参戦。果たして何品食べられるのか。中年の胃袋との戦いである。 席に着き、まずは生ビールで乾杯。定額制といえど、基本は割烹と同じ注文スタイル。毎日40〜45種類ほど用意がある中から食べたいものを伝えると、都度、桑野さんが調理して出してくれる。

スタートはお造りを盛合わせにしてもらった。この日はシマアジ、タコぶつ、アワビ、赤貝。豪華な内容かつ鮮度も抜群で、すでに食べ放題と思えぬクオリティー。ほとんどの人が最初は盛合わせでオーダーするそうだが、後から単品でシマアジ追加、赤貝追加などという使い方も、もちろんOK。

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折々の味覚を確かな技で

訪れた4月の中旬は、ちょうどタケノコが登場した時分だった。「毎年これを楽しみにしている人もいて『そろそろ始まった?』って電話が入るんですよ」。

桑野さんが使うのは北九州市合馬(おうま)の朝堀の白子タケノコで、この地区のものが入荷するわずかな期間に限り、タケノコ料理を提供している。合馬の朝掘りタケノコはアクがなく生でも食べられるとのことで少し味見させてもらうと、梨のような瑞々しい食感と風味。さすが熟練の職人のお眼鏡に適った食材である。

例年ほぼ2週間しか流通しない合馬の白子タケノコ。今年の春に間に合わなかった方はまた来年ぜひ時期を狙って予約を。
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煮物の献立に書かれていた「朝掘り筍と若布」と「朝掘り筍の土佐煮」は、せっかくなのでどちらもオーダー。かぶり付けばジュワッと溢れ出る旨みとしゃくしゃくの食感、ふわっと抜けるタケノコの風味に、つい笑顔がこぼれる。こりゃ日本酒だね。

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常時4種類ほど用意されている日本酒はすっきり系なら『麓井』の生酛本辛、ふくよかな香りを楽しむなら『菊姫』の「惇」もいい。 それ以外の酒は、生ビール、梅酒、ウイスキーに焼酎は芋麦それぞれ1種類ずつ。もちろんこれも料金のうち。平均7、8杯飲む人が多いとか。

どの品も抜かりなしの旨さ

造りとタケノコ料理を味わったあとも品書き制覇の道はラストオーダーの120分まで続く。

「牛肉のタタキ」にホクホク揚げたての「蓮根まんじゅう」。季節の味「ホタルイカの酢味噌」に定番メニューから「せせりポン酢」。油物は「アオリイカとアスパラの天ぷら」に「海老クリームコロッケ」。焼物から「菜の花のあぶり」に魚は「めぬけの塩焼」。煮物から「梅貝の旨煮」。「地鶏のカレー煮」はうどんも入れられるというからカレーうどんにしてもらいズルッと。

この日オーダーしたものの一部。4日掛かりで味を染み込ませた「梅貝の旨煮」はぜひ食べてみてほしい味。
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ベテラン料理人の桑野さんの仕事がとにかく早くて、オーダーしたものはあっという間に運ばれてくる。毎朝市場に通い、丁寧に仕込みを行っているからこそ、段取りよくこれだけの品を瞬時に作れるのだ。

ところで50代の胃袋は20品を超えた頃からすでに満腹ノックアウトに近い。同じ時間に来店していた、20代と思しきカップルは50品ほどを平らげている。「若いってすごいな」と感心していたら「年齢はあまり関係ないみたいですよ」と桑野さん。 歴代最高に食べたお客さんは、80代のお祖父さんとお孫さんの2人で来店し、なんと67皿平らげたのだとか。「お祖父さんもお孫さんに負けないほど食べて飲んでいて。他にも同じ週に2日来店された方もいらっしゃいます」。 「東京では考えられない値段とクオリティーだ」と、出張のたびに来店する常連さんもいるのだとか。

持ち帰りできる季節の土鍋ごはん

ほとんどの人が品書きを制覇しようと限界まで食べ放題を楽しむので、なかなか辿り着けないが、別料金の「土鍋の炊き込みごはん」も必食だ。毎日数種類用意されており、選ぶ具材により値段が異なる。この日は、地鶏1500円、穴子2000円、うなぎ4000円、あわび5000円があった。

土鍋ごはん用に、米穀店にブレンドしてもらっている特注の米が2合。そこに店の基本のだし、カツオとマグロ節の合わせ。醤油などの調味料を加えて浸水させてから炊き上げる。故にラストオーダーの時間よりも少し早めにお願いしておくのがいい。
この日は「2000円プラスでタケノコも入れられるよ」とのことで、桑野さんが一番旨いと思う組合せ、伊勢地鶏とタケノコの炊き込みごはんをお願いした。

地鶏1500円の土鍋ごはんに+2000円でタケノコも加えて。3500円の炊き込みごはん。
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ツヤピカのご飯がしっかりだしと食材の旨みを吸い込んで格別の旨さ! 「みなさん、満腹なので、持ち帰る前提でオーダーしてはります」と桑野さん。ということで、食べきれないごはんを折り詰めしてもらい、家で温めて食べたのだが、時間がたってもこれまた抜群だった。家族へのお土産にすれば、いい言い訳にもなる。

このスペシャル土鍋ごはんを付けて、酒やソフトドリンクも2人で10杯以上飲んで、会計は1人11650円‼︎
値打ち以外のなにものでもない。
浪速の料理人の腕と意地と心意気に惚れて、再訪を誓った。

お品書公開。定番料理と旬の味と。他の季節の料理も食べに行ってみたい。
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writer

三好 彩子

Miyoshi Ayako

愛媛県生まれ。関西の飲食店の皆様に育てられ、丸々成長した食いしん坊フードライター&編集者。特技はレストランの厨房に潜入取材をすることで、調理師免許も取得。イベント司会や企業のプロモーションも担う。共著書に『ご当地グルメコミックエッセイ まんぷく神戸』(株式会社KADOKAWA)がある。