滋賀県大津『Y-s』で、常識を打ち破る洋菓子に出合う

「和素材を使った洋菓子って結局、抹茶スイーツでしょ?」なんて思い込みはこの際、捨てていただきたい。醤油や味噌、酒粕、梅…。日本人の味覚に刻み込まれた食材が洋菓子として花開く。滋賀県大津市の気鋭カフェ『Y-s(ワイス)』で、固定観念を覆す味覚の旅へいざ、おでかけしてみましょう。

扉の向こうへ臆せず進め

高らかに昭和歌謡が鳴り響く古式ゆかしい商店街。そこから少し枝分かれした小径の先に、初見殺しかと思えるほど小さな看板、いや、表札を掲げるお店が鎮座します。

こちらは和の食材を絶妙に配合し、日本人の琴線に触れる洋菓子を生み出すお店。外界から切り離された洞窟のような空間で、日本酒やお茶と一緒にペアリングを楽しめます。

恐らく客のほとんどは、こうした前情報を周知の上で来店しているのでしょう。とはいえ、表構えが一見、排他的とも思えるほどシンプル。もしや中では意識高い系の人たちが集まって、文壇バーみたいな雰囲気を醸していたらどうしよう…と一抹の不安がよぎります。 そんな私の心を見透かしたように、扉にはにっこり微笑む坊やの絵が。滋賀県には昔から「飛び出し坊や」なる看板が多いのですが、「まさか、こんなところで亜種に遭遇するとは…」と驚きを隠せません(たぶん違う)。

Y-s外観
民家を改装した入り口は、見落としてしまいそうなほどさりげない。
Y-s表札
店のありかを示すのは、ロゴマークが描かれた表札のみ。
Y-sのドアの坊や
手描きの坊やのイラストはこの場所が昔、学童だった頃のなごり。
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光と影が交錯する洞窟へようこそ

坊やの笑顔に促され、勇気を出して扉を開けます。するとそこは『陰翳礼讃』の世界。吹き抜けから降り注ぐ自然光が漆喰壁に影を落とし、行燈の温かな光が洞窟内を満たします。手前にはゴツゴツとした美濃石と一枚板のテーブル席、その奥が割烹料理店かと見紛うほど凛々しくも美しい白木のカウンターです。

Y-s店内全景
藁入りの漆喰壁に包まれた、おこもり感のある空間。
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早速、メニューに目を落とすと、この日は4種類のケーキセットがありました。

「当店のスペシャリテはベイクドチーズケーキです。これは僕がさまざまな刺激を受けて成長する過程において、試行錯誤を繰り返しながらブラッシュアップしてきたもの。現在は滋賀県産の白カビチーズと24カ月熟成のフランス産コンテチーズ、滋賀県産の蜂蜜を使ったチーズ生地に、ボトム生地は滋賀県産の醤油粕とフランス産のブロンズショコラを組み合わせたクランブルになっています」。

白木のカウンターではゼロ距離で店主との会話を楽しめます。
Y-sテーブル席
自然のままの姿を生かしたヒノキの一枚板のテーブル。
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洋菓子の概念をぶっ壊す哲学者

まるで哲学者か研究者かのような面持ちで、よどみなくケーキの構造を解説してくださる店主の桂川良也さん。

一見、「寡黙で近寄りがたい方かしら…」と思いきや、自身の創造物に対する熱量が凄まじく、圧倒的な語彙力で丁寧にケーキのディティールを教えてくださいます。

そもそもは三田市にある某名門パティスリーからキャリアをスタートし、滋賀県東部の東近江市で独立した桂川さん。そこでも固定観念を打ち破る和素材×洋菓子を提供していましたが、2026年5月に移転。「遠方からのお客様にたくさん来ていただく中で、県内でも“交通の要衝”といわれる大津市に集客力やブランディングの可能性を感じました」。

Y-s店主ポートレート
店主の桂川良也さん。第一印象は「寡黙な哲学者」。とはいえ意外に「いじられキャラ」な一面もあるという。
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Y-s手元
チーズは、竜王町の古株つや子さんが作る「ラクティック」を使用。
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Y-s作業中の店主
ケーキは、ベイクドチーズケーキ、プリン、ガトー・マルジョレーヌなどを用意。
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白味噌と花椒をチーズケーキに⁉

それでは早速、ベイクドチーズケーキ「一奏」をいただいてみましょう。

ミルキーなチーズのうま味を感じながらも、濃厚というより軽快。底に敷いたブロンドショコラがざくざくと香ばしく、醤油粕の塩味が利いて塩キャラメルのような味わいです。そして、ケーキの“味変要員”として動員されたのは、大津市にある「九重味噌」の白味噌を使ったクリームと中華料理によく使う花椒(ホワジャオ)。もう、何がなんだかわからない。でも、これが合うんです!

Y-sチーズケーキ
ベイクドチーズケーキ「一奏」は小菓子、ドリンクのセットで2500円~。日本酒とのペアリングも。
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Y-s小菓子
小菓子はその日によって変わり、この日は梅干し入りのバターサンド、きなこのブールドネージュ。
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31層のミルクレープは大吟醸の酒粕入り

ミルクレープも桂川さんの激推しスイーツで、季節ごとに味わいは変わります。

夏は「エキゾチック大吟醸」と称して、日本酒「旭日」で知られる滋賀県『藤居本家』の大吟醸の酒粕と、ココナッツ、カルダモン、パッションフルーツのクリームをサンドした和の香りと異国の香りのコラボ。 ちりばめられたピンクペッパーが甘さを引き締め、まさに「お見事!」と拍手を送りたくなる絶妙な素材使いです。

Y-sミルクレープ
ミルクレープのセット。紅茶はポットで提供。写真の紅茶は、乳製品に合う和紅茶の「香駿」。
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ケーキに2500円⁉ と驚かれるかもしれません。しかし、素材を徹底的に吟味し、組み合わせの妙を極限まで追求したケーキは、一口一口がとてつもなく濃厚。

しかも、スイーツとベストマッチングな和紅茶や台湾茶、小菓子もセットで楽しめるので、店を出る頃には価格をはるかに超える満足感を抱いています。

Y-sミルクレープヨリ
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常識に凝り固まった味覚に一撃を浴びた気分…。あの時、勇気を出して扉を開けた私自身に「グッジョブ!」と声を掛けたくなりました。

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