関西モーニング手帖Vol.8/『舌れ梵』から『自鳴琴』へ。45年越しのモーニング

神戸・元町の路地裏で45年愛されてきた喫茶店『舌れ梵』。惜しまれながら閉店したその店は、新たに『自鳴琴』の名で受け継がれました。常連客の要望で生まれたモーニングとは……?

45年続いた『舌れ梵』を継いで

元町商店街を一本入った静かな通り。重厚な木の扉を開けると、ドライフラワーが天井を覆い、仄暗い電燈がタイルのテーブルに柔らかな光を落とします。膝の悪い年配男性を窓越しに見て、外へ出て席までエスコートする女性。優しい雰囲気に満ちた喫茶店は、この店主の温かい気遣いに包まれているようです。

綺麗に手入れされた花が埋め尽くす外観。
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さて、何と読むのでしょう、「自鳴琴」。その答えは各テーブルにあり。全卓に置かれているのは、手巻きのオルゴールです。客が気の向くままにネジを回せば、それぞれ違う旋律を奏でます。さぞ長いこと、この店で音を爪弾いてきたのだろう……と思いきや、『自鳴琴』の歴史はまだ4年ほどとのこと。けれど、その前に『舌れ梵』として約45年間営業していました。惜しまれながら閉店することになった時、その灯を受け継いだのが現在の店主・関まゆみさんなのです。

全てのテーブルに、それぞれ違う形のオルゴールが置かれる。
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関さんは常連客が来ると向かいに座って、コーヒーに砂糖を入れて出してあげていた。
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最初は恐れ多いと断っていましたが、「誰も継がないなら店をスケルトンにして貸し出そうか」という話が出ていることを知り、覚悟を決めた関さん。ただ、「舌れ梵という名前だけは、パパさんママさんが持ち帰りたいとのことだったので、『おるごーる』にしました。自分がやっていた店の名前なんですが、『舌れ梵』が漢字なので、私も倣ったんです」。だから「自鳴琴」になったというわけです。

「モーニングぐらいしてぇな」で誕生

名前は変わりましたが、店内を覆うドライフラワーも、煤けた天井も、シャンデリアも、当時とそのまま同じ。氷は専門の氷屋さんに頼み、牛乳は『黒川乳業』から、パンは行列ができるほど人気の『原田パン』の食パン、コーヒーは『ゴールドコーヒー』の豆を同じ配合のブレンドで。「喫茶店やから、と手を抜くことはしない」というパパさんの信念を貫いています。

モーニングのAセットは分厚いトーストにコーヒーとゆで玉子が付いて600円。トーストは、“半分ハニー”を推奨!
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ただ、大きく変わった点は、モーニングセットを始めたこと。「パパさんは頑なにモーニングはやらなかったんですが、私に変わった途端、『モーニングぐらいしてぇな』って常連さんが(笑)。だからトーストに茹で卵とコーヒーを付けてお出ししているんです」。

モーニング以外の時間もハニートーストは450円と、リーズナブルなのです。
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厚切り山食パンを香ばしく焼き上げ、たっぷりのバターをしみ込ませたトースト。「半分をハニーにできますよ」とのこと、ハニーとはハニートーストのことで、先代からの名物です。半分バター、半分ハニーという特別仕様で食べられるのは嬉しい限り。Bセットは、好きなドリンクに+200円でモーニングにできるというから太っ腹ですね。

コーヒーは昔から変わらずサイフォンで淹れる。
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さっくりふわふわのパンを噛むと、滴り落ちるぐらいのバターとハチミツがしみ出てきます。ピュアな甘さのハチミツに、バターの塩気がアクセントになり、実に調和の取れた甘じょっぱさです。コーヒーは、ジャマイカやブルーマウンテンを使った贅沢なオリジナルブレンドで、サイフォンで淹れるため味に深みがあります。

ガラス製の電燈も、煤けた漆喰の壁も、店内を埋めるドライフラワーも、何一つ変えていない。
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サービスしすぎのクリームソーダ

最近、若い女子たちに人気のクリームソーダもお見逃しなく。チェリーではなく季節ごとの果物を入れるのが特徴で、春にはイチゴの「あまおう」を1個まるまる使用。シャインマスカット、マンゴーゼリーなど、もはやフルーツポンチ並みの時もあるそうです。アイスクリームをまん丸くすくって、泡があふれないよう蓋をするように盛り付けるのもポイント。この愛らしい見た目も、先代から受け継がれてきたものです。

クリームソーダ750円。メロンシロップに炭酸を入れて作る、昔ながらのやり方。
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長年愛されてきた空間や味を受け継ぎながら、今の時代の常連客の声に応え、しなやかに変化していく。お店も街と一緒に育っていくのだなあと感じさせられる1軒です。

窓際の席は、よく撮影で使われた特等席だそうです。
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実はお店は息子の修作さん、孫の昊さんも手伝ってくれています。「こんな幸せなことはないですね」と関さん。
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店内にも表にも花がいっぱいで、店主の優しい人柄が溢れているよう。
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