『パティシエ エス コヤマ』の小山ロール [兵庫] 普遍的なおいしさを追求したスペシャリテ

ふんわり、しっとり、もっちり。玉子とハチミツの甘い香りとともに、きめ細やかなスポンジ生地が舌の上で消えてゆく。生地と絶妙のバランスのクリームが贅沢な余韻を残し、栗のコンポートがほっくり。
何度食べても、その度に素直に「おいしい」と思う喜びを与えてくれる。
2000年代のロールケーキブームを牽引してきた小山 進シェフの「小山ロール」。誕生から四半世紀を迎えたいま、改めて、『パティシエ エス コヤマ』のスペシャリテについてお話を伺った。

名作・小山ロールが生まれるまで

名作の種が芽吹いたのは、小山シェフが独立する前、『スイス菓子 ハイジ』の商品開発をしていた時代に遡る。ハチミツをたっぷり使ったふわふわの生地に、カスタードクリームの入ったドーム型のお菓子「ゲルべバルーン」を生み出した。
当時としては会心の出来だったが、2000年の独立後にもう一度このお菓子を再考。そのとき、「いちいち型を使わなくても、シートで焼いてロール状にしたらいいんじゃないかと思ったんです」。
ゲルべバルーンの生地が、後の小山ロールの生地の原点となったのだ。

さらにロールケーキは、洋菓子屋の定番アイテム。誰もが食べたことのあるケーキだからこそ、味の比較がしやすいというもの。そこでシェフがイメージしたのは、シンプルで懐かしく、誰もが幸せな気持ちになれるもの――日本人が大好きな「ふっくらとおいしく炊きあがったご飯」のようなお菓子だ。バンドマンでもあるシェフは、その味を普遍的に愛される音楽、即ち“究極のポップス”と表現する。

配合だけでなく、素材の温度やミキサー回転速度に至るまで、緻密な試行錯誤を繰り返した。ロールケーキが世に出たのは、2001年に人気番組「テレビチャンピオン」に出場したときのこと。ようやくレシピの土台ができた頃だった。
「味覚部門」で100人の審査員にケーキを出す際、シェフが勝負しようと考えた相手は、ほかの出場者ではなく、審査員がこれまでに食べてきた味だったという。
結果、85人の票を獲得し見事1位に。「これは成功やと思いました」。普遍的なおいしさの正解が見えた瞬間だ。

そして着想から3年、一切妥協のない「究極のレシピ」が完成した。

小山ロールとマイルドショコラ
小山ロール1890円。右は冬季限定(2026年の販売は3月15日まで)小山ロール マイルドショコラ2106円。小山ロールの一番のファンはシェフ自身。期間限定の小山ロールを作ることはあるけれど、プレーンをベースにしているという軸はぶれない。
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小山ロールに大行列。なぜ、都会ではなく三田なのか

2003年、兵庫・三田に『パティシエ エス コヤマ』がオープンするや否や大行列ができた。初日から店を囲むように2000人が並び、400本が即完売。
田園風景の中に現れた、店へと続く車の列はきっと異様な光景だったに違いない。

都会でなく、なぜ三田に? 誰もが抱く疑問だろう。

「実はもともと、店舗じゃなくてショールームのつもりだったんです。『ハイジ』時代から開発をしていたから、独立後は企業向けの商品開発や売り方の提案をしようと思っていました。
企業の方々に考え方やディスプレイ方法を伝える為の場所にして、少し買い物もできるようにしようと。
売れるものを提案するのがコンサルティングだから、流行ってないと困るんだけど、繁盛させようなんて全く思ってなかったんです」と小山シェフ。全国からお客が押し寄せるとは「完全に読み間違えました」と笑いながら当時を振り返る。

「本来、商売ではなく、研究がしたい人間なんです」と、現在も1年の半分以上を試作に充てる小山シェフ。
緑豊かな三田を選んだのは、インプットが十分にできる環境を望んだからだった。シェフの創作の原点には、昆虫や恐竜など、大好きなものから得たワクワクがあり、その発見や面白さを伝えたいという思いをお菓子に映す。だからこそ、『エスコヤマ』のお菓子は食べたときに楽しくなるのだ。

小山 進シェフ
小山 進シェフ。『エスコヤマ』のesは無意識の欲求を意味する。想像を超えた驚きと感動を与え、また食べたくなるロールケーキを目指した。
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ショップの中心のディスプレイは、小山シェフが好きなもの(昆虫、恐竜、音楽など)がお菓子へと繋がっていることをイメージして作ったシンポリックなオブジェ。
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レシピは変わらないのに進化する理由

小山ロールの最大の特徴は、通常では考えられないほどの牛乳をたっぷりと加えていること。オーブンの中で、生地の水分で蒸し焼き状態になることで、あの夢のようにふわふわのスポンジができあがる。

しかし、日本には四季がある。湿度の変化の大きい国で、水分の多い生地を使った商品を安定した品質で作るのは、簡単なことではない。 「普通なら、粉の量を変えたりするんですよ。でも僕はこの味が好きだから、レシピは変えたくなかったんです」。

そこで変えたのはオーブンだ。
九州のメーカーと共に、“小山ロールを上手に焼くための超高性能オーブン”を開発したのだ。シェフが改良の具体的なイメージを伝え、熱線の位置、排気量、気密性など、とことんディスカッションを繰り返す。約2年ごとにオーブンを入れ替え、そのたびに小山ロールも進化していった。生地の気泡の大きさにまでこだわった現在の小山ロールが完成したのは、2010年頃のことだ。

小山ロール=『エスコヤマ』の指針

小山ロール誕生から約25年。改めて、シェフにとってどんな存在なのだろう。

「小山ロールは、『エスコヤマ』のクオリティ指針になっています。どの商品より時間をかけ、実験を繰り返してきました。そのときの自分は良いと思っても、毎日見ているとまた可能性が見えてくる。同じレシピなのに、こんなにも深堀りができるということを学びました。だから、他の商品でも同じように考えることは多いんです。『エスコヤマ』が世に出すなら、このくらいのレベルにしないと嫌や、という指針が小山ロールなんです」。

小山ロール
「若いスタッフたちのパティシエ人生にとっても、小山ロールがクオリティの軸になってくれたらいいなと思います。作り方だけではなく、成り立ちや意味、味や質感の着地点…いろんなことが学べるはず」と小山シェフ。
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フォークは縦に、手で食べてOK

小山ロールは生地を楽しむケーキだ。ふわふわの状態で食べるのがベスト、そしてマストである。カットするときは薄手の包丁を熱湯で温め、しっかり水分をふき取って切ると美しい断面に。
「フォークを使うなら上からそっと刺してほしいんです。横にして生地を切ると、気泡が潰れてしまうから。本当は、カットした一片を手で持って口まで運んでもらいたい。そうすると、生地のほぐれ方がわかってもらえると思います」と小山シェフ。
大胆に食べてこそ、真骨頂がわかるロールケーキなのだ。

小山ロールが買える場所

賞味期限1日。出来立てを食べてもらいたいから、配送対応はしていない。

購入するには三田の店舗に行くしかないのだが、オンライン予約をしておけば、店舗併設の「ギフトサロン」にてスムーズに受け取ることができる。また、週末は並ぶかもしれないが、予約なしで当日購入も可能だ。

スイーツのテーマパークとも呼ばれる敷地内のカフェ『hanare』なら、出来立ての小山ロールを食べることができる。せっかく三田まできたのだから、まずはここでいただいて、ここぞというときの手土産に小山ロールを買って帰ろう。

敷地内には、カフェやチョコレート専門店など、複数の施設が。生菓子やロールケーキは、購入後に冷蔵庫で預かってもらうこともできるので、安心してあちこち見て回れる。実は施設ごとにテーマソングが異なるというのもテーマパークらしい楽しみ。
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小山シェフ作の絵本にも登場するビートルくんがお出迎え。
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amakara.jp編集部

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関西の食雑誌「あまから手帖」(1984年創刊)から生まれたwebメディア「amakara.jp」を運営。カジュアル系からハレの日仕様まで、素敵なお店ならジャンルを問わず。お腹がすくエンタメも大好物。次の食事が楽しみになるようなワクワクするネタを日々発信中。