終電まで積もる話に花を咲かせて。京都『喫茶百景』

いまや観光スポットとなった錦市場の脇に2019年にオープン。以来、夜は連日満席のにぎわいを見せる『喫茶百景(きっさひゃっけい)』。繁華街ど真ん中にあって、うっかりすると見過ごしそうなビルの階上に、大らかな憩いの空間が隠れていようとはよもや思うまじ。夜更けにも、丁寧に淹れたコーヒー片手にくつろげる、とっておきのチルアウトスポットをご紹介。

錦市場の喧騒に隠れた深夜の拠り所

国内外の観光客がひしめき合う錦市場から、ほんの少し外れた古いビル。ポツンと「百景」の看板がかかるだけの階段を上ると、ちょっと怪しげな黒い扉。初めてなら気後れするかもしれないが、扉の向こうには思いがけず和める空間が広がっている。

京都・錦市場『喫茶百景(きっさひゃっけい)』看板
錦市場横のビル奥に潜む、秘密めいたロケーション。
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「夜遅くでも、丁寧に淹れたコーヒーを楽しんでいただきたい」というオーナーの高田翔平さんは、木屋町の人気コーヒー店『Elephant Factory Coffee』で4年の経験を積んで独立。こだわりのコーヒーを深夜まで供する、修業先の流れを汲む店は、界隈では数少ない夜の拠り所として新たな支持を得てきた。

横に細長い店内は、無骨な天井のコンクリートや配管はそのままに、アンティークの家具を配した、レトロモダンな雰囲気。それゆえに、随所に個性的な照明のデザインや温かい光がモノトーンの空間に映える。カウンターを中心にスコンと抜けたフロア、あえて作り込み過ぎない抜け感が、心地よい開放感を醸し出す。

京都・錦市場『喫茶百景(きっさひゃっけい)』内観
夜になるといっそう温かみを増す照明は、すべてオリジナルのデザイン。通りを見下ろせる、窓際のカウンター席が人気。
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コーヒーは市内のロースターから吟味

開店にあたり吟味したコーヒーは、京都市内のロースターに特注したオリジナルブレンド。ドリップコーヒーには、西陣の老舗『自家焙煎珈琲ガロ』、カフェオレには三条の『喫茶葦島』の豆をそれぞれ使い分ける。看板の百景ブレンドは、マイルド、ミディアム、ストロングの3種を提案。濃密な苦味とコクが染み入る深煎りが人気だ。とはいえ、ブレンド・ミディアムは、滑らかな口当たりと共に広がるビターな香味は、まろやかにして後味のキレが軽やか。後を引くふわりと香ばしい余韻は、夜更けに似つかわしい。

京都・錦市場『喫茶百景(きっさひゃっけい)』ドリップ
ドリップは『珈琲専門店ガロ』直伝。ゆっくり細く湯を注ぐことで、豆の持ち味を余す所なく引き出す。
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コーヒーが主役のメニューだが、実は紅茶も市内の紅茶専門店『ミスリム』から個性派をセレクト。定番のアールグレイのほか、湯気にも芳しい香りが満ちるシナモン、花の香りが清々しい半発酵のフルードランジェと、印象的なフレーバーが好評だ。

スイーツは、小ぶりながら、それぞれ濃密な味わいを凝縮したチーズケーキとチョコレートケーキの2種。とりわけ、開店以来定番のチーズケーキは、当初のベイクドタイプからレアタイプに改良。トロっと溶けるミルキーな甘みは、ペアリングを選ばない。

京都・錦市場『喫茶百景(きっさひゃっけい)』シナモン
立ち上る華やかな芳香が印象的なシナモン900円。紅茶はポットでたっぷりと提供。
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京都・錦市場『喫茶百景(きっさひゃっけい)』ブレンド・ミディアム
ブレンド・ミディアム750円。香ばしい苦味とクリーンな後味で飽きの来ない味わい。チーズケーキ600円はババロアのようなふよふよした食感と、トロっと溶けるコクのある甘みが後を引く。
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会話に花咲くチルアウトスポット

カウンターとフロアがフラットにつながった店内は、お客とスタッフの距離感も近く、どこか気の置けない空気はカフェというより喫茶店にも通じる大らかさが漂う。

「お客さんが多いのは夕食後の時間帯。この辺りは夜遅くまで開いてるコーヒー店は少ないので、2、3人でおしゃべりしながらゆっくりしていく方が多い」とは、さもありなん。時には、本を片手に過ごす一人客の姿も。少々長居になっても、コーヒーは2杯目以降が200円引きのサービスが嬉しい限り。

気兼ねなく話に花を咲かせることができるのも、人気の理由の一つだろう。近年、河原町から西側へにぎわいが広がる界隈で、絶妙な立地にあって終電までくつろげるチルアウトスポット。積もる話が尽きないなら、ここに来るのが正解だ。

京都・錦市場『喫茶百景(きっさひゃっけい)』外観
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特集「20時からの楽しみ」

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writer

田中慶一

KEIICHI TANAKA

学生時代からのコーヒー好きが高じて、全国各地で訪れた喫茶店・カフェは1000軒超。老舗喫茶から最新のコーヒーショップまで取材に携わり、情報誌を中心に執筆多数。関西の喫茶店の系譜を辿った著書も刊行。