
目利きのプロに聞く、栗の魅力と旬のこと【後編】『伊勢吉』松井 公保さん
品種や収穫時期で味や香りが違うことを教えてもらい、栗への興味は深まるばかり。そろそろ食べたくなってきた。では、自分で栗を買うときはどこを見たらいいの? 後編はそんな疑問の答えから。
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栗を選ぶときはどこを見る?
ダンボールや添え札にはサイズや産地が記されているものもあった。そうしたニーズも、もちろんあるのだろう。
「サイズも用途に合わせて選ぶといいと思います。一粒丸ごと使うようなお菓子の場合は、大きければいいというものでもありません。
大きすぎると個包装のケースに収まらへんし、逆に中身が二つに分かれている場合もありますしね。一方、ペーストなどに加工して使う場合は、大きいサイズだと同じ10kg分でも栗を剥く手数が少なくて済みますし、中が分かれていても問題ないですから」
ご家庭用にスーパーや百貨店、産直広場で購入する際や栗拾いをする際は、どの品種であっても以下の点に気を付けて。
・鬼皮にツヤのあるものを選ぶと良い
・木から落ちているのが熟しているサイン
・乾燥は大敵!すぐに使うか、ビニールに入れて冷蔵保存
・虫が栗を食べて脱出した穴が鬼皮に開いてないかをチェック
・水に浮くものは虫食いor中身が痩せているので調理前に取り除く
「丹波栗」という品種は無い
「よく『丹波栗』という名前を聞きますよね。高級栗として有名ですが、実はこれ、品種名ではないんです」と松井さん。
丹波栗とは、丹波地方(兵庫県と京都府の一部)で栽培される大粒で良質な栗の総称。つまり、産地と品質を示すブランド名なのだ。
「『丹波栗』や『丹波くり』と呼ばれるブランドの品種として多いのは、『銀寄』や『筑波』です。この箱の中にも2種類混ざっていますが、これは量が足りなくて混ぜている訳ではなくて、そもそも栗の畑では2種類以上の品種を混植しているからなんです」
栗は自分の花粉では実をつけにくい性質があり、異なる品種の花粉と交配することで、初めて立派な実が育つという。だから農家さんは、計画的に複数の品種を植えて、お互いに受粉しやすい環境を作っているのだ。
「個人の農家さんだと、サイズや品種を選別して箱詰めしてくれているところもありますが、混ざっている方が自然なスタイル。仲買人は、バラつきや傷みを確認し、それも踏まえて競りに参加しています」
おいしい栗スイーツにおなりなさい
この日の競りは約20分間の勝負。
ピカピカの栗たちがコンベアの上をあれよあれよという速さで流れていく。
次に控えているあの箱は、松井さんが下見で目をつけていた上物じゃなかろうか。
この日の最高値は丹波産の銀寄栗10kgあたり3万5000円…!
どうやら、松井さんも今日一番のお目当てを無事、競り落とせたようだ。
ここからは急いで、和菓子屋さんやパティスリー、レストランへと運ばれる。
「栗は厚い鬼皮に守られているので、やわらかいフルーツのように今日明日で傷んで台無しになるということはありませんが、やはり果物ですから鮮度が命です!」
嗚呼、私たちが品種を気にせずともおいしい栗スイーツに出合えていたのは、この人たちの努力のお陰だったのだ…!
競りが終わる頃には、可愛い栗ん子たちの旅立ちを見守る親戚のような謎の心境になってしまった取材チーム。
おいしいスイーツになって、みんなに愛されるんだぞー!
と心の中でハンカチを振りながら、市場を後にしたのであった。
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いちごやぶどうの品種は言えるのに、栗に対してはあまりに解像度が低くないか!?
栗のことを知りたくて、栗の目利きのプロを訪ねてみた。
writer
かがたにのりこ
kagataninoriko
月に2度、あんこを炊くあんこ熱愛ライター。各種媒体での和菓子に関するインタビュー記事やコラムを執筆。ライティングの他にも、あんこの食べ比べワークショップや、和菓子イベントのコーディネート、商品プロデュースなど活動は多岐にわたる。
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